177:バッファーフェアリー
『それでトビィ。どのように倒しますか? これまでの傾向から考えてフェアリー種の耐久度は低めでしょう。ですが、距離を保ち、回避能力も高いですから、そう簡単には攻撃できないと思いますが』
「まあ、何とかはなる」
「「「~~~~~♪」」」
現在の俺の周囲には、複数体のブルーフェアリーとグリーンフェアリーが飛び交っている。
ただ、決して俺には近づいてこないし、逃げ出す事もない。
一定の距離を保ちつつ、俺の事をよく観察している。
自分の手は汚さず、他の魔物にバフをかけて戦うのがフェアリー種であるが、それでも魔物は魔物、俺を見逃すという選択肢はないようだ。
「こんな風に、な!」
俺は仕込みをした上で、二重推進で桟橋を渡り始める。
すると進路上に居たフェアリーたちは直ぐに二手に分かれて、俺から攻撃されないように動く。
そして、分かれたフェアリーも、他のフェアリーも、一定の距離を保ちつつ俺に付いて行くべく、俺の後方で一塊になる。
「かかったな」
「「「~~~~~!?」」」
そこでフェアリーたち全体を巻き込むように爆発した。
俺が二重推進で移動し始める前に、足元に置いたグレネードが爆発したのだ。
それも一つではなく二つ。
通常のグレネードだけでなく、特殊弾『煙幕発生』のグレネードもだ。
「おらぁ!」
「「「~~~~~♭!?」」」
俺は発生した煙幕の中に『昴』を地面と水平に回転させつつ投擲。
その上で二重推進の勢いで突入し、網のように広げたパンプキンアームを振り回して、当たるを幸いにフェアリーたちを薙ぎ払っていく。
「「「ポーホホウ! ポーホホウ!」」」
『トビィ!』
「分かってる!」
そしてピジョン種の声が聞こえ、デバフがかかったところで離脱。
急いで桟橋を渡って、次の島へと移動するが……島の中には入らず、縁に掴まり、水中に身を隠す。
「「「クルーポー!」」」
爆撃音が響く。
フェアリーたちを倒した場所を中心に一部屋分くらいのスペースが白く染め上げられていく。
また、俺の攻撃から運よく逃れ、生き延びていたフェアリーたちも爆破されたに違いない。
実に糞な光景である。
「よし、上手くいったな」
『ブン。そうですね』
≪生物系マテリアル:肉・拒絶を6個回収しました≫
≪生物系マテリアル:骨・拒絶を6個回収しました≫
≪設計図:フェアリーパウダーを回収しました≫
≪設計図:フェアリーボディを回収しました≫
まあ、それはそれとして、フェアリー種、無事に撃破成功である。
俺は爆撃音が止み、水面下からでも見える範囲にピジョン種の姿が無くなったところで、水面より上に移動。
ただ、やはり部屋の中には移動せず、まずは部屋の中を窺う。
「やっぱりリリィ種が居たか」
『戦いますか?』
「いや、戦わない。爆撃されるのがオチだしな」
部屋の中には三体のリリィ種が居て、周囲の様子を窺っている。
フェアリー種も数体居るので、戦うとなれば強化の入ったリリィたちと戦う事になる。
となれば必然、勝利までにかかる時間は相応のものになるので……まあ、ピジョン種の爆撃を食らって、報酬が手に入らない事になるだろう。
うん、戦う価値無しだな。
「そして部屋の中に入る気もない」
『ブブ? 部屋の中に入らないと……ああなるほど』
だがこっちに戦う気が無くても、向こうはやる気満々である。
なので見つからないように進まなければいけない。
という訳で、俺は島の側面、あるいは縁を掴み、体を半分以上水面下に沈めて、静かに移動していく。
「このフロアに居る水棲の魔物はナマコ種と言う積極的に襲い掛かってくる魔物じゃない。飛行系の魔物であるピジョン種も同様。だからこそ使える手段だな」
『ブン。なるほどです』
勿論、今俺がしている移動方法は普段から使える手段ではない。
と言うか、普段の水場・露天マップで同じことをやったら、四方八方から魔物が集まって、あっという間に殺される。
しかし、今回に限っては、出現する魔物の都合上、通用する手段なので、有効活用させてもらう。
「ふう……」
無事にスルー成功。
島の中から見えない、見えても攻撃されない位置にまで来た俺は桟橋に登り、歩いて移動する。
無茶をした代償は……特にないな。
燃料消費も普通の範疇だ。
「さて、このままピジョン種が居る島まで行くぞ」
『ブン。分かりました』
俺は途中のマテリアルタワーとレコードボックスを回収しつつ、先に進んでいく。
どうやらピジョン種が感知をするのはあくまでも戦闘行為だけであり、マテリアルタワーの破壊や武器の素振り程度では反応しないらしい。
これはありがたい情報である。
「……。ほぼ完全に水没か」
『ブン。そのようですね。恐らくですが、ナマコ種が居ます』
そうこうしている内に次の次の島にピジョン種が居る位置にまで到着。
しかし、その一つ手前の島は俺の腰ぐらいの高さまで水面が来るレベルで水没しており、水中に潜って見渡せば、青い石と緑色の石のように見える物体が幾つも転がっていたので、恐らくはブルーナマコとグリーンナマコが何体も居る部屋である。
そして、島の縁の直ぐ下は即死エリアとなっており、縁を掴んで隠れて移動、と言う訳にはいかないようだった。
「んー、少し試してみるか」
この状況を見て俺は……とりあえずしゃがんで、完全に水面下へと沈んだ。