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『Scarlet Coal』-殴り魔は自らの欲を満たす  作者: 栗木下
4:『第一次防衛戦』
144/619

144:現実での情報共有

「ふうん……」

 ログアウトした俺はティガが送ってくれた情報を確認しつつ、現実でやるべき事を一つずつこなしていく。

 まあ、要するに飯を食ったり、トイレに行ったり、情報収集をしたりなのだが。

 で、そうこうしている内に時間が経過し、ハンネが訪ねてくる。


「こんにちは、トビィ。いえ、スバルの方がいいかしら?」

「どっちでもいいぞ。ハンネ」

「じゃあトビィで」

 さて、ハンネが訪ねてきたわけだが……。


「で、そっちは誰だ?」

「……」

 ハンネには同行者が一人いた。

 しっかりとスーツを着込んだ男性であるが、体つきや立ち方から相応に武術の心得がありそうな人物だ。


「彼は……スコ82内ではデイトレと名乗っているわ。それ以上は言えないわね」

「分かった。それ以上は問わないでやる」

 デイトレ……交換会の会場で会ったプレイヤーで、確か検証班の一人だったな。

 だが、生粋の検証班ではなく、政府関係の人員だろう。

 つまり、俺が持っている情報は政府も気にしているという事か。


「とりあえず入ってくれ」

「分かったわ」

「感謝します。トビィ様」

 俺はハンネたちを連れて家の中に戻る。

 そして適当にお茶を出す。

 で、口を多少潤したところで切り出す。


「最初に言っておくが、俺の出した情報をむやみやたらと広めるような真似はしないでくれ。向こうがわざわざ配信停止にまでして出したくなかった情報のはずだからな」

 この先の情報は迂闊に出せるようなものではないと、まずは釘を刺しておく。


「分かってるわ」

「勿論です。必要最低限の相手にしか伝えないと誓わせてもらいましょう」

「そうか、じゃあ話す」

 その上で配信停止後について……つまりはレキノーリ液とやらの雨が降っている空間、プラヌライの騎士、プラヌライの騎士武装『昴』について話した。

 その結果。


「く、黒一色の騎士を倒したのですか……それも圧倒的格下パーツだけで……」

「本当にブラックのランクだったのかは不明だし、相性が極めて良かったからだけどな」

「ふふふ、流石はトビィよね」

 デイトレのポーカーフェイスが崩れそうになっている。

 まあ、俺が圧倒的な格上を倒したと言う話を聞かされた連中にはよくある表情だな。

 なお、ハンネは俺がこういう事をするのに慣れているので、微笑んでいる。


「ちなみに証拠になるようなものは……」

「えーと……ああ、あった。ティガが送ってくれたデータの中に、未編集保証付きの戦闘データがあるな。一応渡しておく」

「あ、はい」

 では、配信視点ではなく俺視点のデータになってしまうが、生データは渡しておこう。


「それでトビィ。相性が良かったと言っていたけれど、実際どのくらい相性は良かったの?」

「そうだなぁ……」

 俺は指折り数えながらプラヌライの騎士のやり易かった点を挙げていく。

 とりあえず確実によかったと言えるのは……。


 人型、一対一、安定した地面、撤退しないAI、奪える武装、特殊能力なし。


 この辺りだろうか?

 これらの点が一つでも欠けていれば、俺はあっさりと倒されていたに違いない。


「なるほど。それは確かに相性がいいわね」

「だろう? 特殊弾も何も使えない環境だったし、正直に言えばイエローどころかブルーぐらいの魔物であっても、十数体規模で同時に突撃されていたら、確実に俺は死んでた」

「ブラック一体とブルー二十体、どっちの方が開発的には楽なのかは分からないけれど、開発はミスをしたとも言えるわね。普通の相手ならミスでも何でもないんでしょうけど」

「そういう事になるだろうな」

 逆に言えば、これだけ有利な点が重なってもなお、あれだけの時間を必要としたのだから、プラヌライの騎士が持つ戦闘能力の高さには驚かされる。


「ちなみに俺が手に入れたユニークウェポンはどう思う?」

「ご愁傷様、と言う言葉しか出ないわね」

 なお、プラヌライの騎士武装『昴』が呪いの装備であるという認識については、俺とハンネでも一致を見せた。

 やっぱりあれは呪いの武器だよなぁ。


「まあ、わざわざトビィの本名を銘に付けている辺りに何かありそうだとは思うけどね」

「かもな。ま、その辺は今の防衛戦を乗り切ってからだ」

「ええそうね」

 さて、俺の動画を見て頬をヒクつかせているデイトレは放置しておくとしてだ。

 この後や全体の状況、明かしてもいい情報についても話しておかないといけないな。


「俺は次にログインしたらどうすればいい?」

「プラヌライの騎士武装『昴』の仕様や性能チェックをしつつ、前線を抜けてきた連中の始末がメインね。可能なら地中の敵優先で」

「陽泉坑道・プラヌライには潜らなくていいんだな」

「一番奥まで行ったでしょうし、今回はもう潜らなくていいわ。それよりも、此処数時間で追加で明らかになった仕様とかもあるから、確認をしておいて」

「分かった」

 俺はハンネから何枚かの資料を渡される。

 なるほど、一時間ごとに魔物が出て来る穴の位置は変わるし、それまでの穴は閉じるのだが、その際に穴の入り口から内部に向かって100メートル程度の距離だと強制死に戻りなのか。

 現在の敵は僅かにグリーンの敵が混ざってきている程度だが、グリーンの敵よりもブルーの中でも能力持ちのが厄介、と。

 で、幾つかのサーバーと言うか別都市は……既に敗北し、プレイヤー全員強制ログアウトになっているが、それ以上の事態はまだ何も起きていない、と。


「……。なんか随分と偏りがあるな。落ちると思ってもいなかった国も多いし」

「ええそうね。ただ、これらの国の大半はイエロー、オレンジ、レッドの更に上、スカーレットの魔物に襲われたそうだから、落とされること自体は妥当な結果だと思うわ」

「ま、出現している魔物的にはそうだな。魔物的には、だが」

 なお、防衛に失敗した国には、ウチの近所にあるかなり大きな国も含まれているし、どうにも独裁色が強かったり、諜報活動に力を入れているイメージが強い国が多かった。

 俺の目で見ても偏りがあると感じられるほどなのだし、これらの国は防衛戦に関わる何かしらの致死性トラップを踏んでしまったという事なのだろうなぁ……。

 ま、細かいところは考えるにしても防衛戦終了後にするべきだろう。


「じゃ、こんなところか」

「ええ、こんなところね」

「では、失礼させていただきます。トビィ様」

 その後、幾つか細かい部分を話し合い、この場は解散となった。

滅びている国に偏りがあるのには、もちろん理由があります。

が、理由は一つではございません。


05/12誤字訂正

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― 新着の感想 ―
[一言] いつかの情報の拡散次第で敵が強化されるのがひとつとして 国側がプレイヤーに強制したりしたことで 別のサーバー(国)でプレイでもしようと思い プレイヤー側のボイコットみたいなことでも起こりまし…
[一言] 今見えた範囲で考えると、(ゲーム的に)よろしくない形の諜報をしかけたのかなぁ?抜かれるとは思えなくても遺憾の意だけでこうなるぞ的なの込めたり、いや、くすぐったくて身震いしただけかもだがw …
[良い点] 実際倒させるつもり無ければ、奪った武器ではダメージでないなり、何か変な能力持たせるなりで対策出来たろうから、開発側は倒されるの想定してはいるんだろうなぁ。
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