136:陽泉坑道・プラヌライ
「さあ、ガンガン奥へと潜っていくぞ」
『ブン』
魔物の群れをすり抜けた俺はトンネルのような穴の奥へ向かって駆けていく。
だが、ただ駆けていくだけでなく、時々頭を左右に振って視界を動かし、穴の中の情報を少しでもかき集めていく。
穴は全体としてはトンネルのような半円状の構造。
床も壁も恐らくはコンクリート製で、僅かな凹凸はあるものの綺麗に整えられている。
照明は少なく、薄暗く、微妙に見づらい。
「「「ーーーーー!」」」
「ウェーブ4か」
『パイコーン、ゴートが混ざっていますね』
正面に魔物たちの姿が見えた。
既にこちらを認識していて、遠距離攻撃の構えを見せている。
そして、こいつらが穴の外に出れば、ウェーブ4の開始という事になるのだろう。
「「「ーーーーー!」」」
俺一人に向けて攻撃が殺到する。
が、トンネルはそれなりに幅が広く、認識加速も入っている状態ならば、避ける事はそう難しくはない。
なので俺はサイドステップを刻んで弾を避けつつ、前に進む。
「ブヒィ!」
「バウッ!」
そうして十分前に進むと、今度は近接武器を握った魔物たちが攻撃を仕掛けてくる。
これも普通に避ければ済むが……少し試すか。
という訳で、振り下ろしは斜め前に跳ぶ事で、横薙ぎはしゃがんで、掬い上げは体を横に倒すように跳躍し……両足踵のケットシーテイルが地面から離れる直前に左腕をトンネルの天井へと伸ばすことで異常重力を回避しつつ掬い上げを避ける。
で、伸ばした左腕はそのまま前方の地面に引っ掛け、巻き上げ、地面を蹴る勢いも合わせることで一気に移動して魔物の群れを突破。
そのまま穴の奥へと向かっていくと、魔物の群れは俺への攻撃を諦めたらしく、フッセたちが居る穴の外へと向かっていく。
よし、燃料以外の消費がない高速移動と回避に成功である。
「ティガ。配信は?」
『続いています。少なくともティガたちが認識できる範囲では。それとトビィ。先ほどの接敵から、地名が変わったようです』
「だろうな。新しい地名は?」
『ブン。これです』
俺はすり抜けた魔物たちを無視して、そのまま穴の奥へと向かっていく。
すると俺の視界の隅に一つの画面が表示された。
△△△△△
陽泉坑道・プラヌライ
階層:?
『第一次防衛戦』にて出現した、魔物たちが現れる謎の穴。
内部は明らかに人工的な構造をしている。
詳細は不明。
▽▽▽▽▽
「陽泉坑道・プラヌライ、ね。それ以上は自分で調べろって事か」
『ブン。そうなるのでしょう。なお、このデータは今この場で受信したものです』
俺は自分の燃料の残りを改めて見る。
すると僅かにだが減っている。
今回のイベント中は街坑道・ヒイズルガに居る限り燃料は無限だったはずなので、これだけでもここが街坑道・ヒイズルガに属していないことは分かる。
そして今のティガの発言。
ティガはサポートAIであり、運営側の存在だ。
それが、開示された、ではなく、受信した、と言ったという事は、此処が運営側の管理区域ではなく開発側の管理区域という事を示しているのだろう。
「分かれ道……」
と、此処で俺は分かれ道に出る。
俺が今まで走ってきた通路含めて、四方向に……いや、軽く地面を叩いて、その衝撃で探ってみた限り、俺が来た道以外は直ぐ先で更に前後上下左右に分かれていて、網の目あるいはアリの巣のように、複雑に入り組んだ通路を構成しているようだ。
『どち……トビィ!?』
「こっちだ」
俺は通路の一本に向かって駆けていく。
その通路を選んだ理由は極めてシンプルだ。
「ブモッ!?」
『魔物の群れです! トビィ!』
「知ってる。知っていて選んだからな」
先ほど通路の構造を探った時に、一番俺に近い魔物の群れが居た通路だからだ。
そう、俺の役目は此処、陽泉坑道・プラヌライの強硬偵察。
敵を倒す必要はないが、積極的に見つけ出してすり抜ける必要はあるし、もっと言えば……魔物が出て来る通路の先には、魔物が集まっているか生み出されている場所があるはずで、奥へと確実に続いている通路と言えるからである。
「ブヒイイィィ!」
『ブルーボア来ます!』
駆ける俺に向かってブルーボアが突っ込んでくる。
他の魔物もオーク、牛……バイソンに、トロール、リザード、ミノタウロスと突撃能力に優れているように思える魔物が多く、ブルーボアに続く形でこちらを轢き潰そうと迫ってくる。
どうやら、実際にこいつらが何ウェーブ目の魔物になるかは分からないが、いずれは特定の役割に特化した魔物を集めたウェーブも出て来るという事だろう。
「『影縄縛り』からの……」
では突破しよう。
「ブヒッ!?」
俺はまずパンプキンアームを伸ばして、先頭のブルーボアの影に指先を突き刺し、特殊弾『影縄縛り』を発動。
影から出てきた黒いロープ状の物体によってブルーボアの動きが止まる。
そして、全員が突撃している中で先頭が強制停止すれば……。
「「「ーーーーー!?」」」
後ろは止まり切れずにぶつかり合い、潰れ合う。
だが、シールドによって守られている魔物たちがこの程度で死ぬはずはなく、潰れたものは潰れ切った次の瞬間には自然の摂理に従って押し戻しが始まる。
「此処だ」
俺はその押し戻しが始まった瞬間に、ブルーボアの体を全力で殴り飛ばす。
押し戻しの勢いを増すようにだ。
結果。
「「「ーーーーー!?」」」
俺を潰そうと集まっていた魔物たちは全員まとめて弾け飛ぶように吹っ飛んで、壁や地面に叩きつけられる。
そうして魔物たちが怯んだ隙に、俺はこの場を駆け抜ける。
なお、先ほど殴る際についでに特殊弾『発熱性感染症』を一発撃ちこんでおいたので、これでこの魔物たちには風邪が広まる事だろう。
『……。トビィ。今、明らかに物理的におかしな現象が起きたように思えるのですが……』
「そうか? タイミングが難しいのは分かるが、おかしな事は起きていないだろ」
『ブ、ブブ。ブーン……』
一瞬、俺はフッセたちの配信を確認する。
どうやら前線はまだまだ余裕なようで、何処も陽泉坑道・プラヌライから魔物が出てきた直後に仕留める事が出来るようだ。
後方が役目を果たしていることを確認した俺は、自分の役目を果たすべく、走る速さを増して、奥へと向かっていった。
念のために申し上げておきますが、流石に現実でこれは出来ません。
ゲーム内だからこその技術です。
05/04誤字訂正
05/05誤字訂正