122:護衛任務達成
≪第二坑道・ケンカラシからの脱出に成功しました≫
≪インベントリのアイテムをラボの倉庫に移送します≫
「おーっほっほっほっ! 突破成功ですわ! おほほほっ、皆様が私様たちを褒め称える言葉が快感ですわぁ! そして皆様の応援感謝ですわ!」
さて、無事にラボに戻ってくると同時に、フッセが高笑いを上げつつ、視聴者へと色々と言っている。
「応援ありがとうな。うん、うん、フッセはんたちとみんなのおかげで、ウチも第二坑道・ケンカラシ踏破や」
リツも同様。
まあ、二人は視聴者対応がしっかりしている配信者という事なのだろう。
「……。やる?」
「やる気はないな」
なお、俺とネルはそう言うのをしない配信者である。
なので、この後の確認と反省会の為にも早々にアバターへと切り替える。
「二人とも早いですわね……」
「垂れ流しだと予め宣言しているからな」
「……。同文」
「えーと、うん、そうやな、うん、うん。とりあえずアバターに変えるわ」
「そうですわね。配信時間も限られていますし、アバターに変えますわ」
そして、リツとフッセもアバターに変え、それからラボから適当なお店の個室へと手早く移動。
各々の好みに合わせた注文を済ませた上で、確認と反省会を始める。
「では初めに。今日はウチの第二坑道・ケンカラシの踏破を手伝ってくれてありがとうな。おかげで無事に第三坑道と素材坑道が開放されたわ。今後もみんなのサポートのために色々とやらせてもらうから、よろしゅうなー」
「感謝、ありがとうございますですわ。ネルとトビィも協力に感謝いたしますわ。さて、本来の護衛任務であれば、此処で報酬の受け渡しをする事になります。事前の取り決めでは私様たちが求めていた設計図を一人につき3枚という事にしていたわけですが……」
「可能なら一枚はチェンジで、フェイクウォールにした方がいいだろうな。なんなら、金を払ってもいいし、報酬をそれだけにしてもいい」
「……。視聴者も知りたがってる」
「まあ、こうなりますわね。私様も気になりますもの」
「せやろなぁ……じゃ、とりあえずコピーしてそれぞれに渡すわ。二枚目以降が必要かはそれを見てから判断してなー」
さて、まずは何を差し置いてもフェイクウォールについてだ。
有用性の高さは明らかだからな。
詳細な性能を確認したい。
△△△△△
フェイクウォール
種別:パーツ
部位:武装
対応:物理-物理-外部-遮蔽
通路に設置することで、本物そっくりな幻影の壁を作り出す装置。
幻影の壁に魔物が積極的に触れようとすることはない。
作り出された壁は誰かが触る、攻撃を受けるのいずれかで消滅する。
幻影の壁が消滅した際に、装置そのものも消滅する。
≪作成には同一のマテリアルが100個必要です≫
▽▽▽▽▽
「これはまた、随分と特殊な武装ですわね」
「マテリアル100個……武装込みのゴーレムを一式作れるレベルの数か」
「……。でも有用なのは確か。100個でも安いくらい。岩だったらそれぐらいは簡単な数だし」
「まあ、これを使う場面と言うのは、これを使わないと死ぬような状況やろしなぁ。そういう意味でも、消費はお優しいと思うで」
フェイクウォールは使い捨ての武装と言う非常に珍しいものだ。
俺の記憶が確かなら、戦闘中にインベントリから武装を取り出すのには数秒かかるはずなので、触れただけでも消えてしまうフェイクウォールは敵に発見された状態で使うような代物ではないだろう。
そして、一つ作るのに100個のマテリアルが必要と言う、これまでにない消耗の重さがある。
あるが……こちらはネルとリツの言うとおり、これでも安いくらいだろう。
なにせ、きちんと使えば脱出ポッドからの脱出が容易になるだけでなく、敵の侵入経路を制限するなど、幾らでも使い道はあるはずなのだから。
「で、これが今までに出てこなかった理由は……現状だと、一部の特定スタイルのプレイヤーしかレコードボックスから引けないからか?」
「恐らくはそうですわね。魔物からの入手だと、偽物の壁を作り出せる魔物をまず見つけ出さないといけませんから」
「レコードボックスからにしても、非戦闘員かつ大量のマテリアルを持ち歩いている、ぐらいの条件はあるやろうなぁ」
「……。単純にレア度と階層の問題もありそう」
なお、これまでにフェイクウォールが発見されてこなかった理由としては、前提条件の厳しさが原因だろう。
なにせレコードボックスから手に入る設計図は、開けたプレイヤーのこれまでが参照される。
となると、ガチガチの戦闘系である俺たちでは、戦闘を避けるどころか起きないようにするタイプの設計図が出てくる可能性は限りなく低くなるに違いない。
おまけにマテリアルの消費量からして、開けた時点でのマテリアル所有数とかも見られていそうな気がするし、開けたフロアがどの坑道の何階かも影響しているだろう。
つまり、リツのプレイスタイルの上に、相応の幸運を必要とするわけだ。
「……。それと、一つ、こういうのが出てきたという事は?」
「まあ、あると思いますわ。特異なプレイスタイルでないと出てこないような設計図は」
「あるやろうなぁ。それも一つや二つどころや無い数で」
「そして、そういう設計図の大半は当人しか生かせないが、中にはこういう誰もが必要とするものもある、と。厄介な話だ」
ただ、この場に居る面子でそういう設計図を引きそうなのは……やはりリツくらいか。
フッセは命中率は凄まじいが、スタイルとしてはただの遠距離連射になってしまう。
ネルも同様で、スタイルとしてはただの狙撃になってしまう。
俺の近接格闘は珍しいらしいが……運がたぶん足りない。
ちなみにハンネは……アイツのプレイスタイル自体は平凡だから、やはりなさそうか。
「ま、出したり絞ったりは検証班に丸投げでいいだろ。で、トラブルは運営に任せればいい」
「そうですわね。私様たちの役割ではありませんわ」
「……。同意。頑張って」
「せやな。応援しとるで」
なので、この話についてはこれぐらいでいいだろう。
その後、俺たちは普通に反省会を終え、コラボ配信は終了となった。