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『Scarlet Coal』-殴り魔は自らの欲を満たす  作者: 栗木下
4:『第一次防衛戦』
134/619

134:より深き闇より ※

本話はハンネ視点となっております。

「くそっ、覚えていやがれ、あのメス豚共め」

「何時か絶対にぶち殺してやる……」

「これは陰謀だ。検証班と大手連中は運営と繋がっているに違いない」

「そうだ。そうに決まっている。そうでなければ、こんな事になるはずがない」

 『ネオンライター』に属する実況者たちと、その取り巻きたちは這う這うの体でトビィたちの近くから逃げ出すと、イベント開始直前の街坑道・ヒイズルガを愚痴りながらうろついていた。

 彼らの口から出る言葉ははっきり言って汚い。

 自分たちは正しい、間違っているのは奴らだ、上手くいかないのは誰かの陰謀だ、邪魔をするものは排除されるべきだ。

 そんな事ばかり言った上で、自分たちの要求を蹴ったフッセ、そしてリーダーであるリヒトマティータを攻撃したトビィへと蔑みの言葉を発している。


「「「……」」」

 そんな彼らに対して向けられる視線は冷ややかなものであるが、それと同時に、誰も彼もが決して近づこうとはしない。

 当然だろう。

 今が忙しいイベント開始直前であることなど関係なく、こんな連中に近づきたいと思うものは居ないのだから。


「こんにちは、お兄さん方」

「あ?」

「んだ、てめぇは」

「俺たちは今、ちょー機嫌が悪いんですが?」

 だが、そんな中で敢えて集団に近づいていくゴーレムが一体居た。

 そのゴーレムは大きな盾と大型拳銃こそ持っていたが、全体的には女性的なフォルムであり、声もまた女性のそれだった。


「ごめんなさい、ちょっとした用事があるのよ」

「用事だぁ?」

 周囲には集団に属するゴーレムか、声をかけてきたゴーレムの姿しかない。

 これは偶然ではない。

 この場は今回のイベントにて指示役を務める検証班……より正確には検証班に属する政府関係者が定めた第一次防衛ラインと第二次防衛ラインの間であると同時に、周囲へのアクセス、守りづらさなどからプレイヤーを置かないと決めた場所だったからである。


「ええそうなの。貴方たちにはね……」

 だが、その異常性に集団は気づかなかった。

 彼らのしていた配信がいつの間にか強制終了されている事にも、サポートAIたちが沈黙している事にも気づかなかった。


「おい、こいつ確か……」

「ちょうどいいな。リーダーのかたき討ちだ」

「問題は無いよなぁ。だってクソ虎女の不意打ちだって問題ないんだからよぉ」

 彼らが気付いたのは、目の前のゴーレムを操っているのが、『Fluoride(フロライド) A』のメンバーの一人であるハンネである事だけだった。

 そして彼らはそれにしか気づけなかった。


「「「ぶっ殺す!!」」」

 だから彼らはハンネに襲い掛かろうとして……。


「ゴーレムの核が何処にあるのかと言う検証の実験体になってもらう用事があるの」

「「「は?」」」

 次の瞬間には彼らの足元が多段階に爆発。

 全員のシールドが消し飛び、両脚が吹き飛ぶ。

 そして、何処からともなく現れたどこにでも居そうな見た目のゴーレムたちによって、全員の両腕が切り離され、頭も両目が潰されて視界を奪われる。


「なんだ!? 何なんだよこれは!?」

「こんなことが! こんなことが許されると思っているのか!?」

「ログアウト……出来ない!? どうなってんだこれは!?」

「陰謀だ! 策略だ! 犯罪だぁ!!」

 彼らは叫んだ。

 彼らの叫びは珍しく世間一般の反応に沿っていた。

 だが、彼らの叫びはむなしく響き渡るだけであり、どこにでも居そうな見た目のゴーレムたちの手は止まらない。


「助けて! 助けて!!」

「俺が悪かったから! お願いだから!!」

「ゆ、許してくれぇ!?」

「チクショウ! 誰だ! 誰なんだよお前らはぁ!!」

 核を傷つけないように胴体を切り刻むことでインベントリの中身を取り出し、修理用のマテリアルやパーツを奪い取り、両手両足を完膚なきまでに破壊することで身動きを取れないようにし、最低限必要な部位だけ残して頭を潰すことで情報を制限する。

 その上で防音性に優れた袋に詰めて、どこにでも居そうな見た目のゴーレムたちは何処かへと去っていく。

 それは正に犯罪行為そのものであり、ゲームの中であるからなどと言う言い訳が一切通じないような振る舞いだった。


「うーん、完全に我が国の暗部ね。ブラック極まりないわ」

「必要な措置だ。防衛戦とは外からやってくる敵の対処と同じくらい、味方と言う名前の内側の敵にも対処しなければいけない戦いだからな」

 ハンネの背後に黒ずくめのゴーレム……ウチサイダが現れる。


「さて、分かっているとは思うが、他言無用だ。言えば……分かるな?」

「分かってるわ。私の使っているVRゲーム機が完全な拘束具になるのはゴメンだしね」

「おや? 奇妙な事を言うな。彼らがログアウトできないのは、彼らの使っている機器に違法な改造が施されているからであり、ただの自業自得。我々が関与したところではない」

 ウチサイダの言葉にハンネは肩を竦める。

 そういう事にしておけ、と言う無言の指示であると同時に、自分たちがやったと言う、無言の肯定でもあるからだ。


「そしてこの後に起こる事柄についても、我々からの強要は一切ない。全て彼らの善意と協力の下に行われる検証だ。だから安心して、仲間の下に戻るといい」

「ソウネー。ソウスルワー」

 だがここで深入りすれば、自分も善意の協力者になってしまうだろう。

 それはそれで経験してみたいところだが……今はイベントを優先したい。

 後で検証結果を貰えばそれで済むウチサイダたちの件と、現地でないと取りこぼしが出るであろうイベントならば、イベントの方が重要。

 そう判断して、ハンネはウチサイダから距離を取る。


「ああでもそうね。一応、外部の協力者として言っておくけど、自分たちが暗部である、誰を対象にするかを選択する権利は自分たちではなく法にある、そういう認識はしっかり持っておくべきだと思うわ。でないと、貴方たちこそが善意の協力者になりかねないわ」

「言われなくても分かっているとも。我々は道具だ。主義思想は持っていても、行動するのは上からの指示に従って。そして上が法に従っていないのなら、指示があっても動かない。まあ、我々の法と君たちの法には多少の差異があるかもしれないしれないが……それでもフッセ嬢のような人物を対象にする事は絶対にない。これは断言しよう」

 ハンネとウチサイダの間の距離はそのまま離れていく。

 ハンネはフッセたちが居る場所へ向かって。

 ウチサイダは再びこの場に特殊な武装の一種である地雷を埋めてから仲間たちの居る場所へ向かって。


 この日、『ネオンライター』と言う名前の実況者グループは一切の活動をしていないことになった。

ちょっと悪い連中と言うのはね、もっと怖い連中の餌でしかないんだよ。

だからこう言うのに巻き込まれないためにも清く正しく生きようね。

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― 新着の感想 ―
[一言] うーん樽に似てはいるけど、あっちは「善意の協力者」になるのはそれ以降の未知が知れなくなるのでなりたいとは思わない気がする まあ喜んで観察しそうだけど
[一言] 2度目失礼します >この日だけなのですよ。怖い事にw なるほど 近所の奥様A「最近あの方雰囲気変わりましたね」 奥様B「そういえば、あんな顔してましたっけ?」 コウデスネ、ワカリマス
[一言] 運も悪いやつらだ、これが普通のゲームだったら怖いお兄さんなんてそうそう出てこなかったろうに
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