159:情報を集めつつ接敵せよ
本日は二話更新になります。
こちらは一話目です。
「分かっているとは思いますが、改めて指示を出しますわ。レイドボスであるイエローナイダリアは後回し。まずはこれまでと同じように敵増援を防ぎつつ前進しますわ。進軍開始!」
「「「おおおおおぉぉぉぉぉっ!」」」
イエローナイダリアが現れて最終ウェーブが始まる。
が、俺たち北区の現在の戦線からではイエローナイダリアにマトモな攻撃を加えることは不可能に近い。
という訳で、俺たちはこれまでと同じように遭遇した魔物を殲滅しつつ前進し、魔物が出て来る穴にバリケードと処理用の人員を置いて封鎖すると言う体制でゆっくりと進んでいく。
「リツ、ハンネ。二人には情報収集もお願いしますわ。五分後を目安に一度情報をまとめて下さいませ」
「ん、了解や」
「分かったわ」
だが、イエローナイダリアに今すぐ攻撃できないのは俺たち北区だけの話。
東、西、南では既にイエローナイダリアへの攻撃は始まっているし、そちらにも配信をしているプレイヤーは居る。
なので、イエローナイダリアについての情報は時間経過とともに集まってくるだろう。
と言うかだ。
「まあ、要するにアレだよな。どうせ最速撃破は狙えないのだから、被害0のパーフェクトゲームの方を狙おうとか、そういうノリで行くべきなんだよな。たぶん」
「……。被害0と言うのは効率的」
「そういう事ですわね」
俺たちの立ち位置的に、他が集めた情報を如何に有効活用するか、そちらの方が重要だよな、うん。
「そうそう、これも言っておきますわ。はっきり言いますが、イエローナイダリアへの攻撃と穴の封鎖であれば、後者の方が戦略上重要で高評価となる仕事です。その事を各員念頭に置いておいて欲しいですわ」
「あ、それ確かに重要やな」
「そうね。レイドボスを倒したけど、防衛失敗じゃ意味無いし」
「……。そもそも後ろから有象無象に襲われるレイドボス戦なんて非効率」
「目立ちはするが、実際の評価は、って奴だな。分かる」
ちなみだが、フッセの言った評価基準は運営が公式に出しているものである。
まあ、現状イエローナイダリア自身は前進してきてないからな。
厄介な情報が配信画面を通して少しずつ視界に入ってきているが、これは妥当な評価基準だろう。
「さて五分ね。これまでに明らかになったイエローナイダリアの情報を全員に流すわ」
そんな事をしつつも前進し続ける事五分。
俺自身の視界に北区のイエローナイダリアの根元が見えてくる。
と同時にハンネからイエローナイダリアについての情報が送られてくる。
「一つ。イエローナイダリアは積極的に攻撃を仕掛けてくるタイプではなく、反撃型のレイドボスよ」
イエローナイダリアは反撃能力を持っている。
どうやら攻撃を受けると、攻撃を受けた部位から針状の弾丸を放って、攻撃が放たれた場所とその周囲へと反撃を仕掛けて来るらしい。
「さっきから時折私様たちの上を飛んでいるのはこれですわね」
「威力もデバフも洒落にならんみたいやなぁ」
威力は直撃すれば鉄製ゴーレムの体に深く突き刺さるレベル。
付随する効果として、全身が痺れたようになって動けなくなる束縛効果と針が抜けても暫くはシールドゲージが削られていくDoT効果があるらしい。
どちらも金属製ゴーレムにも有効なのはいうまでもなく。
つまり、マトモに受けて放置したら、その一回だけで致命傷になるようだ。
「なんと言うか、イソギンチャクやクラゲの触手みたいなやつだな」
「……。実際そうかも。ナイダリアは確かそういう意味」
よって、イエローナイダリアに攻撃を仕掛けるなら、一発撃って回避、と言うのが基本ムーヴであると同時に、他のプレイヤーの攻撃に反応して撃たれた針に当たらないように陣形の工夫をする必要があるようだ。
「二つ。イエローナイダリアは10秒に1体のペースでライムの魔物を召喚してくるわ。出現する魔物の種類は恐らくランダム」
「俺の視界でちょうどそれが行われているな」
「……。処理する」
イエローナイダリアの芯のように見える黒い筋。
その一部が球形となって中心から離れ、表皮に出て来ると、ライムの魔物になってこちらに向かってくる。
と言っても、出現した魔物は即座にネルによって撃ち抜かれて、撃破されていくが。
しかし、今の魔物の召喚……陽泉坑道・プラヌライの奥地でプラヌライの騎士が出てきた時と何となく近い感じがあるな。
となると、もしかしなくてもイエローナイダリアの芯、あれはレキノーリ液じゃないのか?
「三つ。これは特に攻撃が進んでいる東からの情報になるけれど、シールドゲージの削りが進むとイエローナイダリアの周囲に黒い雨が降り始めるそうよ。で、これに触れるとインベントリ内にあるものが全て使用不可になるみたい。おまけに燃料補給も受けられなくなるそうだから……かなりヤバいわ」
「周囲……具体的にはどの程度ですの?」
「シールドゲージ10%削りの現状では周囲5メートルぐらい。ゲージの削りと比例するなら、最終的には50メートルくらいは雨が降ると予想されているわ。ちなみに建造物をすり抜けて来るそうだから、回避は不可能」
「それは考えて動かへんとヤバいなぁ、ウチとかの天敵やんけ」
あ、うん、もしかしなくてもレキノーリ液だったわ。
まあ、口には出さないが。
「ま、それなら、近接組は最初から特殊弾も補給も諦めて動けばいい。遠距離組も残り50%ぐらいで火力増強系の特殊弾をぶちまければいいだけの話だろ」
だから俺は代わりにそう口を出すと、『昴』を左腕に装填した上で、駆け出す姿勢を取る。
情報の通達を行っている間に周囲の地形を整える事や、穴の封鎖は十分に進んでいる。
これならば、俺はイエローナイダリアに向かってもいいだろう。
「まあ、それはそうですわね。あ、ネルは出来る限り離れておいてくださいませ」
「……。分かったわ。リツも付いてきて」
「了解や。ウチの持ってる資材で針を防げるように備えてから攻撃開始やな」
「ふふふ、楽しくなってきたわね」
フッセたちも情報を踏まえた上で、自分にとって適切な距離と立ち位置へ向かって移動を始める。
「では、第一次防衛戦最終戦闘……開始ですわ!」
そして、フッセの言葉と発砲音と共に、北区でのイエローナイダリアとの戦闘が始まった。
05/28誤字訂正