196:イエロートレント
「しかしトレントか……あの姿から察するに、フロアに居る他の魔物を自分の体や周囲に留めて、実質的なトーチカを作り上げる魔物って事か?」
『ブン。そうなると思います。ただ、トレント種が具体的にどのような魔物なのかは……コメントの方に情報が来てますね』
「どれどれっと」
俺は露天部分に決して踏み込まないように気を付けつつフロア8の探索を進めていく。
幸いにして緋炭石、鉄・電撃、鋼・電撃と言った今後のために欲しいマテリアルタワーは手に入っているので、エレベーターが見つかり次第フロア9でいいだろう。
が、それはそれとして、イエロートレントの圧力が凄まじい。
「ああなるほど。やっぱり歩くトーチカなのか。で、半露天のこのフロアでの遭遇はまだ運がいい方だったと」
『ブン。完全な露天ならば、あっという間に近寄ってくるようです』
「まあ、歩幅が明らかに違うからな」
配信に来たコメントによれば、トレント種は同じフロアに要る他の魔物を集めて、自分の体や周囲に住まわせる。
そして、プレイヤーが近づくと、一斉に襲い掛かってくるらしい。
つまり、数の暴力を仕掛けてくる魔物……ではなく、トレント自身のスペックも高いし、その巨体を利用しての回り込み、高所にある枝に銃持ちの亜人を立たせての射撃などもあるため、正に生きたトーチカ、歩くトーチカであるようだ。
よって、間違ってもソロで戦うような相手ではない。
「と言うか、敵の構成的にも本当に幸運なパターンではあるな」
『ブーン? どういう意味ですか?』
まあ、それでも今回はかなり運がいい方だった。
「トレントはサイズが大きいから、露天から坑道には移動できない。坑道に居るトレントも、サイズの都合上、別の部屋には移動できない。よって近づかなければ無害だ」
『ブン。そうですね』
「バーナコも同様で、ツリホッパは単独では脅威ではない。つまり、このフロアで徘徊する魔物は実質的にデイムビーただ一種になってる。そして、そのデイムビーも武器持ちの亜人種だから、武器を奪う事で比較的楽に戦える。これはかなりの幸運だろ」
『ブーン……言われてみればそうですね』
なにせ、敵の構成のおかげで、ここまで殆ど戦闘をせずに済んでいるのだから。
『ブブ。ところでトビィ。仮に露天部分へと出ざるを得なくなった場合にはどうしますか?』
「その場合は……まあ、煙幕張って、ツリホッパが居ないことをお祈りだろうなぁ……」
『ブーン。やはりそうなりますか』
なお、露天に出た場合には、たぶんだがこちらの位置を把握された時点で四方八方からバーナコの砲撃が飛んでくる。
場合によってはバーナコを腕に沢山つけたトレントが、ガトリングガンのように砲撃を撃ち込んでくるかもしれない。
デイムビーの狙撃も山のように飛んでくるだろうし……。
まあ、祈るしかないな。
そうなったら、どうしようもない。
「お、緋炭石」
そんな会話をしつつ暫く。
俺はマテリアルタワーを回収しつつ、更に探索を進めていく。
デイムビーたちを倒し、バーナコだけだった集団を倒し、順調に探索を進めていくが……次のフロアに向かうエレベーターが見つからない。
これは……フラグだったか?
で、フラグは現実のものになってしまった。
「……。また酷い位置にあるな……」
『ブブ……回り込んで倒してきますか?』
「流石にそんな蛮勇は犯せないな……」
ようやく見つけたエレベーターの周囲には、見える範囲には敵影は無かった。
が、露天であり、二方向からフル武装状態と言ってもいいトレントから見られていそうな場所だった。
ついでに言えば、フロア8では一度もツリホッパを見かけていないので、仮に目の前の空間にツリホッパが隠れていた場合、隠れているのを見つけられるかと言われたら……少し怪しい。
「ふぅ。ま、お祈りだ……な!」
俺は特殊弾『煙幕発生』を発動した上でグレネードを投げ、爆発、煙幕を生じさせる。
そして、二重推進で突っ込み、素早くエレベーターに入り込んで起動。
これで後は他の魔物が入り込んでこなければ、無事に次のフロアに行けるわけだが……。
「ブフウゥ!?」
『トビィ!?』
どうやらそう上手くはいかないらしい。
エレベーターが降下し始めると同時に、頭上からバーナコの砲撃が降り注ぎ、シールドが一気に削り取られる。
たぶんだが、煙幕の発生と空に居たデイムビーと何処かに居たツリホッパの連携観測でこちらの存在を気取られたな。
「大……丈夫だ。あぶなぁ!?」
次々に砲弾が降ってくる。
数が数だけに、流石に狙いは粗い。
そして、サーディンダートとグレネードを投げつける事で、着弾する前に砲弾を爆発させる事は出来ている。
が、バーナコの砲弾は酸性。
よってだ。
「っう……回復は間に合うか? これ……」
『ブブ……次のフロアにつき次第、地面を転がるなどして、液を少しでも落とすべきだと思います』
俺のシールドゲージは最初の直撃を食らった時のように勢いよく削れていく。
それでも削られる程度に済んでいるのは、アドオン『広域攻撃耐性』とヒールバンテージによる回復のおかげだと思うが……。
痛い被害だ。
それでもシールドを削られただけで済むなら、幸運だと思っておこう。
「さてフロア9……げっ」
『ブ……』
やがて俺の視界にフロア9が入ってきた。
で、見えたのは……黄色と橙色を主体とした生物たちの群れだった。