192:イエロートリカブト
「よし」
イエロートリカブトの根元に落ちたグレネードが爆発し、爆発音が周囲へと響く。
『ダメージは……20%程度でしょうか。どうやら、攻撃能力の高さ故に耐久力は控えめなようです』
爆炎の向こうから現れたイエロートリカブトのシールドは確かに20%程度減っている。
ただ、イエローのランクらしく、シールドゲージは既に回復を始めている。
つまり、倒すためには連続でグレネードを当て続ける必要があるわけだが……まあ、出来なくはないな。
後、気にするべき事としてはだ。
「背後から魔物たちは……来てないな」
『ブン。来てませんね。ですが、代わりに部屋を通る形で来ています』
「そっちからか。じゃあ、検証になるな」
「「「ゴオォ!」」」
「「「ブブブ!」」」
爆発音を聞きつけた魔物がどう動くかが気になるところだったが、どうやら背後からではなく部屋の中を通ってこっちに向かってきてくれるようだ。
数は……12、ライムゴート、イエローゴート、ライムホーネット、イエローホーネットの混合編成だ。
彼らは次々に部屋の中へ入ってくると、俺の姿を見つけて迫ってくる。
勿論、トリカブトの毒によってシールドゲージを勢い良く減らしながらだ。
『検証をするには数が……いえ、そうでもなさそうですね』
「そもそも検証したいのはトリカブトの毒がどれほど強烈であるかと、それが魔物に有効であるかと、それを見た他の魔物がどう反応するかの三点だったからな。サンプルが多かったら、逃げるだけだ」
「「「ーーーーー!?」」」
それに対して俺はグレネードを投げて牽制し、動きを鈍らせる。
すると、ゴートとホーネットがグレネードによる攻撃を嫌がって、まごつき、そうしている間にもシールドは削られていき……シールドが尽きた個体から倒れ、数度震えてから死亡判定が出て消えていく。
どうやらトリカブトの毒は魔物にも有効で、しかもシールドが尽きた時点で死亡が確定するような猛毒であるらしい。
さきほど部屋に入った時に俺のシールドが削られていたことを考えると、ゴーレム……いや、無機物にも有効であると見ていいだろう。
ここから、グレネードのような使い切りの武装は問題ないが、『昴』のような何度も使う武装を効果範囲内に投げ込むのはリスキーである事も予想できる。
「後続は……来ないか。まあ、死にに行くようなものだしな」
『ブン。どうやら敵を処理するのに有効な手段ではあるようですね。ブブ、しかしトビィ、この手段ではマテリアルや設計図の類は手に入らないようです』
「まあ、同士討ちの一種だろうしな。そこは仕方がない」
そして、さっきのが幾つのグループだったのかは分からないが、後続が入ってこない辺り、他の魔物たちはこの部屋は危険なエリアであり、目的を達成するためには迂回するしかないと学習したことが窺える。
となれば、そう遠くない内に背後から魔物が来るな。
「じゃあ、本命行くか」
『ブン。分かりました』
俺はグレネードを一定の間隔でイエロートリカブトの根元へと投げ込んでいく。
正確に、前の爆発の影響も考慮しつつ、淡々と投げていく。
「モシェ……」
「よし」
そして七回グレネードを投げ込んだところでシールドが割れ、これまで声一つ発さなかったイエロートリカブトが微かに鳴く。
で、特徴的な形をした花の中身を俺の方へ向けようとしたが……その前に八個目のグレネードが爆発して、討伐。
イエロートリカブトの花は消滅した。
≪設計図:トリカブトヘッドを回収しました≫
『トビィ!』
「ん? うわぁ……死してなおって事か……生きてる時よりだいぶマシみたいだが……」
と同時に俺のシールドゲージが減り始めたため、ヒールバンテージを起動して相殺する。
どうやらトリカブト種は倒さなければ実質的に部屋を封鎖し、倒したら倒したで、毒をばらまいて消耗を強いて来るらしい。
実にいやらしい魔物である。
ただ、それほど強力な魔物なら設計図にも期待……いや、なんとなくだが、きちんと対策をしてからでないと自爆にしかならない気がしてきたな。
強力ではあるんだろうけど、自分の毒に自分でかかって死ぬぐらいはあり得そうな気がする。
「とりあえず次の部屋に急いで向かうぞ。存在しないトリカブトの残り香がどれぐらい有効かは分からないしな」
『ブン。そうですね』
まあ、設計図の詳細確認は現地ラボにたどり着いてからだ。
俺はイエロートリカブトが居た部屋に入ると、シールドゲージが削れない=部屋の中の俺が認識できていない位置にトリカブト種が居なさそうなことを確認すると、次の通路まで素早く駆けていく。
そして、無事に通路の前にたどり着いたら、魔物が見える範囲に居ないことを確認。
さらに奥へと向かっていく。
「さて、見慣れないマテリアルタワーの前まで来たな」
『ブン。そうですね』
そうして魔物に遭遇しないように奥へ向かうこと暫く。
俺はフロア7のスタート地点から見えていた、茶色に近い色を持つ半透明のマテリアルタワーの前に立った。
さて、このマテリアルタワーは何なのか、まずは手をかざして調べてみるが……。
「琥珀か。もしかして宝石系マテリアルって奴か?」
『ブーン……どうなのでしょう?』
どうやら琥珀・電撃のマテリアルタワーであるらしい。
どうしてかティガが悩んでいるが、とりあえずは回収してしまおう。
俺は左腕に『昴』を装填すると、構えた。
ちなみにですが、魔物の中にはDoT無効の魔物も居ますので、そう言うのが居るとトリカブトの凶悪さはさらに増します。