135:第一次防衛戦・開始
「後60秒や! 全員備えとき!」
「「「……」」」
イベント開始まで60秒。
補給役であるリツの声が周囲に響く中、フッセたちは事前に築いたバリケードや塹壕でそれぞれの得物を構えて待機している。
そして俺と言えば……。
『ブブ。この位置は本当に大丈夫なのですか?』
「大丈夫ではないな。けれど、穴へ突入するなら、此処しかなかった」
敵が出現するとされている魔法陣から数メートルしか離れていない地面を浅く掘り、背中側からの攻撃に備えた屋根を可能な限り低く付けた、俺が出て行った後は落とし穴として使えそうな穴の中で伏せていた。
「30秒や!」
俺の位置から見えている魔法陣は四つ。
地上に接しているのが二つ、空中に出るのが二つだ。
俺はイベント開始から数分程度は此処で敵の湧きを確認し、魔法陣が変化して生じるであろう穴の中へと突入できると判断したら突入する事になる。
なお、俺がこの場で穴の外に出てきた魔物へ攻撃する事はない。
それは俺の役目ではないからだ。
「10……9……8……」
「さて、気合を入れるぞ」
『ブン』
俺は拳を握りしめて、呼吸を整える。
一瞬目を瞑って、精神を安定させる。
よし、いい感じだ。
「3……2……1……開始や!」
イベント開始。
「「「ーーーーー!!」」」
魔法陣が穴に変化する。
地上の半円状の穴の向こうから、ブルーのランクのゴブリン、ハウンド、コボルト、オーク、ラットと言った魔物たちが次々に出て来る。
空中に出る穴の向こうからは、ブルーのランクのレイヴン、ホーネットたちが少数ではあるが、途切れなく出て来る。
俺に見えている範囲にある四つの穴から、1秒ごとに10体以上は魔物が出て来ている。
「戦闘開始ですわ!」
「「「撃てーーーーー!」」」
フッセたちも動き出す。
発砲音が途切れなく鳴り続き、穴から出てきた魔物たちのシールドに銃弾がぶつかり、シールドが消滅した魔物たちは骨肉を飛び散らして息絶え、消え去る。
その圧倒的な弾幕は魔物が穴から出て来るペースよりも早く魔物の数を減らしていき、フッセたちが潜む陣地のはるか手前で撃滅していく。
また、放たれるのは弾ばかりではなく、爆弾や火炎瓶などもあり、フッセたちの攻撃音は多種多様な音で構成された音楽のようになっている。
「完全に戦争だな。こりゃあ」
『ブン。そうですね』
だが、魔物たちもただやられるばかりではない。
盾を持ったオークが前に出て僅かばかりに時間を稼ぎ、その陰からゴブリンとコボルトたちが当たるを幸いに銃を撃つ。
狙いを乱すべくハウンドとラットがとにかく前に出て、圧力をかけてくる。
空を飛ぶレイヴンとホーネットは乱雑な軌道を描いて、攻撃を避けつつ防衛戦の突破を図ってくる。
「1……2……3……」
しかし、流石にこちらが数も質も上回っているからだろう。
一分と少しで全ての魔物は倒された。
だがこれは第一波に過ぎないはずだ。
「4……5……6……」
魔法陣が変化した穴は消えない。
地面を伝わってくる振動からして、穴の奥から新たな魔物がこちらに向かってきている。
うん、やはり第二波があるようだ。
「7……8……9……第二波、来るぞ! 3秒後だ!」
「第二波来るで! 構えや!!」
俺の配信を通じて第二波が来ることを悟ったリツが声を張り上げる。
リツの言葉に従って、再びフッセたちが銃を構える。
「「「ーーーーー!!」」」
「「「撃てえええぇぇぇ!!」」」
そして先ほどと同じような光景が再び繰り広げられる。
だが完全に同一ではない。
魔物たちの中には、先ほど見かけなかったブルーボアが混ざっているのが見えた。
どうやら少しずつだが、敵の種類が増えていく仕様であるらしい。
つまり、今回の防衛戦はよくあるウェーブ制でもあるわけだ。
「ハンネ、フッセ、ネル、リツ。今出ているのがある程度殲滅されたら出る」
であれば、穴の中には早めに入っておくべきだな。
ウェーブ制であるならば、敵の種類が増えていくのは勿論こと、強さも上がっていくのが当然。
そうして敵が強くなれば、徐々にウェーブとウェーブの間にある時間が狭まっていくのは明らかで、そうなれば俺が突入する隙も無くなる。
また、穴の中に入れて、穴の先にいる敵の姿を目視できた場合のメリットもウェーブが進むほどに重要になっていく。
どんな敵が居るのかと言う情報は、防衛戦においては極めて重要なものだからだ。
「第二波……いや、ウェーブ2、殲滅完了や! 直ぐに次が来るで! 構えや!!」
「出る!」
ウェーブ2の殲滅が完了。
と同時に、俺は伏せていた穴から飛び出して、壁の穴へ向かって全力で駆けていく。
「6……7……8……来るか!」
「「「ーーーーー!」」」
穴の中へ突入。
穴の中は照明の乏しい薄暗いトンネルのようになっており、奥の方へと道が続いている。
同時に前方にブルーのランクの魔物の群れを目視。
魔物の群れも俺を認識し、即座に戦闘態勢を取る。
複数の銃口が俺へと向けられ、発砲。
認識加速が発動する。
「ここは煙幕一つで十分」
俺は認識加速によって見えるようになった弾丸を避けつつ、グレネードホルダーから特殊弾『煙幕発生』を発動したグレネードを投擲。
魔物の群れの足元で爆発したグレネードは魔物の群れを覆うように煙を発生させ、俺の姿を魔物たちの視界から隠す。
そして、煙幕が発生している間に俺は姿勢を低くした状態で、魔物の群れの脇を駆け抜け、穴の奥へ向かっていった。