170:二重推進
「まずは練習だな。デイムビーウィングの仕様をよく知っておきたい」
『ブン。そうですか』
俺はデイムビーウィングを起動する。
すると体が僅かに浮かび上がった上で、前方に向かって全力で走るくらいのスピードで移動し始める。
なるほどこんな感じか。
で、デイムビーウィングを切ると、直ぐに地面に足が付き、軟着陸した。
「消費は……1秒につき1か。ただ、一瞬でも起動を切り、それから即座に起動すると、その度に燃料を消費するか」
『ブン。そのようですね』
続けて右、左と翅の向きを変えて飛んでみる。
うん、問題ない。
ただ、燃料消費の仕様としては1秒連続起動で燃料1消費だが、一瞬だけ起動と言うのをするのを、起動した回数だけ燃料を消費する事は覚えておこう。
後、当たり前ではあるが、デイムビーウィングの可動域の都合上、後ろに向かって飛ぶ事は出来ないようだ。
「……。デイムビーウィングの噴出口近くにエクステンドアイビーを展開して、翼のようにしたらどうなる?」
だからこそ次。
デイムビーウィングとエクステンドアイビーを合わせて、巨大な翼のようにした。
その上で、デイムビーウィングから噴き出す何かが俺の前方に向かうようにする。
これで上手くいけば……。
「上手くいったが……シールド消費がヤバいな、これ」
『ブン。無理やりですので、当然だと思います』
俺の体は後ろに向かって飛んだ。
が、デイムビーウィングの噴出物がぶつかり、本来とは逆方向の推進力を生み出すのは相当の無茶なのだろう。
1秒の移動でシールドゲージが10%も削れてる。
基本的にやるべき動きではないようだ。
逆に言えば、たった10%の消費で距離が取れるので、相手の攻撃次第では十分選択肢に入るだろう。
「さて、基本仕様はこれでいいとして、応用だな」
『ブーン?』
さあ、此処からだ。
俺は自分の脚の状態をしっかりと確認。
その上で走り出す体勢を取る。
そして……。
地面を蹴ると同時にデイムビーウィングを起動して、二重の推進力を得る。
「よし、いい感じだな」
結果。
俺の体はたった一歩で、何メートルも前方へと移動した。
成功である。
しかも、数歩程度なら続けられそうでもある。
「じゃ本番だ」
『ブン!?』
俺は岩・侵食のマテリアルタワーから適切な距離を取る。
左腕のパンプキンアームLとエクステンドアイビーで巨大な筒を作り、そこへ『昴』を装填して力を蓄える。
そして構えを取る。
「一歩……」
一歩目を踏み出す。
地面を蹴ると同時にデイムビーウィングを起動して、二重の推進力を得る。
だが、二重の推進力によって俺の体は宙に浮かんでしまい、このままでは二歩目を踏み出せないし、何よりも遅い。
「二歩……」
なので、十分な推進力を得ると同時にデイムビーウィングを一時停止、重力異常によって足を地面に付ける。
そして、再びデイムビーウィングの起動と地面を蹴る動作をして、さらなる加速を得ると言う二歩目をする。
勿論、この二歩目も直ぐにデイムビーウィングを一時停止して着地する。
「三歩……」
で、その着地をマテリアルタワーの直前に立つように合わせ、全力を振り絞ってその場に留まり、これまでの推進力全てを左腕へと集中しつつ、掌底の形でマテリアルタワーに向かって突き出す。
「はあっ!」
掌底がマテリアルタワーにぶつかって、岩が弾け飛び始める。
だが、その衝撃がマテリアルタワー全体に広がるよりも早く、俺は左腕を動かし、左腕の中へ仕込んだ『昴』を杭のように叩き込む。
蔓の量が二倍に増え、それによって更なる力と加速距離を得た『昴』はこれまでにない勢いで放たれ……突き刺さる。
マテリアルタワーは与えられた膨大な量の衝撃によって、これまでにない勢いと量で弾け飛ぶ。
「後、適当に三発!」
『ブブ。急に雑になりましたね……』
で、後は普通に三回殴って、結果を待つ。
さて結果は?
≪鉱石系マテリアル:岩・侵食を407個回収しました≫
「よし」
『特殊弾無しで400を超えるのですか……』
うん、これなら十分な成果と言えるだろう。
まあ、特殊弾『神降・火之迦具土神』は一発でこの2.5倍の量のマテリアルを消費するわけだが。
うーん、ゴーレムに使っているマテリアルがミスリルなどになれば、一回で四桁も狙えるのだろうか?
「さて、残りのマテリアルタワーも破壊していくか」
『ブン。そうですね』
ま、それはそれとして、残りのマテリアルタワーだな。
「肉だな」
『ブン。肉ですね』
次は肉・火炎のマテリアルタワーだが……うん、見事な肉の塊だ。
赤と白が混ざり、適度な水分を含んだ肉の塊が塔の形で立っている。
「そぉい!」
まあ、やる事は変わらないという事で、最初は先ほどと同じように、『昴』によるパイルバンカーで。
その後はおざなりではなく、多少だが連携や勢いを考えて撃ち込んでいく。
また、これと同時に『昴』の自動帰還が通常の坑道ではどんな仕様なのかも試しておく。
「よし、いい感じに取れたな」
『結果を見れば、どれだけ火力が上がったかがよく分かりますね』
≪鉱石系マテリアル:肉・火炎を387個回収しました≫
≪鉱石系マテリアル:鉄・火炎を92個回収しました≫
≪鉱石系マテリアル:鉄・侵食を96個回収しました≫
≪鉱石系マテリアル:金を25個回収しました≫
結果。
肉は打撃に対して強いためか、岩よりも得られる量は少なめだったが、他は大幅に入手量が増えた。
デイムビーウィング、エクステンドアイビー、『昴』の有用性は大いに示されたと言えるだろう。
それと『昴』の自動帰還だが、特に消耗する要素は無いようだ。
……。
いっそ何か消耗してくれれば気が楽だったかもしれないな。
ますます呪い感が強まっている気配がある。
「じゃ、ついでに集図坑道・ログボナスの方も行くぞ」
『ブン。分かりました』
それはそれとして、素材坑道・デイマイリでの回収を終えた俺はそのまま集図坑道・ログボナスに移動、挑む。
ただ、集図坑道・ログボナスに出現させる魔物の対象は、第一次防衛戦の最中に遭遇した魔物では増えない仕様になっているらしい。
選べるランクにブラックがないのは仕方が無いにしても、ライムとイエローもなかった。
選べる魔物についても、プラヌライの騎士やナイダリア種が無いのは当然ではあったが、ケラ種やスパロウ種の名前もなかった。
少々残念である。
「ま、ケラとかは何処かで出てきたのを見つけるしかないな」
そんなわけでいつも通りにグリーンデイムビーを選び、戦闘。
実戦で二重の機動力を得られるかを試し、立ち回りの練習をした。
二重の先も見えそうだったが……まあ、それは配信していない時にこっそり練習をしておくか。
「さて、じゃあ一度ログアウトして、19時半になったらまたログインだな」
『ブン。分かりました』
では、『Fluoride A』の第一次防衛戦の反省会に参加するとしよう。