168:白紙の設計図
「ティガ。説明」
俺は箱の中から白紙の設計図を取り出すと、ティガに説明を求める。
「ブン。文章は既に用意してありますので、詳細はそちらをご確認ください。簡単な説明をするのであれば、このアイテムの名称は『白紙の設計図』。使用することで任意の設計図を得る事が出来るアイテムになります」
「へぇー、なるほどなるほど。こいつは……ヤバいな」
白紙の設計図はどうやらかなり強力なアイテムであるらしい。
ティガから貰った文章をざっと読んだだけでも、それは分かった。
と言うのも、任意の設計図とやらの範囲が、とてつもなく広いからだ。
「ブン。ヤバいですし、貴重です。普通の坑道探索中でも極稀に見つかるとは資料にありますが、市場に流れる事はまずあり得ないと断言していいでしょう。あ、下書きモードがありますので、最初はそちらで弄った方がいいと思います」
「だろうな。操作ミスした場合の絶望感が酷い事になりそうだ」
俺は下書きモードと言う、白紙の設計図がどのようなものかを探るためのモードを使って、何が出来るかを調べていく。
「えーと、まずはパーツ、特殊弾、アドオンのどれであるかの選択」
「ブン」
最初に選ぶのは大きなジャンル。
これはパーツ、特殊弾、アドオンの三つから一つを選ぶ。
「パーツなら、これまでに入手したパーツから名称を選び……対応を自由に選べるのか」
「ブン。好きな風に組み合わせる事が出来ます」
パーツならば、これまでに得た事のあるパーツの設計図から名称を選ぶ。
そして、特殊弾の対応を自由に選ぶ事が出来る。
つまり、自分のお気に入りのパーツを、好きな特殊弾を装填できるようにした設計図を得られるようだ。
ただ、『昴』や『昴』の対応である制限なしのように、選択できないものもある。
これは……まあ、仕方がないだろう。
『昴』はユニークウェポンだし、制限なしが選べるのは強すぎる。
「特殊弾なら、これまでに見た事のある形式と対応から自由に選べる」
「ブン。ちなみに名称はオートで決定します」
特殊弾ならば、これまでに得た事のあるパーツの対応あるいは特殊弾の形式に記されている情報から自由に選んで、特殊弾の設計図を得る事が出来る。
つまり、これまで対応した特殊弾を持っていなかったので、性能を100%発揮できなかったパーツの為に必要な設計図を自由に入手できるという事だ。
ちなみにだが、情報の一部を空欄とすることで、その部分をランダムに決定する事も出来るらしい。
「アドオンなら……だいぶ複雑だな」
「ブン。コツとしては何を求め、何を差し出すかを明記する事です」
アドオンならば、要望を入力する事によって、その要望に沿うようなアドオンが生成される。
これについては少々複雑なので例を出すが……。
例1:打撃による攻撃を強化したい→打撃による攻撃を強化するアドオンが生成。
例2:地上に居る時だけ被ダメージを減らしたい→地上に居る時だけ被ダメージが減るアドオンを生成。
例3:無敵になりたい→被弾時に極低確率で被弾を無効化するアドオンを生成。
例4:シールドがなく、地上に居て、周囲の魔物が1体しか居ない時に無敵になりたい→条件を満たした時に多少の時間、被弾を無効化するアドオンを生成。
と言う具合に、中々にスマートな生成をしてくれるようだが、同じ要望でも効果にブレがあるし、条件を重ねないと強力なアドオンにはならないようだ。
だが、自分の戦闘スタイルに特に合ったアドオンを確実に作り出せると言うのは、かなり有用だろう。
なお、要望内に数字を入れることは出来ないようになっているので、発動確率、効果量、効果範囲などをこちら側から弄るのは難しいし、チートのように思えるような凶悪なアドオンの生成は不可能なようだ。
まあ、短時間被弾無効のような、強力なアドオンは普通に作れるのだが。
「さてトビィ。これで一通りは見たわけですが、どうしますか?」
「どうするもこうするも今回に限っては決まっているようなものだ。と言う訳で、ティガ。これから先の配信画面の一部には暫くモザイクをかけてくれ」
「ブン。やはりそうなりますか。ブン、モザイクかけました」
「よし、ありがとうな」
では本番だ。
まあ、何を作るかは確認の途中で実質決まっていた。
「選ぶのは特殊弾。そして『昴』に対応するものだ。ずっと使う事になる武装だからな。出来るだけ早く全力を出せるようにしておきたい」
「ブン。そうですよね」
『昴』のための特殊弾だ。
という訳で、選ぶ情報の内、原理部分は法則にし、起点は異界にする。
そして残りの部分は……敢えてのランダムだ。
折角の制限なし、何が来ても困らないのだから、偶然来たものの方が縁があるという意味で、良い結果になるだろう。
「出来たな」
「ブン。出来ました」
という訳で完成。
俺は早速出来上がったものを見てみる。
△△△△△
神降・火之迦具土神
種別:特殊弾
形式:(火炎/侵食)-法則-異界-付与
八百万の神々が一柱、火之迦具土神の力を降臨させ、顕現する。
これ以上の詳細は不明だが、神の力は人が振るうには大きすぎる事だけは確かである。
≪作成には以下の物質が必要になる≫
同一の生物系・火炎属性マテリアルが1000個
同一の鉱石系・侵食属性マテリアルが1000個
宝石系マテリアル:ルビー・火炎が16個
同一の幻想系・物理属性マテリアルが255個
特定物質:緋炭石が2500個
▽▽▽▽▽
「……。ティガ、必要な素材部分だけモザイク解除で」
「ブ、ブン」
出来上がったが……これは駄目だ。
当分どころか、数か月単位で使えない特殊弾になってしまった。
あまりにも作成に必要なアイテムが重すぎる。
そして、配信を見ている視聴者たちも俺と同じ結論に至ったのだろう。
モザイク解除直後に一瞬コメントが止まり、その直後から怒涛の勢いで流れているようだった。
「はあ、完成させれば切り札なんて次元じゃないんだろうが、完成させられるのか? これ」
「ブ、ブブ。地道に集めるしかないと思います」
まあ、幻想系と言うマテリアルにミスリルが含まれているらしいので、ルビーと言う情報が一切ないマテリアル以外は地道に集めれば何とかなるだろう。
ルビーは……本当に運だな。
属性指定まで入っているようだし。
「……」
「トビィ?」
「いや、何でもない」
それにしても火之迦具土神……親殺しの火、祝福できなくなってしまった命、素直に褒められない力を持ってしまったものか。
なんと言うかなぁ……。
ま、偶然という事にしておこう。
力については期待できるのだし。
なお、これはまったくの余談になるのだが、白紙の設計図から作成した設計図はコピー出来ない仕様になっているし、白紙の設計図そのものも一度しか所有者の変更が出来ないようになっている。
そう簡単に楽は出来ないという事だ。
「ま、何にせよこれで報酬は受け取った。ゴーレムの調整をしてから、デイリーの坑道に行くとしよう」
「ブン。そうですね。そうしましょう」
俺は何処かで白紙の設計図の二枚目が手に入らないかなと思いつつ、ゴーレムの調整に移ることにした。
06/03誤字訂正