179:ブルーピジョン
「……」
『ブン。居ましたね。ブルーピジョンです』
俺は島の縁に掴まり、慎重に顔だけを出し、島の中の様子を窺う。
島の広さは他の島と同程度。
だが、島の中にはブルーピジョンが一体居るだけのようだ。
能力の都合なのか、縄張り意識の強さ故にか、どうやらピジョン種は単独行動をする魔物であるらしく、フェアリー種の姿も、リリィ種の姿もない。
ナマコ種は……まあ、たぶん居ない。
「意外と大きいな」
『そうですね。目測ですが、体長は70センチ前後はあるでしょう』
俺は一度、島の陰に身を隠す。
ブルーピジョンの見た目は、全身の基本的なカラーリングが綺麗な青色である点を除けば、ほぼ鳩である。
ただ、鳩の特徴は? と言われても、鳥に詳しくない俺としては困るところではあるが。
それはそれとして、現実の鳩に比べて魔物であるブルーピジョンはかなり大きい。
だいたいだが、現実の鳩の二倍近い大きさを持っているように思える。
『さてトビィ。どうやって倒しますか? 正面から堂々と言うのは、恐らく通じません』
「だろうな。高空から糞による爆撃を行ってくるような魔物だ。正面から挑もうとしたら、その時点で空へと逃げだすに決まってる」
倒し方は……まあ、俺だとそこまで選択肢は多くないな。
そして、普通のプレイヤーでも大きくは変わらない気がする。
ピジョン種の鳴き声は攻撃力だけでなく、銃や投擲などの遠距離攻撃の射程を短くする効果があるようだからな。
まあ、とにもかくにも試してみよう。
「ほいっと」
『ブーン?』
という訳でとりあえず肉製サーディンダートを緩い軌道で投擲。
ブルーピジョンの視界にギリギリ入るようにする。
「ポッ?」
肉製サーディンダートを認識したブルーピジョンは周囲の様子を窺った後、ゆっくりとサーディンダートに近づいていく。
現実の鳩が魚肉を好むかは分からないが、非戦闘状態のブルーピジョンの注意は問題なく惹けたようだ。
で、ブルーピジョンがサーディンダートに十分近づき、啄むわけだが……。
「ポーウ……ZZZ」
「ようし」
『ブン。なるほど。特殊弾『睡眠』ですか』
「そういう事だ。まあ、眠らなくても、啄んでいる隙に近づいて仕掛けるつもりだったけどな」
一度啄んだだけで、ブルーピジョンはサーディンダートで発動していた特殊弾『睡眠』の効果によって寝てしまった。
それにしても、これが上手くいくのなら、毒や麻痺と言った他の状態異常を起こす特殊弾でも、肉製の投擲武装との組み合わせで毒餌のように出来るかもしれない。
覚えておこう。
「ただまあ、ある意味此処からが厄介なんだけどな」
『ブーン。まあ、否定はできませんね』
俺は眠ったブルーピジョンにゆっくり近づいていき、何時でも攻撃できる位置に着く。
そして左腕であるパンプキンアームLと、それに接続されたエクステンドアイビーを上手く組んで、網のようにすると、ブルーピジョンの周囲を覆い、飛んで逃げられないようにする。
では、仕掛けよう。
「行くぞおらぁ!」
「クポウッ!?」
まずは網を縮め、シャープネイルと『昴』を突き刺し、ブルーピジョンにダメージを与えつつ拘束。
「ふんっ!」
「グポォ!?」
まずは一発。
右拳をブルーピジョンの頭部に向かって打ち込み、シールドゲージを半分削り取る。
「ポーホホウ!」
「鳴くな!」
ブルーピジョンが鳴いて、俺にデバフが付与される。
俺はそれを理解しつつ、もう一発攻撃を撃ち込むが、デバフのせいでシールドゲージが一割ほど残ってしまう。
「クルーポー!」
「!?」
ブルーピジョンの尾羽の根元を中心として爆発が起き、俺のシールドゲージが削られた上に、酸の類によるDoTを受ける。
そして、なによりも糞を浴びせかけられたという不快感を俺に与えてくる。
「クソ要素は精神的なものであって、物理的なものにするんじゃねぇ!!」
「ギュポォ!?」
だが、予め来ると分かっていれば、不快ではあっても耐えることは可能。
という訳で更にもう一発殴り、シールドを破壊する。
「トドメだ! 物理的クソハトォ!!」
「!?」
そして即座にブルーピジョンの動きを抑えていたシャープネイルと『昴』によって全身を引き裂きつつ、右の拳と地面で頭部をサンドイッチにし、完全かつ明確にトドメを刺す。
≪生物系マテリアル:肉・拒絶を1個回収しました≫
「「ポーホホウ! ポーホホウ!」」
『トビィ! 他のピジョン種が来ました!』
「分かってる!」
ブルーピジョンを倒した報酬が手に入った。
マテリアルなのは残念だが、残念がっている暇はない。
俺は二重推進でもって駆け出し、島の外へと勢いよく飛び出し、着水。
「「クルーポー!」」
直後、背後から爆発音が響いた。
が、その時には俺は既に水中に居たので、デイムビーウィングのスラスターによって水中を飛んでいき、体に着いた汚れを落としつつ、近くの汚れていない桟橋へと辿り着き、水上に上がる。
『トビィ。残りのピジョン種は狩りますか?』
「いや、流石に面倒だから止めておく。毎回糞まみれにされるのも御免だしな。せめて明確かつ有益な報酬を貰えるような状況でなければ、もう狩る気はない」
『ブン。分かりました』
先ほどまで俺が居た島は綺麗に真っ白になっている。
倒す度にこうなるのは……流石に御免だし、消費も重い。
ピジョン種を倒すのは道中の目標であって、今回の探索の目的でもない。
これ以上の戦闘は控えて、ピジョン種関係の設計図が欲しいなら、集図坑道・ログボナスで確定入手にするべきだろう。
「次のフロアに行くぞ。ティガ」
『ブン。分かりました』
という訳で俺はこれまでの探索で見つけていたエレベーターに乗ってフロア3.5に移動した。
これで俺個人の探索記録更新である。