126:ブルーフライ
『露天マップであるフロア2では飛行系が出現しますので、それを利用して稼ぎを行いたいと思います。少々退屈な光景になるかもしれませんが、よろしくお願いしますね』
サンソウたちは第三坑道・アルメコウのフロア2に突入した。
検証班によれば、第三坑道・アルメコウのフロア2と3は坑道構造が露天マップで固定されていると同時に、出現する魔物に必ず飛行能力を有する魔物が一種類含まれているらしい。
それはつまり、飛行能力持ちが次々に襲い掛かってくるフロアであるとも言える。
「坑道内での一時強化狙いか」
「そうなりますわね。強化具合は僅かですけれど、彼らがこれから挑む場所の危険性を考えれば、少しでも強化はしておきたいはずですもの」
「ただ、あまり長く留まり過ぎると、それはそれで消費がかさみ、後が厳しくなる。ある意味では腕の見せ所ね」
だが、サンソウたちはそれを逆利用して稼ぎ行為を行うようだ。
ゴーレムが足を踏み入れる事が出来ない、高圧電流を纏った草が生えている場所を飛び越えて襲い掛かってくるブルーフライ……人間の頭大のハエたちを淀みなく迎撃し、倒している。
ちなみに露天マップと一口に言っても、属性面を抜きにしても複数の種類が存在している。
俺が遭遇した沼地のように壁部分が水場になっているもの。
サンソウたちが今居る草原のように、壁部分が事実上侵入不可になるレベルのダメージゾーンで出来ているもの。
登れないように高く、脆く、鼠返しな壁になっているが、壁の上の空間で全体が繋がっているもの。
壁部分が底なしの谷になっているもの。
壁部分がそもそも存在せず、フロア全体が一つの部屋になっている……いわゆる大部屋。
などなどだ。
これらは露天マップと言うくくりでは一まとめにされるが、部屋を分けているものを無事に通り抜けるのに必要な能力が別物で、出来る事も微妙に違うため、注意が必要になるようだ。
余談だが、フロアの端については、絶対破壊不可の見えない壁が聳えているらしい。
目にする機会はまず無いようだが。
『しかしフライ種か。これは我々にとって幸運と言えるね。いや、我々に英雄になれと何処かの誰かが言っているのかな?』
『ほう、ダクティーさんはどうしてそのようにお思いで?』
『おや? サンソウは知らないのかな? フライ種と言うのはだね……』
サンソウたちの稼ぎは順調に進んでいる。
どうやらフライ種には生物系マテリアルに集まる習性があるらしく、ダクティーが置いた肉に誘き寄せられるように次々とブルーフライが集まり、狩られている。
ただ、リスクもあるようで、ブルーフライが肉に触れると、3体に増殖している。
増やし過ぎてしまうと、大惨事になりそうだ。
まあ、ビッカースの槍捌きを見る限り、狩り過ぎはあっても仕損じる事はなさそうだが。
「いやぁ、遅くなってしもうてごめんなぁ」
「……。遅刻した。謝罪する」
「お、来たか」
「来たわね」
「問題ありませんわ。リツ、ネル」
と、ここでリツとネルがやってきた。
サンソウたちはもう暫く稼ぎをしていて動きはないだろうし、観戦よりも俺たちの作戦会議を優先する流れになりそうか?
「ただ、視聴者の方を納得させるためにも、説明しても問題ない範囲で遅れた理由を言っていただけると助かりますわ」
「ん。分かったわ」
「……。分かった」
視聴者なぁ……俺のところは垂れ流しだから特に……いや、100人ちょっとは見てるな、なんでだ?
訳が分からん。
「視聴者のみんな、ごめんなー。メインの商談でちょっと揉めて、それのストレス発散で稼いでいたら、止めどころを見失ってもうたわー。本当に堪忍なー」
リツは商談で遅れると言っていたが、メインではなくサブの方が原因だったのか。
いや違うな、何となくだが、俺ががむしゃらに木やサンドバッグを殴っている時に似た雰囲気がある。
となると……本当に商談がストレス発散なのか、リツの場合。
「……。リアルで息子がちょっと生意気言っていたから、〆ていたらこんな時間になった。謝罪する」
で、続けてネルの謝罪なわけだが……。
「「……。息子!?」」
とりあえず俺とフッセのセリフが被った。
「……。言ってなかった?」
「私様は聞いていませんわね……。まあ、個人の家庭事情は実況配信には関係のない事柄ですので、私様が知らなくても何も問題はないのですけれど」
「俺も聞いてない。聞いてなくても何も問題は無いが」
「私は知ってたわよ」
「ウチはまあ、ネルはんの配信を聞いていて何となくそうかなー、とは思っていたで。雑談が家庭的やったし」
えーと、知らなかったのはフッセと俺。
ハンネが知っていたのは、いつもの情報収集の結果だろう。
リツは俺の前でネルの配信を見ていたのを知っているので、知っていてもおかしくはない。
「……。そう。じゃあ、この場で言っておく。僕には息子と娘が一人ずつ居て、息子はフッセと同い年。その縁で僕に気づいたみたい」
「そ、そうですの……」
「へ、へー……」
しかし、息子がフッセと同い年という事は……フッセって10代後半くらいだよな?
という事はネルは……いや、深くは考えないでおこう。
アバターでのやり取りをしている最中に相手の年齢を深く考えても大した意味はない。
「……。ちなみに僕はギリギリ三十代。旦那様とはラブラブで隠し事はなし。フッセのお父様もこの事は知っている。だから、『Fluoride A』の活動に問題が生じることはまずない。安心していいよー」
「あらそうですの。ならこの件はこれで終わりですわね」
「だな。何の問題もねえや」
「一部の青少年の性癖が壊れそうやけどなー」
「それはそれで一興と言う奴じゃないかしら?」
なんかコメント欄が騒がしくなってるな。
まあいいや、俺の配信は垂れ流しなので、スルーだ。
それよりもだ。
「じゃ、これで遅刻周りが終わりってなら、本題に入った方がいいんじゃないか?」
「そうですわね。本題に入りましょう」
メンバーが揃ったなら、やるべき事をやった方がいい。
「今回集まっていただいたのは、明日の第一回イベント、街坑道・ヒイズルガの防衛戦についての作戦会議をするためですわ。ではまずは……ハンネ」
「分かったわ。じゃ、現状で分かっている範囲で、今回のイベントについて説明していくわ」
という訳で、ハンネを説明役として、作戦会議と言う名の説明会が始まることになった。
正確な年齢は出しませんが。
ネル:ギリギリ30代
トビィ、ハンネ:20代
フッセ、リツ:10代
となっております。なお、外見年齢や所作は全員10代~20代前半に収まる模様。