175:鋼のマテリアルタワー
「ようやく見つかったか」
『ブン。ようやくですね』
さて、フロア2を探索すること暫く。
鉄以下のマテリアルタワー、緋炭石のマテリアルタワー、ブルーストライダー以外の魔物を倒しつつ進んでいた俺の前に、見慣れないマテリアルタワーが現れた。
そのマテリアルタワーの色は鉄によく似ていたが、鉄よりも光沢があり、重量感……いや、威圧感を感じた。
「うん、やっぱりそうだな」
『ブン。鋼のマテリアルタワーです』
俺は手をかざす。
攻撃の制限は2回、10秒。
これならば……まあ、パイルバンカーでいいか。
という訳で、俺は十分に距離を取ると、二歩の二重推進で十分な加速を得た上で掌底、からの『昴』によるパイルバンカーで粉砕する。
結果は?
≪鉱石系マテリアル:鋼・拒絶を27個回収しました≫
「『昴』のパイルバンカーでもこれか……」
『ブン。ただこればかりは仕方がないかと。鋼は鉄よりも上位のマテリアルですから』
鋼・拒絶は回収出来た。
が、量はだいぶ少ない気がする。
二重推進による加速、エクステンドアイビーによって強化されたパンプキンアームの加速、全身を適切に扱う事での加速、数を重ねた事で通常の鉄・侵食製長剣よりも強力であるはずの『昴』を杭として使用。
これほどに重ねても、やはり格上素材の採掘と言うのは難しいものであるらしい。
『それにトビィ。少ないと言っても主力であるナックルダスター・パンプキンアームL、シャープネイルの三つを鋼・拒絶製に換装する事は可能です。十分な量でしょう』
「まあ、それもそうか。ただ、シャープネイルの換装は別属性の鋼が見つかってからだな」
『いつものですか?』
「いつものだ。どうにも単一属性にしてしまうのは不安に感じてな」
ま、何にせよこれで最低限の目的は達成できた。
明日以降、素材坑道・デイマイリで少しずつ数を増やしていくとしよう。
ただ出来れば……別属性の鋼を入手したいところだな。
素材坑道・デイマイリでの入手効率が変わるし、万が一の際の修理を考えるとな、うん。
後、パンプキンアームLを換装するなら、エクステンドアイビーの換装も必要だし、そういう意味でもシャープネイルの分は無さそうだな。
「ま、それはそれとして次のフロアだな」
『ブン。そうですね』
では、これでフロア2は全回収したと思うので、フロア3に向かおう。
これまでは色々とあって、必ずフロア3の途中で戻される羽目になっていたが、今回はさてどうだろうな?
「……」
フロア3に到着した俺は直ぐに周囲を確認する。
俺が居るのは水面より少し上の陸上で、見える範囲にトーチカらしきものはなし。
敵影は……見える範囲では無いか。
「ヤバいな、これ」
『ブン。危険であると思います』
そう、一切見えない。
空を飛んでいる魔物の姿も、陸上を歩いている魔物の姿も、鏡のように反射する水面下で泳ぐ魔物の影響も、何も見えないのだ。
これは明らかに異常な事だ。
遠くの陸地や水面下に居る魔物が見えないのはいいとしても、近くにいる魔物の一体くらいは見えているのが露天マップの常であるのに。
それはつまり、隠密か待ち伏せか、水面下で静かに活動し続けているか……とにかく、何かしらの癖が強い魔物ばかりが居るという事になるだろう。
『トビィ。フロア1.5で得た坑道予測情報を改めて出します。坑道構造は露天・水場の拒絶属性だと判明しました。魔物はリリィ種のみ予測されてますが、残りは不明です』
「となると、リリィ種は偶々近くにはポップしなかったというところか。リリィ種の丈なら、遠くにポップした場合はこの場から見えない可能性は十分にある。ただ他は……厄介そうだな」
『ブン。厄介でしょう。正体不明ですからね』
俺はとりあえず近くのマテリアルタワーに向かって移動を始める。
姿の見えない敵を恐れて、何時までもその場に留まっていても仕方がないからだ。
そう考えつつ桟橋を渡り、次の島へと無事に着いた。
「なるほどこう来たか」
そこには蝶の羽を背中に持ち、全身から淡い光を放ちつつ、低空飛行をする身長十数センチの人型の魔物が10体以上居た。
『ブン。ブルーフェアリーとグリーンフェアリーです。トビィ』
「「「~~~~~♪」」」
どうやらコイツらはフェアリー種と言うらしい。
遠くからでは分からなかったのは、全身から放っている光と水面で反射する光が入り混じる事で、カモフラージュになっていたからだろう。
「小さい分だけ殴るのは面倒そうだが……襲ってこないな」
俺は戦闘態勢を取る。
フェアリー種は多様な衣装を身に着けているが、武器についてはミニチュアサイズの剣や槍のようなもの……俺からすれば針にしかならないようなものしか身に付けていない。
なので、攻撃手段があるとすれば、魔法か状態異常か……とにかく体格を問わないものになるだろう。
しかし、襲ってこない。
俺に気が付いているはずだが、遠巻きにこちらを見つつ、時々クスクスと笑い、楽しそうにしているだけ。
個体によっては俺の事なんて完全無視である。
「ティガ。襲ってこない魔物なんているのか?」
『ブブ。居ないです。魔物は必ず人間の敵になります。そこに例外は存在しません』
「なるほど。となると気まぐれ系か、罠系か、条件が揃うまでは襲ってこないタイプか……」
「「「~~~~~♪」」」
俺は一歩近づく。
するとフェアリーたちは、俺の事を無視していた個体も含めて、俺の一歩半程度、距離を離す。
どうやらストライダー種と同じで距離を保つタイプであるらしい。
「よっと。遠距離攻撃も駄目か」
『ブン。そのようですね』
「「「~~~~~♪」」」
また、サーディンダート、『昴』、グレネードと投げてみたが、いずれも逃げられ、命中しなかった。
そして反撃が飛んでくる事もない。
しかし、離れていく事もない。
これは罠を仕掛けてくるタイプか、こっちが弱ったタイミングで仕掛けてくるタイプっぽいな。
フェアリーがいたずら好きな妖精として出て来ているなら、弱り目に祟り目みたいな感じに仕掛けてきそうだ。
「何もない内に特殊弾まで使って仕掛けるのもアレだしなぁ……このまま進むしかないか」
マトモに相手が出来ない以上は、様子を見るしかない。
そう判断した俺は次の島に向かうべく、桟橋に向かって移動する。
そして、桟橋に近づいた時だった。
「ーーー!」
「っ!?」
水面下から石のような何かが俺の顔面に向かってくる。
それと同時に状況は一変した。