184:グリーングレムリン
「で、あのフェアリーに似た小さな魔物は何なんだ?」
俺は改めて部屋の中を窺う。
氷で出来たバリケードの裏側を正確に知ることは難しいが、動いている陰から推測する限りだと……グリーンゴブリンが三体、グリーンラットが三体。
それと、バリケードから時々出て来て姿を晒している新たな魔物は五体。
計11体が次の部屋にいる敵だと思われる。
俺の位置から見えない場所に隠れていなければだが。
『ブーン……恐らくはグリーングレムリンだと思われます』
「グレムリン……小悪魔か? いや、フェアリーそっくりだと感じる辺り、悪戯好きな妖精の一種と言うところか。そうなると能力的にはフェアリーの逆でデバフ付与か?」
『ブーン。その辺りについては不明です』
新たな魔物……グリーングレムリンの姿はフェアリー種にかなり近い。
見た目で違うと言えるのは、フェアリー種と違って光を纏っていない点と、顔が人間ではなく大きな口、触覚と言ったものを備えた虫の特徴が幾らか混じっている点だろうか?
まあ、見た目の違いは大して重要じゃない。
気にするべきは中身だ。
そして、中身については戦ってみるしかないだろう。
「さて、そうなると倒し方は……ま、今後の為にもこうするべきだな」
では戦おう。
まず発動するのはフェアリーパウダー。
これは今後、本当の緊急時に使う時の為にも、仕様や使い勝手を今のうちに把握しておきたかったからだ。
という訳で、グレネードの横にあるフェアリーパウダーの袋に手を入れ、掴み、自分にかかるように振りかける。
燃料の消費とともに現れた効果は……被ダメージ減少のみ、当たりだな。
「じゃ、行くぞ」
『ブン。分かりました』
バフだけが無事にかかった事を確認した俺はデイムビーウィングのスラスターを吹かして飛び出しつつ、バリケードの裏に向かってグレネードを二つ、時間差を持たせながら投擲する。
「「「ヂュヂュアッ!」」」
投げたグレネードの内、一つはゴブリンたちの射撃によって撃ち落される。
「ボンっと」
「「「!?」」」
だが、もう一つは無事にバリケードの裏に入り込み、爆発。
バリケードの裏に居た魔物たちを傷つけ、焼く。
そして、攻撃の衝撃で魔物たちが怯んでいる隙に俺はバリケードに接近し、手をかけ、乗り込もうとする。
「「「ヂュアッ!」」」
「おっと」
が、乗り越えようとした瞬間にグリーンラットが俺に向かって飛びかかってきたので、必要以上に勢いよく飛び上がる事でバリケードだけでなくグリーンラットも飛び越えて回避。
おまけにグレネードを落として攻撃もしておく。
「「「ガーガギギー!」」」
「やっぱりデバフか」
その間にグリーングレムリンから黒い霧状の何かが放たれ、俺の体にまとわりつき、被ダメージ上昇、与ダメージ低下、などなど、計五つのデバフが俺に与えられる。
が、何故か二つほどバフも入っているし、どれも効果量は少な目で、短期的に見るなら致命傷には程遠い感じだ。
どうやら効果量の少なさや気まぐれ具合も含めて、方向性以外はフェアリーのバフと同じであるらしい。
であればだ。
「ふんっ!」
「「「ギビュウッ!?」」」
「「「ヂュアッ!?」」」
俺はパンプキンアームを網状に組んだ上でデイムビーウィングを一度切り、落下。
バリケード裏に居た魔物たちをまとめて叩き潰す。
するとグレネードによって既にシールドがなかったのであろうグリーングレムリンたちは拒絶属性の光のエフェクトと共に消え去っていく。
そして、グリーングレムリンが消え去ると同時に、デバフも解除されていく。
「「「ヂュアアアァァァッ!」」」
「おー、地味に『妖精の気まぐれ』が効いてるな」
勿論、こんな無茶をすれば体には相応の負荷がかかるし、残る魔物から一斉攻撃をされることになる。
噛みつかれ、引っかかれ、タックルされ、銃で撃たれた。
が、被ダメージは思ったよりも少ない。
どうやら戦闘前にかけた『妖精の気まぐれ』による被ダメージ減少はきちんと効果を発揮しているらしい。
なのでシールドが剥がされる事なく離脱する事に成功したし……。
「ヂュアアアッ!?」
グリーンラットの一体を盾代わりにして、離れても続くグリーンゴブリンの拳銃による攻撃を凌ぐことも問題なし。
で、問題なく十分に距離を取ったところで、反転。
ヒールバンテージによる回復を済ませた後で、グリーンラットを盾にしたまま追撃。
「なるほど。運は関わるが、活用のしがいはありそうだ!」
「「「ヂュアアアッ!?」」」
バリケード裏に突撃し、シールドが割れた上に力尽きたグリーンラットは手放すと、残り二体のグリーンラットを片方は盾に、もう片方は足場にして、拳銃を乱射し続けているグリーンゴブリンたちを殴って仕留めていく。
勿論、この時もまた少なくない被弾をしているのだが、バフのおかげで本来よりはだいぶ少ない被害で済ませた。
「よっと」
「ヂュアッ……」
そうして最後に足場にしていたグリーンラットをサンドバッグにして戦闘終了である。
燃料は派手に消費する事になったが、こちらのシールドが割られることもパーツが傷つく事もなかったので、大勝利と言っても過言ではないだろう。
≪生物系マテリアル:肉・氷結を4個回収しました≫
≪生物系マテリアル:骨・氷結を3個回収しました≫
≪生物系マテリアル:皮・氷結を2個回収しました≫
≪設計図:特殊弾『妖精の悪戯』を回収しました≫
≪設計図:アドオン『ステータス低下耐性』を回収しました≫
「おっ、グレムリンから特殊弾とアドオンっぽいな」
『ブン。次の現地ラボで詳細を確認してみましょう』
しかも報酬も今回は良さそうだ。
これならば戦った価値はあったと言えるだろう。
「さて次の部屋は……」
その後も俺はフロア4を探索。
幾らかの緋炭石と氷結属性付きの鉱石系マテリアル(鉄以下)を回収したところでエレベーターを見つけた。
『トビィ』
「分かってる」
次のフロア5では、魔物に坑道内を徘徊しないグリーンのランクと坑道内を徘徊するライムのランクが混ざっている。
結果、猟犬役と待ち伏せ役に自然と分かれて、難易度が上昇しているフロアでもある。
「他の環境ならまだしも、この環境なら逃げ一択だ。倒せる奴は倒すが、基本的には駆け抜けるぞ」
『ブン。頑張ってください』
俺は覚悟を決めてエレベーターに乗り、次のフロアへと向かう。
なお、坑道予測によれば、出現する魔物はラクーン、オーク、エルフ、???となっていたので……突破出来るかは???の中身と各種配置次第となるだろう。