129:解読ボーナス
「ふあっ……」
「ブブ。眠そうですね。トビィ」
午前6時。
一眠りした俺はハンネとフッセの二人から送られてきたメッセージによって、朝食を食べ終わった直後にスコ82にログインする事になった。
「本音を言えばもう一眠りはしたかったところだからな」
「ブン。そうですか。さて、トビィ、事前通達通り、既に通常の坑道は一時閉鎖となっており、このラボから行けるのは街坑道・ヒイズルガのみ。それもゴーレムを操っている場合だけです」
「ああ、分かってる。で、それだけじゃないんだろ?」
「ブン」
既に状況は始まっている。
どうやって集めたのか、そして指示を出したのかも知らないが、街坑道・ヒイズルガではバリケードなどの構築を含む、防衛戦に備えた準備が着々と進んでいるらしい。
で、その関係で何かがあったからこそ、二人は俺にメッセージを送り、俺はログインしたのだ。
「第一次計画の計画書、それの解読成功ボーナスとして、魔物が出現する穴が表示されるようになったとの事です」
「らしいな。さて、実物を見に行くか」
という訳で、俺はゴーレムに意識を移すと、街坑道・ヒイズルガに移動。
「深さはこんなものか?」
「ああ、こんなところだろう」
「まさかゲームの中でも塹壕を掘らされるとはな……」
俺の移動先は当然ながらフッセたちが居る北区。
北区は元々が自然溢れる場所であり、地面がアスファルトやコンクリートではなく土であるためか、バリケードだけでなく塹壕を掘っているプレイヤーも居るようだ。
また、地形の凹凸や小川、水場も戦闘に活用できるように、工夫が凝らされているように見える。
「トビィが来たわよ。フッセ」
「そうみたいですわね。トビィ! こちらですわ!」
「今行く。ハンネ、フッセ」
街坑道・ヒイズルガの周囲は岩の壁に覆われている。
岩の壁は何かしらの技術によって、やがて青空へと変わっていくのだが、今日は壁もドームも岩本来の色になっている。
そして、岩の壁の前にハンネとフッセの二人が居た。
「これが第一次計画の計画書を解読した成果って事でいいのか?」
「そのようですわ」
岩の壁には青い円……魔法陣のようなものが幾つも浮かんでいた。
地面に近いものは半円状で、直径は5メートル前後。
地面から離れているものだと円形で、直径は2メートル前後。
一部の円は水場に繋がるようになっていて、こちらは水場のサイズに合わせた直径になっている。
「感想をどうぞ。トビィ」
「んー……出現してくるのはブルーのランク。地面に近い半円のからは主力となる陸生連中。高いところにある奴からは飛行系。水場のからは水棲系が出現。と言うところか?」
「まあ、そう判断するのが普通ですわね」
まあ、そこまで離れてはいないだろう。
そして俺と同じ判断をしているプレイヤーも多いのだろう、明らかに円から魔物が出現する事を前提に組んでいるプレイヤーが多い。
「ただ、これはあくまでも最初に出現する連中は此処から、と判断した方がいいだろうな。この手の防衛戦、相手は波状攻撃を仕掛けてくる事が多い。そして、波状攻撃を仕掛けるなら、最初の迎撃に対して有利を取れるポジションからだ」
「なるほどですわ」
「ふむふむ」
ただ、それに特化したら抜かれるだろうな。
相手の性格の悪さにもよるが、今回の防衛戦のルール上、最初の頃の魔物たちはこちらの戦力を削るよりも、戦線を突破して深く浸透する事を狙ってくる可能性が高い。
そうすれば、その深く浸透した一体の魔物を起点に新たな魔物を呼び出し、バリケードの後ろから攻め込むような事だって出来るだろうから。
「トビィ。現時点で壁の向こう側がどうなっているかは分かる?」
「壁の向こうか? んー、今は何もないみたいだな」
俺は壁を軽く叩いて、衝撃の伝わり方から壁の向こう側を探る。
だが、壁の向こう側は普通の坑道の壁の先と同じで、何も存在していないようだ。
しかし、第三坑道・アルメコウでの敵のリポップに際して感じた違和感に近い何かは魔法陣の辺りから感じているので、その内何かは出てきそうだ。
そして、その反応は地中に埋まっている辺りからも少し感じている。
「ああそうだ。魔法陣が地上にしかないと判断するのは危険だろうな。他の場所はともかく、北区なら地中系の魔物はあり得ると思う」
「地中ですの? ああ、モグラとかですわね」
「なるほど、無いとは言えないわね。そう言えばトビィ、このあたりの地中ってどうなっているのかしら?」
「この辺りか?」
既に分かっているのだが……俺は一応地面を軽く叩いてみる。
基本的には重力によって自然に絞まった普通の土、時々岩や丸太、と言うところだな。
ただ、深さ3メートルから先は壁の向こうと同じように、何も存在していない。
たぶんだが、特別な道具でも壊せないタイプの境界だろう。
逆に言えば、深さ3メートルまでの範囲なら、魔物もプレイヤーも今は地中に入れるようになっているようだ。
ちなみにだが、イベント開始前までは地面の下は十数センチぐらいのところまでしかなかったと思うので、イベントが開始されてから変更された部分であることは間違いない。
「なるほど。そうなれば、地中からも何かが出てくるのは確定。何かしらの対策はしておくべきですわね」
「上に連絡は入れておくわ。トビィの名前を出せば、信じてもらえるでしょうし」
「おう、任せた」
「あ、トビィ。折角だから他の地区の地中も見ておいてもらっていいかしら?」
「……。分かった、行ってくる」
「お願いしますわ。トビィ」
なお、その後、俺は他の地区でも同じように地中を検査。
どこも地面から3メートル下ぐらいまではあったという事で、早急に対策を講じられることになった。
まあ、上で頑張っていたら、下からすり抜けられていましたではたまったものじゃないしな。
「じゃ、俺はそろそろイベントの仕様に合わせたゴーレムに変えてくる。で、その後一度ログアウトして、イベント開始10分前くらいになったらログインする」
「分かりましたわ。時間外活動感謝しますわ。トビィ」
「イベントでも期待してるわ。トビィ」
さて、俺でないと確かめられないことは確かめた。
という訳で、俺は一度ラボに戻った。