152:密かに進んでいた魔物
「まあ、なんと言うか……色々と見つかったな」
『ブン。色々と見つかりましたね』
さて、俺がブルーケラを撃破した直後から一気に街坑道・ヒイズルガ全体が騒がしくなった。
まあ、当然の事だろう。
ブルーケラが居た以上、同じように潜伏に特化……それも各種ソナー類を潜り抜けてくるような魔物が居てもおかしくはない。
そして、そんな敵の数が一定数以上に達した時に何が起きるかは考えるまでもない。
よって、徹底的な捜索がこのタイミングで一度行われる事となり、その捜索結果として多くの魔物が見つかったのである。
「主にカメレオン。けれど地中にケラ、空中にスパロウ、水中にナマコ、いずれにも潜伏特化の上に対ソナー持ちが居るとはなぁ……」
幸いにしてこれらの魔物は潜伏能力の他は火力ぐらいしか特筆すべき点がなかったため、その多くは範囲攻撃に巻き込まれて自然に倒されたであろうし、見つけ出す事さえ出来れば倒す事自体は難しくなかった。
また、ブルーケラがブルーのランクだったように、これらの魔物のランクはどれもブルーのランクだった。
これは相手の足が遅いから、まだブルーしか来れていなかったのか、それともグリーン以上を単純に発見出来ていないのか……この点については判断がついていない。
『ところでトビィ。その対ソナーと言うのは、結局のところどういうものなのですか?』
まあ、とりあえず見つけられるだけ見つけ出して、倒せるだけ倒したはずだ。
だからこそ、俺は今、休憩という事で前線から離れた場所で休んでいるわけだしな。
で、ティガの質問だが……。
「……。ソナー、センサー、感知系、言い方は色々だが、この手のものは結局のところアクティブとパッシブの二種類に分けられる」
『ブン。そうですね。アクティブソナーなら自分で何かを発し、返ってきた反応から相手の位置を探る。パッシブソナーなら相手が発した何かを感知することで相手の位置を探る。そう言うものです』
「そうだ。だから逆に言えば、周囲と同じようにしか返さないもの、自分からは何も発さないものは感知できない。ケラ種の場合は……停止状態は周囲の土と同化し、動きがゆっくりだから自分から発するものは最低限でノイズ扱いで済む程度、それ故にソナーに引っかからない、という事だな」
『ブン。なるほど』
常に、隙間なく、高感度のソナーを張り巡らしている場合を除けば、どれほど厳重に見える警戒網にも穴が存在する、という事だ。
そして、今回の件はその穴を相手が突きつつあった、そういう話である。
対策としては……とりあえずでやれる事だと、複数のセンサーを組み合わせて、注意深く探るという当たり前の方法くらいだろう。
『で、どうしてトビィはそんなソナー抜けが出来るブルーケラの位置が分かったのですか? 各所から上がっている報告によれば、モールが倒されたポイント近くで、最低でも二人以上がアクティブソナーを起動しないと分からないとありますが』
「そこはまあ、経験の賜物だな。地面を殴った時の感覚を俺はよく知っている。それに現実なら地中には色々とあるが、ゲームなら地質はほぼ一定と言うのもある。その辺を組み合わせれば、俺なら疑問は覚えられる。それ以上は本当に注意深く探らないと分からないが」
『ブン、なるほど。真似できないのは分かりました』
「ま、それはそうだろうな」
なお、俺の方法が俺以外に使えないのはよく知っている。
以前ハンネに言ったら大笑いされたし、似たような事は普段からよくやっているが、その似たような事に対してティガは理解できないという反応をするしな。
他の方法で見つけられるのだから、問題もないだろう。
『ブーン、さてトビィ。これからどうしますか?』
「今の時刻は……20時半か。予定通りなら、後30分くらいは活動予定だな」
さて、隠密性が高い魔物周りについて俺が触れるのはこれくらいにしておくとしてだ。
この後はどうするか?
『ブン。ハンネからメッセージです』
「援軍要請か?」
『ブン。その通りです』
と、思っていたらハンネからメッセージが来たか。
内容は援軍要請。
ただし場所はフッセたちの守っている場所ではなく、北区の中でも守りが薄いと判断されていた小川部分。
どうやら大量のグリーンサーディンが襲い掛かってきて、その大半は倒したが、一部……と言っても数にすれば100体以上を後逸かつ散開させてしまったらしい。
なお、似たような事例が、北区以外の三方向でも起きており、そのいずれでもサーディン種のような大量出現する小さな魔物たちが守りの薄い場所目掛けて一点突破を仕掛けてきたようだ。
「行くしかねえな。こりゃあ」
『ブン。そうですね』
これは……完全に狙われているな。
たぶんだが、ブルーケラたちが倒されたリカバーがこれだ。
モール種などによる少数潜行が上手くいかなければ、より隠密性に優れるケラ種たちによる時間をかけた潜行。
それも防がれれば、数を突っ込ませて、包囲網から逃げ切った少数を潜伏させると言う第三案だ。
ただこれは……本当に保険の策だろうな。
これまでの潜行系二つと違って、成功率が極端に低いものになるはずだし、前二つが上手くいっている時にやったら、前二つを台無しにしかねない行動だ。
つまり、これを凌げば、とりあえずは大丈夫になるだろう。
「ザザァ……」
「ただ、凄く地味な絵面になるな、これ」
『それは……仕方がないと思います』
なお、その後のサーディン種の処理には二時間ほどかかった。
苦戦は無かったが、ただひたすらに小さな魚を探すという作業を繰り返すのは……まあ、中々に精神的に来るものがあり、捜索完了と共に俺はログアウトして休憩に入ったのだった。
次は予定だと6時からだが……4時にしておくか。
たぶん、そこで来るはずだ。
相手の奇襲が。
カメレオン:よくある透明化
ケラ:鈍足地中潜行。ソナーに対するステルスもあり。
スパロウ(雀):敵だと認識しないとシールドゲージの表示などが出ない。見た目もほぼ普通の雀そのもの。
ナマコ:一見するとただの石。攻撃されるまでシールドゲージが出ない。一度だけだが短距離ワープもする。
と言う感じで隠れています。