190:イエロートロール
「フロア7は……オフィスに近い感じか」
『ブン。全体的な様式としてはそうなります』
俺が降りたフロア7は属性的には電撃属性になるのだが、それ以外の部分に特徴的な場所が多い。
まず、部屋の様式はビルのワンフロアを大半使ったようなオフィスになっており、机やパーテーションによる遮蔽物が幾らかと、罠であろう放電現象を時々起こしているパソコンが置かれている。
ただ、天井の高さに関しては大型の魔物の活動も考慮してか、5メートル少しはあるようだ。
後、この部屋には敵影はない。
「で、これが半露天って奴だな」
俺は嵌め殺しになっている窓に近づくと、そこから外の様子を窺う。
下は奈落で、落ちれば即死だろう。
上は稲光が見える黒雲で、それ以上進めない事を示す天井の代わりだろう。
横を見れば複数のビルと、ビル同士を繋ぐ空中回廊と共に、ビル間を飛び交うライムホーネットとイエローホーネットの集団が見える。
ちなみに横の果ては上下と同じく黒一色に染まった闇。
『ブン。トビィが今居る部屋は屋内の扱いですが、窓の向こうは露天扱いです。魔物の行動もトビィの位置によって変わると思われますので、気を付けてください』
注意事項としては、ビルと空中回廊の中には半壊していて、天井や壁が失われているものもある事だろうか。
ティガの注意通りなら、この半壊している部分は屋外扱いとなり、今はガラス越しであるから近づいてこないホーネットたちが、入った途端に殺到してくる可能性もある。
なので迂闊には踏み込めないな。
「んー……トロールとゴートは見えるが……もう一体が見えないな」
『ブブ。この距離からよく分かりますね』
更に観察。
フロア6.5の坑道予測では、フロア7に出現する魔物はホーネット、トロール、ゴート、???になっていた。
窓から外を確認した限り、ホーネットは元気に飛び回っているし、トロールは単独でビルの内外を巡回しているし、ゴートは崖際を中心として集団行動しているように見える。
しかし、???に入る未知の魔物の姿は見えない。
距離があるから見えていないのか、魔物だと認識できていないのか、何かしらの能力なのかは分からないが、警戒は強めておいた方がよさそうだ。
「マテリアルタワーは……屋外はグレネードで適当に回収するのが限界だろうな」
『ブン。屋外に出て回収するのは流石に止めた方がいいと思います』
ついでにマテリアルタワーも幾つか見つけた。
その内の一つは茶色っぽい感じで見慣れないマテリアルな気がするので回収しておきたいが……無茶は出来ないな。
なにせ、フロア7の魔物はライムとイエローのランクなわけだし。
「グマァ……」
「さて来たか」
『ブン。来ましたね』
そして俺が観察をしている間に、俺が居るビルの別フロアからトロールがやってきたらしい。
鋼製と思しき防具と、鉄ではないが近い色合いに思える大砲を抱えたイエロートロールがオフィスに入ってくる。
不意打ちは……出来ないな。
既に俺を視界の真正面に捉えている。
「グマァ!」
イエロートロールが大砲を両手で構えて撃つ。
認識加速が発動し、轟音と共に大砲の口径に見合った金属球が俺に向かって飛んでくるのが見える。
さて、この音で近くにいる連中が寄ってきかねないし、急ぐか。
「ふっ……」
「!?」
俺は二重推進で大砲の弾を紙一重で避けつつ接近。
まずは掌底からの『昴』射出で、防具の隙間を狙い撃つように攻撃。
これでシールドゲージの削りは……20%未満。
そして、僅かではあるが、直ぐに回復が始まっている。
「せいっ!」
「グマァ!」
なので俺はトロールの目の前を薙ぎ払う腕の一撃を飛び上がって回避しつつ、後頭部に連続攻撃を加える。
するとトロールは頭に取り付く俺を振り払おうと暴れ回るので、一度距離を取り……直ぐに振り払い動作のために対応がおざなりになっている足元へと再びの『昴』撃ち込み。
ついでに足払いも仕掛けて、『昴』射出で体勢が崩れかけたトロールを転ばせておく。
「やっぱり効率的にはこれが一番……か!」
『ブ……』
「グマッ!?」
で、ちょうどよくトロールの臀部が目の前に来たので……まあ、ドリルぶち込みからの『昴』射出で一気にシールドを削り取っていき、殴りつつの引き抜きでシールドが割れた。
しかし……イベントの時は数の暴力とイエローナイダリアの反撃利用で容易に倒せていたが、俺単独では、此処までやってなお、ようやくシールドを割れる程度か。
やはりイエローになると一対一ですら容易ではなくなってくるな。
そして、まだ倒したわけではない。
「グマアアッ!」
「っ、と、よっと。しかし、トドメを刺すのも容易じゃないな」
俺は大砲を避け、トロールの腕を躱し、トドメを刺すべく兜越しに殴る……が、この攻撃を受けてもトロールは怯まない。
それどころか、シールドを割られただけで死んだわけじゃないと言わんばかりにトロールは冷静に暴れ、大砲を撃ち、追撃をさせてくれない。
だが、時間をかけすぎるのも拙いだろう。
時間をかければ、他の魔物がこちらに寄ってくる事になる。
「本格的に戦うなだな」
「グマッ……ZZZ」
こうなってくれば、殴る事で倒す事に拘るべきではないし、後は考えずにまずは目の前に対処するべきだろう。
そう判断した俺はトロールの攻撃を避けた直後に特殊弾『睡眠』込みのサーディンダートを投げつけ、眠らせた。
で、確実に一撃で仕留められるようにと、『昴』を鎧の隙間から心臓に突き刺すことでトドメを刺した。
≪設計図:アドオン『シールド増強』を回収しました≫
「さて、とっとと逃げるぞ」
『ブン。分かりました』
俺は報酬を得ると、直ぐに通路へと駆け込んだ。