121:フェイクウォール
「さて、フロア6なんやけど……」
「脱出ポッドを見つけ次第脱出。それ以外に選択肢なんてありませんわ」
「……。護衛として護衛対象を危険には晒せない」
「まあ、グリーンキーパー相手となったら、流石に絶対大丈夫とは言えないからなぁ」
今回のフロア6は半水没した工場のような場所だった。
水場はまるでプールのようであり、段差には上り下りの為の階段も付いているぐらいだ。
なお、これは検証班の検証と情報収集によって明らかになった事だが、第二坑道・ケンカラシのフロア6は属性無しの水場ありと言う坑道構造で固定されているらしい。
「『ブン。脱出ポッドを見つけました』だとさ。一部屋目からとは、かなり運がいいな」
「あら、それは本当に幸運な事ですわね」
「……。効率的」
「そらええなぁ」
ただ、今回のフロア6を探索する必要はなさそうだ。
ドローンホーネットを飛ばしたら、簡単に脱出ポッドが見つかってしまった。
「あ、あー……」
「どうかしましたの?」
「……。問題?」
「あー、何かあったみたいやなぁ……何があったん?」
だが問題もあった。
「脱出ポッドから見える位置にグリーンキーパー・ケンカラシγの姿が見えてる」
「「「……」」」
今回のボス枠であるグリーンキーパー・ケンカラシγこと緑キパγが脱出ポッドが置かれている位置から見えているのだ。
それはつまり緑キパγからも脱出ポッドが見えているという事であり、緑キパγが遠距離攻撃を有していることを考えると……まあ、拙い。
ちなみに緑キパγは簡単に言えば牛の角が何百本と生えた巨大ウニであり、前後に一つずつの目を持っているので視界はとても広く、戦闘になれば雷を纏った角を高速で射出してくるそうだ。
「ブン。戻りました」
「おう」
さて、どうしたものだろうか?
緑キパγを倒しに行くのは、護衛としては駄目だろう。
となると、成功するかは分からないが……煙幕で視界を遮って、その間に脱出してしまうのが正解か?
「倒さずに済む方法があるなら、それを用いるべきですわね。優秀な護衛は敵を排除する事よりも護衛対象の安全を第一とするものですわ」
「……。同意。ここで戦うのは非効率」
「ま、そういう判断になるよな。煙幕なら出せるぞ」
残念ながらフッセとネルには緑キパγの目を誤魔化したり、長時間拘束する手段はないらしい。
まあ、前者は貴重だし、後者は緑キパγだと効果時間が大幅に短くなるから仕方がない。
なので、俺の煙幕でどうにかする事に決めようとして……。
「あ、そう言えば、こういう時に使えるかと思えるものがあるで」
「ん?」
「あら、なんですの?」
「……」
その前にリツが自分のインベントリを操作して、円盤状の物体を一つ取り出した。
「これはフェイクウォールと言う武装でな。ついさっき、ウチがレコードボックスで拾ったものなんや」
「ついさっき……ああ、フロア4で出たレコードボックスですわね」
「そう言えばフロア5.5で少し時間をかけていたな」
どうやらリツがついさっき手に入れた武装であるらしい。
「……。効果は?」
「設置した通路を塞ぐように偽物の壁を出現させる、とあるなぁ。出現した壁は攻撃を受けたり、触ったりすれば消えてしまうようやけど、見た目は本物そっくり。効果時間の制限は無し。後、特殊弾と同じで使い捨ての品なんやて」
「なんと言いますか、随分と珍しい品ですわね。この場では有用そうなので、試す価値はありそうですが」
「そうだな。試してみる価値はありそうだ。ティガ」
「ブン。必要なら通路まで運びましょう」
フェイクウォールはどうやらかなり特殊な品のようだ。
使い捨ての武装と言うのがまず珍しいし、その効果もユニークだ。
どの程度誤魔化せるかは使ってみないと分からないが……試す価値はある事だろう。
「じゃ、頼むで。ティガはん」
「ブン。分かりました」
という訳で使ってみる事に。
ティガがドローンホーネットを操ってリツからフェイクウォールの本体を受け取ると、脱出ポッドのある部屋と緑キパγの居る部屋の間にある通路へ移動。
そこで、通路の半ばにフェイクウォールを設置。
ティガはフェイクウォールから離れ、俺の下にドローンホーネットが戻ってきたところでリツがフェイクウォールを起動。
偽物の壁を出現させる。
「これは……凄いな」
「本当に本物そっくりですわねぇ」
「……。これ、第三坑道のラストでも必要になりそう」
「思っていた以上の代物やなぁ。これ」
俺たちは脱出ポッドに乗ると同時に偽物の壁の方を見る。
そこには本物にしか見えない壁があり、その先に居るはずの緑キパγの姿は全く見えない。
脱出ポッドの起動もしたが、それでも緑キパγがこちらの様子を気にしている感じはしない。
「……。リツ、フェイクウォールの設計図は売るつもり?」
「これだけの代物やからなぁ……もちろん売るで。けど、これなら薄利多売の形もありやろなぁ」
「応用性の高さが桁違いなのは明らかですものね。私様も欲しいですわよ。これ」
「と言うか、脱出の時の事を考えると、二枚か三枚は必須じゃないのか? これ」
≪3……2……1……脱出≫
そうして問題なく脱出ポッドのカウントは減っていき……無事に脱出した。
これにて護衛は無事に完了である。