162:決着
本日は二話更新です。
こちらは二話目です。
「おーっほっほっほっ! 黒い雨で弾の威力が落ちるなら、こっちに来ている取り巻きの処理に専念するだけですわー!!」
「はいはい、なるほど」
「よっと」
イエローナイダリアとの戦闘は続いている。
残りのシールドゲージは10%程度だが、黒い雨の範囲が50メートル近くにまで広がっており、その結果としてフッセの攻撃はイエローナイダリア以外の魔物に向けられており、イエローナイダリアへの攻撃は俺の『昴』の投射やネルの狙撃、外野からの砲撃と言った黒い雨の影響を受けづらい遠距離攻撃が主体になっている。
ただ、相手のシールドゲージの自然回復も考えると、ここらで一発大きな攻撃をして削り切ってしまいたいところだが……。
「北区の全員に通達。東区でイエローナイダリアが討伐されたわ」
と、ここでハンネから全員に向けて情報がもたらされる。
東区と言うと……『タングススティック』が居る方だから、ビッカースが居る方でもあるな。
流石と言う他ない。
「討伐に伴って、イエローナイダリアが出て来ていた穴は自動で消滅。また、東区に出現していた魔物の多くは穴への撤退を開始し、多くの魔物が通過した穴は消滅する事が確認されたわ。つまり、イエローナイダリアを倒せば、その時点でその地区での防衛戦は実質終了し、掃討戦へ移行する事に可能になるわ」
「それはいい事を聞きましたわね」
「だなぁ」
イエローナイダリアを倒せばそれでお終いか。
なるほどなるほど、それはとてもいい情報だ。
「トビィ。残り一割。吹き飛ばしてもらえますか? 貴方なら出来ると私様には分かっていますので」
「了解。吹っ飛ばしてくる」
「あーはい、私の配信を聞いている人は分かったわね。トビィが仕掛けるから、攻撃を根元から少しだけ上方向に挙げてもらえると助かるわ」
俺は手元に戻ってきた『昴』を変形させた左腕に装填。
そして、限界まで張り詰めさせておく。
「すぅ……はぁ……」
さて、今回のイベント中、不測の事態と言うか、俺にはどうしようもならない案件と言うか、まあ、俺に責任があるかと言われたら微妙な案件ではあるが、それでも俺は幾つかやらかしている。
しかし、それでもフッセは俺に任せた。
であれば……絶対に成功させるためにも、昔習った自分の在り方をちょっと復習しつつ進むとするか。
「よし、攻撃の位置調整は出来たわね。何時でもいいわ」
「では……今ですわ! トビィ!!」
「おうっ!」
俺は拠点からイエローナイダリアに向かって駆け出す。
「あるがままにあるを認める」
拠点から飛び出した俺に向かってイエローナイダリアから針が放たれる。
シールドゲージが50%を切った辺りから、反撃だけでなく能動的にも針は放たれるようになっており、上下左右15度くらいの射角で、遮蔽物がないところに出たプレイヤーを狙ってくるようになっているのだ。
「心は凪でもなく、時化でもない」
だが能動的射撃であるために認識加速が発動する。
なので俺は認識加速の中で、脚を動かすサイクルを上げ、加速。
針を避けつつ、距離を詰めていく。
「終生は途上にして錐の先」
やがてイエローナイダリアの周囲に詰めている魔物たちが襲い掛かってくる。
弾丸が幾つも放たれ、刃が突き出される。
が、自分から距離を詰め、左右にステップを刻み、決して足を止めず、魔物の体の可動域から攻撃できない位置に入り込むと共に他の魔物の攻撃から身を守る盾とする。
そして時には魔物を吹き飛ばし、転ばし、投げ、押し、怯ませ、最終的にはすり抜ける。
「枷とするは目的唯一つ」
魔物の壁を抜けると再びイエローナイダリアの針が襲い掛かってくる。
それもあらゆる方向から、俺一人目掛けてだ。
針のサイズはおおよそだが太さ1センチ、長さ15センチ程度であり、デバフ付きなので、一発も受けられない。
「六連星は手を伸ばす先であって、掴むものではない」
だから弾く。
右のナックルダスターで、シャープネイルの切っ先で、『昴』の刃で、俺に向かってくる針の側面を叩いて撃ち落す。
そして弾き切れないものは即時起爆するグレネードを前方に投じ、その爆炎と爆風に自ら突っ込む事によって凌ぐ。
「理解したならば、汝が為せるがままに成せ」
距離は詰めた。
加速は十分に乗っている。
ならば、その全てを此処からの攻撃に乗せる。
「虎の如き獰猛さ」
イエローナイダリアの巨体の目の前に至った俺は、此処までの加速と全身の力を左腕に集めて掌底を放つ。
放たれた掌底は針を放った直後であるために反撃できないポイントに吸い込まれ、左の掌から覗く『昴』の切っ先をイエローナイダリアの体に食い込ませる。
「蜂の如き苛烈さ」
『昴』の切っ先が食い込んだ瞬間。
俺は変形させた左腕を全力で動かし、『昴』を杭としてイエローナイダリアの体へと撃ち込む。
侵食属性特有の黒いエフェクトが大量に生じるが、俺の予想通りに『昴』の刃はまだ半ばまでしか突き刺さっていない。
「それらを以って六連星の如き煌めきを見せよ」
だから、『昴』を撃ち込んだ反動に従って左腕を解き、反転。
デイムビーボディの針の先を正確に『昴』の柄に合わせる。
「刺し貫け、『昴』」
デイムビーボディの針を発射。
放たれた針は左腕による射出が児戯となるような勢いでもって『昴』を押し込み、杭にして針となった『昴』はイエローナイダリアの体を引き裂きながら奥底へと突き進んでいく。
そして、『昴』は漆黒のエフェクトを伴いながら進み続け……。
「ーーーーーーーーー!?」
サイズに比例した巨大なシールド破壊エフェクトを伴いつつ、俺が攻撃を撃ち込んだ場所の真反対にまで突き抜けた。
『全軍! 最大火力を以ってトドメを刺しなさい!!』
『……。撃つ!!』
『出し惜しみ無しや! 撃ち尽くたれぇ!!』
『さあ、ラストアタックは誰のものかしらねー!!』
直後、『Fluoride A』の面々の言葉と共にイエローナイダリアへとあらゆる方向から攻撃が殺到。
デイムビーボディの針の反動で地面に倒れている俺の事など気にしている様子が欠片も見られない容赦のない攻撃の嵐によってイエローナイダリアの体は焼け爛れ、抉れ、刻まれていく。
イエローナイダリアは多少の再生能力も持ち合わせていたようだが、この猛攻にイエローナイダリアが耐えられるはずもなく、消滅。
イエローナイダリアの周囲に居る魔物たちも攻撃に巻き込まれて消滅。
「まあうん、掃討戦は面倒くさいし、役目も果たした。これで一度ログアウトするか」
そして、当然のように俺も巻き込まれて死に戻りしたのだった。
まあ、これは仕方がないな、うん。
≪Congratulation! 『Scarlet Coal-Meterra082』は全てのイエローナイダリアを討伐し、第一次防衛戦をクリアしました! おめでとう!!≫
≪第一次防衛戦の報酬は翌日の10時以降の配布となります。しばらくお待ちください≫
≪通常のコンテンツの再開は翌日の10時以降になります。しばらくお待ちください≫
で、何か流れた。
どうやら無事にクリアとなったらしい。
これで心置きなくログアウトできるし……うん、ログアウトしよう。
本格的に何か殴りたいし、とりあえず近所のジムにでも行ってくるか……。