118:オートディガー
「『ブン。マテリアルタワー、緋炭石と岩です』だそうだ」
さて、少々の驚きはあったが、第二坑道・ケンカラシの四人での探索開始である。
先頭を歩くのはドローンホーネットを持つ俺で、ドローンホーネットを先行させることで次の部屋の状況を確認すると同時に、他のメンバーにも状況を伝える。
「敵影はありませんのね?」
「無しだ」
二番手はフッセで、右手にはアサルトライフルが握られており、何時でも撃てるようになっている。
「敵影の確認って、トビィはんなら居るなら居るって言いそうやけど……」
「……。確かにトビィなら報告はする。けれど、報告してくれるからと確認をしないのは非効率」
三番手はリツで、慎重に歩いている。
そして、最後尾はネルであり、時折だが後ろを確認して、後方から何も来ていないことを確かめている。
「非効率と言うか不用心って言うところじゃないか? そこは」
「信頼と信用は別物。と言う奴に近いですわね。トビィの能力は信用できますが、信頼しきってするべき確認を怠るのはNGですもの」
「なるほどなぁ。覚えておくわ」
「……。そうとも言う。後、リツは分かってて言ってるよね。今回の探索を守られる側の教本にするつもり?」
「あー、あー、ナンノコトヤロナー」
「ではトビィ」
「ああ、分かってる」
という訳で次の部屋に到着。
ティガの報告通りに二本のマテリアルタワーがあった。
俺たちは改めて部屋の中に危険がない事を確かめた上で、俺は補給を終えたドローンホーネットを次の部屋に向かわせておく。
で、マテリアルタワーの方はだ。
「……。フッセ。どちらも3回、10秒」
「分かりましたわ。ファイアッ!!」
ネルがゴーグルの機能によって遠距離から攻撃可能回数と時間を確認。
その上でフッセが腰に提げていた筒状の物体の先をマテリアルタワーに向けて素早くかつ正確に連射。
フッセの銃から発射されたガムのような物体は、二つのマテリアルタワーにそれぞれ三発ずつくっつくと爆発して、マテリアルタワーを破壊する。
「掘削用爆破小銃オートディガー、だったか」
「せやで。多くのプレイヤーが愛用している武装や」
フッセが使った武装の名前は掘削用爆破小銃オートディガー。
名前の通りに魔物やゴーレムへの攻撃能力を一切有さない特殊な銃である。
使い方は今フッセが見せた通りで、プレイヤーの技量に依存せず、命中さえさせれば安定してマテリアルタワーの破壊、一定量のマテリアルが入手可能という事で、一般には人気があるらしい。
「……。アドオン『オートコレクター』は?」
「きちんと付けていますから大丈夫ですわ」
だが、最大のメリットはフッセのように射撃能力に優れたプレイヤーが扱えば、魔物から逃げつつでも掘削が可能であることだろう。
フッセのようにアドオン『オートコレクター』を付けておけば回収も自動的に行われるし、その便利度は極めて高い。
「リツ。お願いしますわ」
「任せてーな」
フッセが『オートコレクター』による回収を終えたところで、リツに声をかける。
そして声をかけられたリツは、フッセに複数本あるケーブルの内の一本を渡し、両端をそれぞれ握る。
「で、こっちがインベントリ接続ケーブルか」
「……。効率的」
「そうですわね。受け渡しは一瞬で終わりますし、これなら移動しながらどころか、戦闘中に使う事も無理ではないと思いますわ」
「そうやとええんやけど、そこはウチのプレイヤースキルが足を引っ張りそうなんよなぁ」
リツが出したのはインベントリ接続ケーブルと言う、ほぼマルチでのみ用途がある武装だ。
効果はその名前の通りで、ケーブルに触れているもの同士のインベントリを繋ぎ合わせ、瞬時にインベントリ内のアイテムをやり取りする事が出来る。
通常のやり取りがインベントリから出して、出されたアイテムにお互いに手をかざして、所有権を移動させて、と言う具合に非常に手間暇がかかるものであるのに対して、このケーブルでのやり取りは最も時間がかかるインベントリから出すと言う行為を省けるだけ、スムーズになるのである。
今回はこれを利用してリツがフッセからアイテムを受け取り、リツから俺とネルにも緋炭石や修復用のマテリアルと言った必要物資を渡すことで、アドオンの余裕やスムーズな補給を試みる予定である。
「まあ、フッセとネルならともかく、俺とか最前線にいるだろうしな」
「ああうん。トビィはんを対象にアレをやるとか、ウチには完全に無理や。そんなに体は動かへん」
「……。無理はしない。そもそも護衛対象に助けられるのもどうかと思う」
「それもそうですわね。私様が言ったのも、理論上は不可能ではない、ぐらいの話ですし」
なお、これは特殊な仕様になるのだが、インベントリ接続ケーブルで渡すものがゴーレムの頭部、胴体、右腕、左腕、脚部のパーツであり、渡される側のそれらの部位が修復不可能なレベルで破損している場合、渡されたパーツが即座に装着されるというものがある。
この仕様を利用すれば、戦闘中に破損したパーツを即座に入れ替えて、素早く戦線復帰をする、という事も可能だろう。
理論上可能なだけであって、リツにそれが出来るかはまた別であるし、求めるべきではないのも確かだが。
「トビィ。調査が終わりました。候補の中にエレベーターがある部屋はありません」
「分かった。効率のいい探索をするなら……こっちか」
「では向かいましょう。そちらには何が?」
なお、これらの会話の裏で緋炭石の受け渡しを行っており、少量の緋炭石が俺の懐に入ってきている。
量が少ないと感じるのは……まあ、四人で分けているから仕方がない。
ちなみに緋炭石以外については、鉄あるいは未知のマテリアルは四人で山分け、金は俺、銀はフッセ、鉛はネル、他はリツが総取りとなっている。
これは需要とレアリティの都合から、事前の取り決めでこうなった。
「ブン。パープルハウンド1とパープルコボルト2でした」
「余裕だろうな」
「余裕ですわね」
「……。余裕」
「ウチ単体でも勝てるレベルやもんなぁ」
では、次の部屋に向かうとしょう。
俺たちは決めた通りの順番で次の部屋へと向かった。
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