120:ブルーエルフ
「いやぁ、ほんまに順調やな。ウチ一人の場合とは別物や。別物過ぎて参考になるか怪しい気すらしてきたで」
さて、その後も俺たちは順調に第二坑道・ケンカラシを進んだ。
まあ、一人でも突破出来る坑道を突破済みの三人が、余計な行動や迂闊な行動を取らない護衛対象を守りつつ、余計な探索をせずに進んでいるのだから、順調でない方が問題だろう。
「次の部屋には敵が居るな」
「分かりました。フロア5という事はブルーが混ざってきますわね」
「ん、そうなるな。せやったら、ウチは大人しくしてるわ。ブルーはウチやと無理やし」
という訳で、現在はフロア5。
坑道の構造は製鉄工場とでも言えばいいのか、凹凸のない整った壁や床、吹き出す蒸気や溶けた金属の噴水が罠として存在している。
「……。敵の編成は?」
「えーと、ブルーエルフ2にヴァイオレットゴート2だな。ブルーエルフは火炎属性持ち」
次の部屋には魔物が居る。
ブルーエルフは尖った耳、鹿の角、属性の宿った弓と魔法としか言いようのない攻撃を使ってくるのが特徴な、人間型の魔物だ。
なお、防具として青一色の軽鎧を身に着けており、伝承通りに美形が基本。
しかし、表記的には鹿人間と言う何とも言えない相手である。
ヴァイオレットゴートは菫色の毛皮を持つ山羊の魔物。
角を使った突進や、強靭な脚による踏みつけも強力だが、何よりも厄介なのは魔法によって光の弾を生み出し、それに触れると大きく弾き飛ばされた上に一時的に動けなくなるという攻撃。
また、脚部にゴートレッグを採用しているネル曰く、ゴート種は凹凸の激しい地形に強く、足場の不具合で転ぶことはないとの事。
「いつも通りで問題ありませんわね」
「ま、そうだな」
「……。効率よく行こう」
「頑張ってなー。もうこうなったら、今回のウチの出番は分配だけにしたいんや」
では、相手の編成、特徴、位置を把握したところで、戦闘を開始しよう。
「行くぞオラァ!!」
「「ディッ!?」」
「「ゴッ……」」
まずは俺が通路から飛び出し、通路から少し横にずれた場所を駆けていく。
そして、俺を認識したエルフとゴートたちは揃って俺へと攻撃を加えようと、弓矢を構え、光弾を発生させ始める。
「隙ありですわぁ!」
「「「!?」」」
そのタイミングでフッセが通路から飛び出し、アサルトライフルを連射しつつ、俺がずれた方向とは反対の方向に向かって踵のローラーを使いスライドしていく。
そして、放たれた弾丸はエルフとゴートたちのシールドを削り、攻撃を受けたことで注意もフッセへと向かう。
「……。好機」
「ディッ……」
此処で通路からネルが発砲。
デイムビーライフルの弾丸は真っすぐに片方のエルフの頭部へと向かっていき、シールドを粉砕。
「当然逃しませんわ。私様は出来る女ですので。おーっほっほっほっ!」
「「「!?」」」
直後。
フッセが僅かにアサルトライフルの銃口の向きを変え、シールドを粉砕されたエルフへと集中的に銃弾を浴びせ、挽肉に変える。
「「ゴッ……」」
「ディッ……」
当然相手もやられるがままではない。
通路に居るネルの射線が通らない位置へ、フッセへ攻撃できる位置へ、ゴートたちもエルフも向かおうとする。
「逃がすかよ!」
「「「!?」」」
が、その前に俺がゴートたちの下に到着。
ゴートたちにラリアットをかまして転ばせつつ、エルフにタックルをかまして吹き飛ばす。
「ナイスですわ! トビィ!」
「……。撃つ!」
「「「!?」」」
そうして生まれた隙を見逃す二人ではなく、フッセはゴートたちに、ネルはエルフに向かって発砲。
フッセの弾丸は俺ごとゴートたちを撃ち抜いてダメージを与え、シールドを削り取っていく。
ネルの弾丸はたった一発でエルフのシールドを9割がた削り取る。
そして、先述の通りにフッセの弾丸は俺にも当たっているが、俺へのダメージはない。
これはフッセがアドオン『友軍誤射無効』を付けていて、味方への誤射で生じるダメージをほぼなくしているからだ。
で、折角ダメージがほぼないのであればだ。
「「ゴゴオォ!?」」
「逸れた弾丸も利用しないと勿体ないよなぁ」
俺は認識加速が起きている世界の中で、パンプキンアームを紐状のガイドにすることで、フッセの弾丸の軌道を捻じ曲げ、ゴートたちに当たるように調整する。
という訳で、二方向から大量の弾丸を浴びせられたゴートたちのシールドはあっという間になくなり、そのまま撃ち抜かれる。
「ディイ、ファイア!」
「当たらねえよ」
で、このタイミングでもはや破れかぶれと言った様子でエルフが魔法を発動。
俺が居た場所に魔法陣らしきものが出現。
直後に火柱を噴き上げるが……来ると分かっていて、飛び跳ねる事も出来る俺にとっては、余波で僅かにシールドが削れる程度の攻撃でしかない。
「オラァ!!」
「!?」
なので難なく回避し、懐に潜り込み、右のアッパーによってエルフを打ち上げて、シールドを粉砕しつつ身動きを取れなくする。
そして、このタイミングでネルが発射して、トドメを刺した。
≪設計図:ロングボウを回収しました≫
≪生物系マテリアル:肉を1個回収しました≫
≪設計図:ゴートヘッドを回収しました≫
≪生物系マテリアル:骨を1個回収しました≫
「よし、戦闘終了」
「余裕の勝利ですわね。それにハズレ弾まで利用していただけるなんて光栄ですわ」
「……。三発で済むなんて効率的」
「実質被弾ゼロとか、本当に流石としか言いようがないで」
という訳で戦闘終了。
念のために損失がない事を確認。
それから次の部屋へと向かう。
「しかし、こうなってくると、今回のウチ視点の動画は、護衛対象は張り切らない、出しゃばらない、くらいの教訓しか得られない気がしてきたで」
「それ、守られる側としては重要ですわよ。護衛にとっては護衛対象が張り切って前に出る方が怖いですもの。そういう意味では、リツは護衛対象として理想的な動きをしてくれていますわ」
「それな」
「……。同意」
「ん、そうか。だったら資料的価値はちゃんとありそうやな」
なお、リツは護衛対象としてしか動いていないと言うが……戦闘終了後などに適宜緋炭石を補給してくれている時点で補給役としては仕事しているし、シールドの回復も俺が自前でヒールバンテージを持っているから必要ないだけだし、そもそもヒーラーならばそれ以上の仕事はない方が良い事である。
護衛対象としても文句なしであるし、リツが気に病む必要は一切ないだろう。
で、そんな話をしている間に俺たちはフロア6へと辿り着いた。
開発「鹿の角は生えていますが、トンガリ耳のイケメンなので、問題なくエルフです」