156:反撃開始
「撃て撃て撃てぇ!」
「撃てば当たる! 地面より敵のが多いんだからなぁ!」
「ヒャッハー! 稼ぎどころだぁ!!」
フッセに率いられたプレイヤーたちと、俺を追い詰めた魔物たちによる野戦の口火は、プレイヤー側による無数の射撃攻撃だった。
俺が安全圏にまでフッセと共に護送されつつある中、両腕をマシンガンにしたゴーレムから、普通に両手で銃を構えて撃つゴーレム、巨大な大砲を担いでいるゴーレム、口からブレスのように炎と弾丸を吐き出すゴーレムなどなど、多種多様な射撃能力を持つゴーレムたちによって魔物たちが撃ち抜かれていく。
これには魔物たちも堪らず退き、一時的にではあるがこちらと魔物たちの間に空白地帯が生じる。
「陣地展開!」
「バリケードを張れ! 簡易のものでいいぞ!」
「盾持ちは前へ!」
そうして生じた空白地帯へとリツを含む別のゴーレムたちが突入。
手にした何かしらの機械を地面に設置し、その機械から様々な物体が出現して簡易のバリケードが展開される。
また、ハンネを含む身を隠せるサイズの盾を持ったゴーレムたちも前に出て、防衛線を構築。
「ブ……」
「攻撃再開ですわ!!」
「「「うおらああっ!」」」
そして再び射撃を開始。
防衛線構築の間に弾幕が弱まったのを見て、前に出て来ようとしていた魔物たちを次々に撃ち抜いていく。
勿論、魔物側からの反撃も飛んでくるが、大抵のゴーレムが防衛線に潜んでいる上に、シールドと状態異常の回復要員がそれなりに居るらしく、脱落者を出さずにこちらの攻撃が続いていく。
で、こうして攻撃を続け、相手の攻撃が止んだタイミングで前進し、再び防衛線を構築するのだろう。
「で、フッセ。一応確認なんだが、こんなところに居るって事は、北区の最前線は放棄か?」
「一時放棄ですわ。トビィ狙いで開かれた穴を封じたら、また前線を上げていきます。それと念のために申し上げておきますが、トビィを助けるためではなく、トビィ狙いで開かれた穴を封じるのが主目的です。あの位置の穴はそれだけ危険ですの」
「まあ、あそこから敵が出続けたら、最前線は前後両方どころか、内側からすらも敵が湧く事になるもんな……。それでも助かったのは事実だから改めて言っておく。ありがとうな」
「おーっほっほっほっ! トビィからの称賛の声が気持ちいいですわぁ!!」
なお、この間に俺はフッセに経緯を確認し、この後どうするかも確かめた。
どうやら俺が街坑道・ヒイズルガに入った際の位置にまで戻り、そこから敵を殲滅しつつ北上していく形になるらしい。
「それで、放棄した最前線から来る敵はどうするつもりだ? こうしている今もこっちに迫ってきてるだろ」
「そちらについては殿となることを選んでくださった方が何人かと、大量の罠を設置してありますわ。また、東区と西区の予備人員も動員してもらい、敵の拡散を防いでいます。長くは保たないかもしれませんが……時間は稼げますわ」
殿のプレイヤーは……一種の死兵か。
俺が助かって、彼らが助からない状況となると……この先は好き嫌いなんて言っていられないな。
「そうか。さて、そういう状況なら俺も黙って守られているわけにはいかないが……流石に片腕で戦うのは無理だからな。替えのパーツは誰が?」
「ウチの他、衛生兵的な立ち位置にある何人かが持ってるでー」
ここで改めてリツがやってきて、インベントリ接続ケーブルの片端を俺に渡してくる。
ちなみにだが、第一次防衛戦の最中、街坑道・ヒイズルガから各自のラボに移動するためには、一定時間以上の非戦闘状態の維持が必要になる。
なので、左腕が破損状態にある俺が、今すぐにラボに戻る事は出来ないので、こうしてリツから替えのパーツを受け取り、交換する必要があるのである。
と言うか、俺が下手にラボへと戻ると、街坑道・ヒイズルガに戻ってきたときにまた囲まれそうな予感もあるんだよな、うん。
「オークアームLか」
「ごついのは堪忍してなー。替えが必要になる時点で被弾してるって事やから、それ以上のパーツ失いをせえへんためにも、頑丈さ第一になるんや」
「文句はないから大丈夫だ」
さて、俺がリツから受け取ったのは鉄製のオークアームL。
肩から指先に至るまで太いが、しっかりしているとも言えるし、ちゃんと細かい挙動も出来るから問題はないな。
「……。フッセ、リツ、トビィ、前進する」
「分かりましたわ」
「了解や」
「分かった。とりあえず慣らしを兼ねてグレネードを……っと!」
ネルが前進の開始を教えてくれたので、敵が居そうな地点に向かってグレネードを投擲、爆破する。
たぶんだが、何匹か巻き込んだな。
この感じなら、問題なく戦えそうだ。
「慣れへん腕なのにえらく正確な投擲やなぁ……」
「ん? 普通だろ。このくらい」
「さあ、これ以上の雑談をしている暇なんてありませんわ! ガンガン攻めますわよ! まずは後方の敵を殲滅! それから、最前線の奪還ですわ!」
俺たちは行政区に向かって駆けていく。
全員が全員、手持ちの武器を使って、魔物たちを始末しながら、一塊となって突き進んでいく。
「あれは……」
「敵もこの場所の重要性を理解しているという事ですわ」
やがて見えてきたのは、こちらの最前線と同じように陣地化された魔物側の拠点。
俺が街坑道・ヒイズルガに出てきた時のポイントであり、大量の魔物が次から次へと這い出てきている場所。
「全軍! 行きますわよ!!」
「「「おおおおおっ!!」」」
そこへフッセたちは襲い掛かり……その中で俺は『昴』を握って真っ先に突っ込んだ。