148:再合流
「さて……」
俺はバリケードから飛び出す。
そこは大量の弾丸が飛び交う空間であり、普通に立っていたらシールドを張っていてもあっという間に消し飛ぶような場所である。
なので突入に際して、俺は可能な限り姿勢を低くすることで被弾率を下げると共に、数秒程度ではあるがこの場を観察した結果として攻撃の手が少なめな場所を選んで突っ込んだ。
そして、攻撃の手が薄い場所を選ぶのは俺だけではなく、魔物たちもである。
バリケードから飛び出した俺の目の前では、グリーンゴートが触れた相手を吹き飛ばす光球を周囲に向かって飛ばしながら、姿勢を低めに保ちつつこっちに迫ってきていた。
「ゴッ……トォ!?」
「邪魔だ」
自分の手で倒している余裕はない。
という訳で俺はグリーンゴートの光球を避けると、懐に潜り込み、全身のバネを生かしたアッパーによってグリーンゴートを打ち上げる。
そして、グリーンゴートが突然真上に打ち上げられ、無防備な姿を晒すという動きに、周囲は素早く反応。
複数の弾丸が複数の方向から撃ち込まれ、あっという間にシールドは割られ、グリーンゴート自身の肉体にも弾丸が撃ち込まれて仕留められる。
「さ……て……」
で、グリーンゴートの撃破を確認した俺は周囲を素早く見る。
この場は四方八方から弾が飛んでくる。
という事は、こうして周囲を見れば、それだけで認識加速が発動するという事だ。
それも一秒、二秒程度ではなく何十秒とだ。
「次はお前だ!」
「ブヒィッ!?」
俺は認識加速、ケットシーテイル、ゴーレムの体の構造と言ったものを利用して、地面を蹴るサイクルを爆発的に上げ、最速最短で戦場を駆け抜ける。
そうなると当然ながら俺に向かってくる流れ弾もある。
が、その大半は避け、一部は近くに居た適当なラットやゴブリンをパンプキンアームで引き寄せて盾にすることで防ぎ、残りの一部は特殊弾でなさそうなのを確認した上でシールドで受け止める。
そして盾を構えて塹壕に向かっている途中だったグリーンオークの背後に駆け寄り、殴り上げ、周囲からの攻撃の的に変える。
「さあ、どんどん行くぞ!」
「ラミャ!?」
「ディル!?」
「リザッ!?」
俺はさらに打ち上げによる攻撃を仕掛けていく。
拳で殴り上げ、脚で蹴り上げ、肩で弾き上げ、『昴』をバットのようにして、近くにいる魔物を片っ端から打ち上げていく。
この状況下で重要なのは俺の手で魔物を倒す事ではなく、如何にシールドの損耗を抑えるかであり、俺はヒールバンテージでシールドの回復をしつつ、決して足を止めず、体勢も上げずに次々と敵を打ち上げ、他のプレイヤーに仕留めさせていく。
「パイイィィン!?」
グリーンパイコーンを殴り飛ばして爆発炎上させる。
「ブモウッ!?」
グリーンミノタウロスの後頭部を殴って怯ませ、戦場のど真ん中で立ち止まるという隙だらけの状態を作り出す。
「モッグゥ!?」
土竜人間……グリーンドワーフを鎧の隙間からシャープネイルと『昴』を差し込むことによってシールドを削りつつ、盾代わりに使って仕留める。
「ただやっぱり時には殴らないとなぁ!」
「ブビィ!?」
が、こうして生存を第一にしつつ、他プレイヤーにトドメを任しているだけではストレスが溜まる。
なので、偶々進行方向上に居て、ちょうどシールドケージが削られ切ったグリーンボアに全力のアッパーを決めて、衝撃で肉と内臓と骨を粉々にして打ち倒した。
うん、いい感触だ。
『トビィ。そろそろ』
「だな」
さて、流石にシールドが怪しくなってきている。
シールドが破壊されなければヒールバンテージなどで回復できるが、破壊され切ってしまうと特殊弾『シールド発生』を使って再展開しなければいけなくなってしまう。
この差は大きいので、一度脱出したいところだ。
という訳で、俺はフッセたちが居るバリケードの方に向かって駆けていく。
「グマアアァァ!」
「おっ、ちょうどいいな」
フッセたちの居るバリケードの方を見れば、ちょうどグリーントロールがバリケードを破壊するべく、大きな斧を振り上げている瞬間だった。
フッセたちは勿論のこと、他のバリケードからも積極的な迎撃が飛んできており、今のペースならばバリケードが破壊されるよりも早くグリーントロールを倒すことは出来るだろう。
が、だからと言ってこんな隙だらけの姿を晒している魔物に攻撃しない理由もない。
という訳で俺はパンプキンアームを変形させて筒状にするとともに、その内側に『昴』を仕込む。
そして、パンプキンアームの先端ではシャープネイルを刃として、ドリルのように高速回転を開始。
その状態のままグリーントロールの臀部に俺は到達し……。
「うおっ……」
「グ……!?」
まずはドリルをグリーントロールの肛門に叩き込み、内臓をズタズタに引き裂く。
「らあっ!」
「ーーーーーーー!?」
そうして十分に奥まで腕が入ったところで、アームの先端を広げ、アーム内に仕込んでおいた『昴』を人力で出せる全力の範囲で発射。
グリーントロールは体の内側から心臓と脳みそを串刺しにされ、声にならない絶叫を上げながら絶命する。
どうやらシールドはいつの間にかなくなっていたらしい。
「よっと。無事か? フッセ、ハンネ、ネル、リツ」
さて、このままバリケードの外に居ると、更なる弾を撃ち込まれてしまう。
と言う訳で、俺はバリケードの中に素早く潜りこむと、フッセたちに声をかける。
「無事ですし、助かりましたわ。と、素直に感謝したいのですけれど、それ以上に誤射をしないように素早く指示を出した私様とリツを褒めて欲しい気分ですわ」
「トビィ。凄い動きをしてたわよ。後で動画を送ってあげるわ。いやー、あんな動きも出来るのね」
「……。無事。ドリルwithパイルバンカーは……効率的にどうなの?」
「無事やでー。あ、配信を見ているよいこのみんなは真似したらアカンよ。アレは『キャンディデート』でもトビィはん含め極一部しか出来ないような行動やからなー」
「全員元気そうで何よりだな」
どうやら全員無事だし、問題もないようだ。
俺に一瞥をくれた後、直ぐに自分の役目を果たしに戻っている。
では、俺もここに来た目的を果たすとしよう。