186:幻惑中の戦い
「おらぁ!」
「ーーー!」
俺は人型に殴りかかり、人型は曲剣らしきもので迎撃する。
結果は互角で、もう一体の人型が矢を放ってきたので、それを避けるべく俺は移動。
で、矢を躱したところでもう一度攻撃しようとして……。
「ーーー!」
「へぇ……」
既に俺の横にいた先ほどの人型が盾の方で殴りかかってきたので、俺は『昴』で攻撃を受け止めると、反撃。
しかし、これを人型は浮遊感を持つ大きなバックステップによって回避した。
この時点で理解した。
『トビィ』
「オーク並みのパワー、オークを明らかに上回るスピード、空中機動周りの何か、なるほどお前が予測で名前が出てこなかった魔物か」
こいつが???で表示されていた魔物であると。
「ーーー!」
「流石に新規の魔物と幻惑状態でやり合うのは愚策だな」
「ーーー!?」
「ーーー!」
俺はもう一体の人型……恐らくはライムエルフが放ってきた氷柱による攻撃を回避すると、相変わらずガスを撒きまくっているラクーンの片方を掴んで正体不明へと投擲。
正体不明が曲剣側の手を振るって迎撃している間にもう一体のラクーンに接近。
こちらに掌底から『昴』射出で浮かせ、続くパンプキンアームの絡ませからの脳天落としで撃破。
続けてエルフの方へと向かうが……。
「ーーー!」
「やっぱり空中機動関係の何か持ちは羨ましいな。この環境で自由自在に動ける上に、攻撃に腰が入っていやがる」
その前に正体不明が空中へと飛び上がり、斜め上から飛び込み回し蹴りのような攻撃を仕掛けてくる。
俺はこれを『昴』で受け止めると共に、置き土産のグレネードを即時起爆する事で距離取りと攻撃をしたが、正体不明は吹き飛ばされただけで深手を負ったようには感じられない。
どうやら、耐久力も相応にあるようだ。
つまり、この正体不明はフロア5の難敵枠として見ていいだろう。
後、たぶんだが、手には何も持っていなくて、代わりに鉤爪の類が生えている魔物だと思う。
「ふんっ! からのせいっ!」
「「ーーーーー!?」」
まあ、それはそれとして、床を滑っていく俺は途中にいたラクーンを踏みつけて仕留めつつ方向転換。
エルフと思しき相手に接近して、掌底からの『昴』射出、続く絡ませ逆落としのコンボで撃破する。
このコンボ、先ほどラクーンに決めた時に気づいたのだが、この環境でも安定してダメージを与えられるから、極めて便利なのだ。
「ーーー!」
「悪いがお前の相手は幻惑が解けてからだ」
エルフを始末した俺は再び仕掛けて来る正体不明の攻撃を『昴』で受け止めつつ、通路へと移動。
先ほど一度グレネードを爆発させてしまったので、フロア5に居る他のライムの敵がこちらに寄ってくると予想しての行動だ。
そして、そんな俺を、ランク的にはライムであろう正体不明も追いかけてくる。
「ーーー!」
「いやコイツ、まさか? だとしたら強いのも納得ではあるか」
通路と言う左右への逃げ場がない空間に入った事で、正体不明の攻撃は苛烈になる。
単純に突っ込んでくるだけでなく、素早いバックステップからの突きを伴う再突撃、壁を利用しての三角飛びからの回し蹴り、小型投擲物による牽制など、ステータス任せの正面突破だけでなく、こちらの隙を突くような動きも見せてくる。
対する俺は『昴』で大半を受け止め、一部は避け、残りはシールドで受けつつ、反撃を試みる。
が、正体不明は『昴』による攻撃は平気な顔で受け止め、拳による攻撃は相応のダメージを与えている気配があるのだが、直ぐに再び苛烈な攻めを始めてくる。
ランクではなく自前の能力としてシールド再生を有しているのだろうか?
あるいは……だとしたら、ますますアレっぽい感じがあるな。
なんにせよ、幻惑状態はもうすぐ切れるので、そこで正体は明らかになる……なった。
「ヴァンピイィ!」
『ブン! 敵の名前が分かりました! ライムヴァンパイアです!』
「やっぱりか!」
幻惑状態が切れて見えたのは、俺に向かって飛び蹴りを放ってくる、黄緑色を主体とした衣装を身に着けた青肌の女。
その両手からは鋭い鉤爪が伸びており、身に着けているマントは蝙蝠の羽のように広げられ、口には鋭い犬歯が覗いている。
やはり相手は吸血鬼、ヴァンパイア、スコ82の亜人系列の思想から鑑みるに蝙蝠人間だったようだ。
となればだ。
「ヴァアァ……」
「ぐっ……やっぱりドレイン系統か」
『ブブ。どうやらシールドを吸い取る力を持つようです』
ライムヴァンパイアの攻撃が俺の体に当たり、僅かだがシールドが削れる。
と同時に、これまでのやり取りで削られていたであろうライムヴァンパイアのシールドが僅かな量ではあるが明確に回復した。
明らかにシールド吸収能力だ。
「だが、正体が分かれば……」
「ヴァンピイィ!」
ライムヴァンパイアが再び飛び掛かってくる。
何かしらの金属で作られていそうな鉤爪を振りかぶり、振り下ろそうとする。
「!?」
「手は幾らでも打てる」
俺はギリギリのタイミングでそれを受け止めると、パンプキンアームと体の各部を使って、人体構造的に身動きが取れなくなる形へと最短最速で持って行き、重力異常も併せて押し潰す。
「悪いが、反撃が不調だったのは幻惑状態だったからなんでな」
「ヴァッ、ヴァアアァァァ……!」
が、流石はヴァンパイアと言うべきか、圧倒的な身体能力の暴力と言うべきか、ヴァンパイア自身の飛行能力も利用しているのか、これでもまだ完全には抑え込み切れていない。
だが、チェックメイトに変わりはない。
「ーーー!?」
「ちゃんと見えているのなら……」
俺はパンプキンアームLによる締め付けを強める。
するとそれが鋼・拒絶製であるパンプキンアームLによる攻撃と認定されたのだろう。
ヴァンパイアのシールドが目に見える速さで減っていく。
やはりヴァンパイアらしく、光に弱く、闇に強いのだろう、だから侵食属性の『昴』の攻撃は大して効かず、拒絶属性のパンプキンアームによる締め付けはこれほどまでに有効になっているのだろう。
そしてヴァンパイアであるのならばだ。
「ーーーーー!?」
「お前ぐらいは倒せる」
心臓を白木の杭で貫けば倒せる。
まあ、そんなものはないので、『昴』を代用品として心臓を貫くのだが。
なんにせよ、これで撃破完了である。
『……』
「ん? どうしたティガ?」
『ブブ、ブーン、ブン!? あ、トビィ、探索にはまったく関係ない案件なので、安心してください』
「……? まあ、関係ないなら気にしないが」
俺は立ち上がると周囲を確認。
更なる敵の増援は無いようだ。
では、静かにこの場を離れよう。
≪生物系マテリアル:肉・氷結を2個回収しました≫
≪生物系マテリアル:骨・氷結を2個回収しました≫
≪設計図:特殊弾『氷柱発生』を回収しました≫
≪設計図:ヴァンパイアボディを回収しました≫
「あ、なんか当たりっぽいのが来たな」
『ブン。そうですね』
報酬も無事に手に入ったので、本当に一息付けそうだ。
06/20誤字訂正