112:『堅牢のキャンディデート』
「またグレネード……っ!?」
俺のグレネード投擲に対して、ビッカースは一歩下がりつつ盾を頭上に掲げた。
その行動は正しい。
グレネードの爆発による攻撃を防ぐのであれば、それが最も被害が少なく、俺への警戒が途切れない動きだからだ。
だが、グレネードの爆発による攻撃が行われる場合にはだ。
「特殊弾か!」
グレネードが爆発し、ビッカースの体を包み込むように煙幕が発生。
特殊弾『煙幕発生』の効果によって出現する煙幕には、当然ながら攻撃能力はない。
しかし、視覚に対する遮蔽効果はどれほど堅牢な盾や鎧でも防げるものではない。
さあ、此処が仕掛けどころだ。
「……」
俺は幾つかの行動を取りつつ煙幕の中へと躊躇いなく突っ込む。
行動の一つはサーディンダートの正面への投擲。
それは煙幕の中でビッカースの構えた盾に当たったのだろう。
甲高い金属音を響かせて、ビッカースの位置を俺に教える。
行動の一つは煙幕反対側に向けてのグレネードの投擲。
グレネードはまだ宙を舞っている。
行動の一つは特殊弾『睡眠』込みのサーディンダートを持たせたドローンホーネットの射出。
煙幕を回り込むように、素早く、独特の羽音を立てながら、ドローンホーネットは飛んでいく。
行動の一つは音もなく左腕を伸ばし、地面に接触させておく。
この時点で俺は煙幕の中に入り、跳躍して足音を消す。
「ちっ……」
ビッカースは俺から距離を取るように動き、煙幕の外に出た。
その姿がドローンホーネットを介して俺の視界に入ってくる。
そして自分に向かってくるグレネードを見て、改めて盾を構える。
首から上だけを動かすことでドローンホーネットに気づき、盾を上に向けて構えたまま槍を突き出す。
また、煙幕の中で俺がビッカースに向かってきていると予想しているのだろう。
ドローンホーネットを叩きつつ、飛び込んでくるであろう俺も迎撃できるように槍を振るっている。
だからずらす。
「!?」
グレネードが爆発して、ビッカースの頭上から爆風が襲い掛かり、衝撃によってビッカースの体をその場へと一瞬縫い留める。
ドローンホーネットは翅の動きによって、俺はデイムビーレッグの効果によって急停止して、ビッカースの槍を回避する。
そうして槍を振り切った姿勢になったところで……俺が居るとビッカースが予想していない方向。
頭が向いていない方へと伸ばしてあったパンプキンアームLから特殊弾『睡眠』込みのサーディンダートを射出。
四方向からの同時攻撃には流石に対応しきれなかったのだろう。
ビッカースの頭部にサーディンダートが直撃して、特殊弾『睡眠』の効果が発揮され始める。
「ぐっ……」
ビッカースの体から力が抜け始める。
だが、俺はそれを待つことなく前に出る。
ドローンホーネットも全速力で飛ばす。
最悪を想定するなら……と言うより、これほどの重戦士スタイルなら、範囲攻撃による致命的な状態異常の付与くらいは想定しているはずで、想定しているならプロゲーマーの資金力も使って対策の一つや二つは講じていてもおかしくはない。
現にビッカースに生じていた睡眠のエフェクトが既に消えかかっている。
恐らくは状態異常回復の作用を持つ特殊弾だ。
『ブン!』
「っ……」
「すぅ……」
ドローンホーネットの持っているサーディンダートが直撃し、睡眠の効果が新たに付与される。
だがそれもまた直ぐに解除されるだろう。
しかし、二度の睡眠付与と解除の時間は俺がビッカースに肉薄し、拳を引き、全力の一撃を撃ち込むには十分な時間だった。
「オラァッ!」
「!?」
全身各部の回転を伝えきった全力の一撃が、ビッカースの全身を覆うプレートアーマーの中でも比較的薄めの部分に突き刺さる。
衝撃がビッカースの体に伝わり、その感触が俺にも返ってくる。
そして、返ってきた感触に俺は内心で悪態を吐かずにはいられなかった。
ビッカースはプレートアーマーの下に粘土製のスキンを付けている。
それは現実でのプレートアーマーの下に柔らかい衣服を着こんで衝撃を和らげていたように、俺の拳による一撃の威力も大きく軽減している。
シールドの仕様がゲージ分だけなかった事にする、よりあり得ない状況となった方がシールドが削れるというものである事を思えば、ビッカースの着込みは防御を固めるためにはまったくもって正しい着込み方だった。
「だったら……」
ではこれをどうやって打ち破るか。
鎧を破壊できるほどの火力は俺には一つしかなく、その一つは安易に使えない。
だったら、プレートアーマーの隙間からシャープネイルを刺し込み、その下を傷つけることによってシールドを削るという古式ゆかしいスタイルで行くほかない。
なので俺は左腕の形を整え、狙いどころになるプレートアーマーの関節目掛けて攻撃しようとし……。
「無理やりにでも距離を取らせてもらおう」
「ぐっ!?」
直後、猛烈な勢いで突っ込んできたビッカースに撥ねられ、弾き飛ばされた。
何度か地面を転がり、勢いがある程度殺せたところで、素早く立つ。
ビッカースは……俺に向かって何かを投げた態勢を取っており、その何かは……十文字槍は既に俺の腹へと突き刺さっていた。
そして、俺が槍を抜くよりもはるかに早く、ビッカースは俺に向かって盾を構え、先ほどと同じように猛烈な勢いで突撃。
「特殊弾か……」
「その通りだ。隙も大きいが、威力も相応にある」
俺は押し潰され、シールドは全損。
追撃の槍の引き抜きによって、俺の核は破壊された。
≪勝敗が決しました。勝者『堅牢のキャンディデート』ビッカース≫
「いい攻め手だったが……手札が足りていないようだな」
「全くもってその通りだよ。次は鎧もその下も丸ごと吹き飛ばすように殴ってやる」
「ふっ、やれるものならやってみるといい」
俺は末期の言葉を残してその場から消えた。
うーん、知識不足もあるが、火力増強が出来るような特殊弾があれば、そう思わずにはいられないな。
小ネタですが。
ビッカースは二つのアドオン……『被ダメージ軽減』と『自己遮蔽透視』を付けています。