195:イエローデイムビー
「「「ブ……ブブ……」」」
「これだけやって4割か。本当にイエローの魔物は堅い」
俺は『昴』が遠くに飛んで行くのを見つつ、デイムビーたちのシールドの状態を確認。
一番ダメージを受けているのはランス持ちで、残り60%前後。
ライフル持ちの二体はどちらも残り90%程度。
相応の攻撃を撃ち込んだはずだが、それでこの程度とは……ランクの上昇に伴うシールドの量の増加は本当に厄介だ。
「せいっ!」
「ブ……!?」
「ブン……ZZZ」
「ブブン!」
だが、戦闘が始まった以上は倒すしかないし、増援が来る前に倒さなければ、こちらの命がない。
俺は特殊弾『影縄縛り』を発動する事によってライフル持ちの片方を拘束しつつ、特殊弾『睡眠』を発動したサーディンダートをもう片方のライフル持ちに当てる事で眠らせる。
その間にランス持ちが体勢を立て直して、ランスを横に振ってきたので、こちらは高速しゃがみからの横っ跳びで回避。
「流石に余裕がないんでな。利用できるものは利用させてもらう」
跳んだ先にあるのは眠らせたライフル持ちが持っていたスナイパーライフル。
大型で、しっかりと構えて撃たなければ、撃った当人が脱臼しかねないような銃だ。
だが、反動が強烈という事はそれだけ威力もあるという事。
「ふんっ!」
「ビギュ!?」
という訳で、俺は左腕でライフルを構えると、もう一体のライフル持ちの胸部目掛けて接射。
轟音と共に弾丸が放たれ、ライフル持ちのシールドゲージが一気に半分以上吹き飛ぶ。
そして、ライフル発射の反動で左腕は勢いよく後方に向かって逸れていき……。
「ゴギュ!?」
腰の回転、腕の伸ばし、関節からの敢えての力抜き、反動を殺すのではなくもろに受ける、と言った事柄を組み合わせることで、ライフルの弾と遜色がないような速さでライフル本体も動き、フレイルのような動きでもってランス持ちの頭部を強打する。
結果、ライフル本体が鉄でも鋼でも無い金属……恐らくはチタン製であったこともあってか、俺が自分の手で殴るよりもはるかに強い衝撃がランス持ちに与えられて、シールドは残り10%未満。
「いい感じだ。じゃ、ガンガンやってやるよ」
「「ブ……ブブゥ!」」
そして何より重要な事として、どちらのデイムビーも大きすぎるダメージの為か、シールドで無かった事にしてもなお怯んでいる。
このチャンスを見逃す手はない。
俺は手首を回転させるようにしてライフルの位置と向きを調整すると、再発射。
再びライフル持ちの胴体を撃ち抜き、ランス持ちを銃床で殴打。
「ふんっ!」
「ビギュ……」
「せいっ!」
「ブブ……」
続けてシールドゲージが尽きたランス持ちの首を踏みつけてへし折り、トドメを刺す。
そして、ライフル持ちの銃弾を避けた上で、接近。
ちょうど帰ってきた右手の『昴』でライフル持ちの首を刺し貫いてシールドを破壊し、即座に眠っている元ライフル持ちに向かってライフルを撃ち、その反動で加速したライフルの銃床によってライフル持ちにトドメを刺す。
「ブ、ブ……ブブブ……」
「来いよ。魔物ってのは武器がない程度で諦める存在じゃないだろ?」
これで残すは武器を奪われた上に、最悪の目覚ましによって残りシールド10%以下になったイエローデイムビーのみ。
徒手空拳となったデイムビーは格闘戦での構えを見せる。
対する俺も左腕に『昴』とライフルを収納した上で、格闘戦の構えを取る。
「ブン!」
デイムビーが殴りかかってくる……と見せかけて蹴りかかり、それすらも囮として尾部の針を俺へと向けてくる。
「ハハッ! そうでないとな!」
対する俺は殴りには注意も向けず、蹴りは最低限の動作で避け、針は向けられた瞬間に床を蹴って飛び上がる事で、針先に自分が居ないようにした。
「ブン!」
直後、轟音と共に針が突き出され、衝撃波と毒液が撒き散らされ、余波だけで俺のシールドゲージが幾らか、デイムビーの残り僅かだったシールドゲージが消滅する。
「おらあっ!」
そして俺の左拳が振り下ろされ、仕込んだ『昴』とライフルが突き出され、ライフルが発射されて、デイムビーは原形を留めないレベルで粉砕。
所有物であったライフルと共に消滅していった。
≪生物系マテリアル:甲殻・電撃を1個回収しました≫
≪生物系マテリアル:肉・電撃を1個回収しました≫
≪設計図:デイムビーライフルを回収しました≫
「よし、相手の武器を奪えるパターンなら、まだ何とかはなるな」
『ブン。そうですね』
戦闘終了。
イエローのランクの魔物は間違いなく格上だが、デイムビーのような亜人系の魔物は武器を持っているので、それを利用する事で十分に火力を補え、戦えるようだ。
まあ、この戦術はイエローどころかブラックのランクであるプラヌライの騎士にも通用した戦術なので、有効であるのは当然なのかもしれないが。
「じゃ、逃げるぞ」
『ブン。戦闘音を聞きつけて、他の魔物が迫ってきているはずですからね』
なんにせよ、相手に武器が利用できる限りは格上でも何とかはなる。
逆に言えば、相手の武器を利用できないとなると、一気に火力不足が深刻になるわけだが……。
その時は逃げるだけだな。
とりあえず今は逃げる。
俺は通路を駆け、戦闘場所から離れるように別の部屋へと向かっていく。
「……」
そして坑道予測に出ていなかった魔物を見つけた。
『ブ、ブブ……』
そいつは屋外……別のビルの屋上に居た。
木の肌を持ち、ランクの色に合わせた黄色の葉っぱを付けた、巨人の姿をした木の魔物。
イエロートレントだ。
「いやあれは無理。戦えない。歩くトーチカみたいなものだろ、アレは」
『ブ、ブン。トビィに同意します』
そして、イエロートレントの枝と幹には何体ものイエローバーナコが固着していて、周囲にはイエローデイムビーが何体も飛び交っていた。
他の魔物との比較で考える限り、相手のサイズは十数メートル。
サイズを抜きにしても、保有戦力から見て、今の俺が戦えるような相手ではない。
俺は見つからないように逃げ出した。
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