110:決闘11戦目
「さて、どんどんやっていくぞ」
『ブン。どんどんやっていきましょう』
ゼッシメカールに勝利した俺はその後もPvPに挑んでいき、勝利を重ねていく。
で、そうして挑んでいて分かったのだが、やっぱりゼッシメカールの動きは悪くなかった。
全身岩製のゴーレム相手に限った話ではあるが、慌てたのか驚いたのかは分からないが、誤って体を完全に地面から離すプレイヤー、見当違いの方向にマスケット銃を撃つプレイヤー、手足をもつれさせて転ぶプレイヤーと言うのが、案外居るのである。
まあ、第一坑道・レンウハクをギリギリでクリアしたプレイヤーたちだったのだろうな。
「これで10連勝、と」
『ブン。順調ですね』
そうして勝利を重ねていくと、やがてゴーレムの構成に銅や鉄が混ざったり、シールドを張ったり、特殊弾を使ったり、と言う具合に第二坑道・ケンカラシ攻略中っぽいプレイヤーが混ざり始める。
そうなると多少は歯ごたえも出てくるのだが……まだまだ余裕だな。
アドオン持ちと思しきプレイヤーもまだ居ないしな。
「しかし楽過ぎるのは……レートだから仕方がないか」
『ブン。こればかりは仕方がないですね。自分にとって適切なレートに到達するまではどうしても、と言う奴です』
まあ、レート戦と言うのは自分にとって適切なレートになるまでは歯ごたえがないものだ。
だが、そもそもとしてスコ82が始まってからまだ四日。
銃持ちのプレイヤーこそ多いが、環境どころかレート分けもはっきりしていない頃だろう。
ならば俺と同じようにレートに不釣り合いな実力者が当たる可能性もあるはずなのだが……この辺は運か。
≪マッチングに成功しました。闘技場に移動します≫
「さて次だな」
『ブン。どんな相手でしょうね』
では次の決闘だ。
≪対戦相手は『ヒヨッコ』のタカシになります≫
対戦相手が現れる。
人間型だが……太さからしてたぶんオーク中心。
頭はほぼほぼ人間っぽいが。
素材は岩ではなく何かしらの金属。
で、武器は……身の丈を大きく超える長さの巨大棍棒、恐らくは真鍮製。
ヴァイオレットキーパー・レンウハクが持っていたものに似ている気がするな。
≪決闘を開始します。構えてください≫
「キャンディデート……相手にとって不足無し」
「あのサイズの武器持ちは見たことがないな。要警戒か」
しかし、長さ3メートル近い巨大棍棒か……坑道内で使うには不便そうな長さの武器だな。
火力は見た目相応にあるのだろうけど。
≪3……2……1……決闘開始≫
「行くぞオラァ!」
「ま、当たらなければなんとやらだ」
決闘が始まる。
と同時に俺もタカシもシールドを展開しつつ前に出る。
ただし、その動きには明確な違いがある。
俺は駆け寄りつつ、サーディンダートを投げて、牽制や相手の動きの調査をする。
タカシは棍棒を構えながらすり足に近い動きでじりじりと近づき、サーディンダートは最小限の動きで避ける。
これは……相応の実力はあるとみていいな。
サーディンダートは見た目もあって相手の油断を誘いやすく、一発目を受けて大丈夫だったからと二発目以降も無警戒で当たるプレイヤーが多く、それ故に特殊弾『睡眠』を発動したサーディンダートだと気づいた時には手遅れと言う展開もこれまでに多かったのだが、タカシは仕込みがあると読んでいるのか、きちんと避けている。
「「……」」
そうしている間に俺とタカシの距離が詰まる。
俺がタカシの棍棒の間合いに入る。
「オラァ!」
「っ!?」
直後。
正確かつ腰の入ったスイングで、タカシは棍棒を振るい、俺の腰辺りめがけて攻撃を仕掛けてくる。
もちろん来ると分かっていたので俺は素早く後方に跳ぶ事でタカシの攻撃を回避。
反撃として特殊弾発動済みのものも一本含めたサーディンダートを投げつけるが……。
「おおっと」
「ちっ」
敢えて体勢を崩し、スイングの勢いと棍棒の重量を生かすことで移動。
タカシはサーディンダートを避け切る。
「おうっ……ラッ!」
「……」
タカシが距離を詰め、棍棒をスイング。
回避が容易で隙が大きい縦振りはせず、横振り一択で。
左右交互ではなく時折一回転してのスイングも折り混ぜながら連続で攻撃を仕掛けてくる。
これで軌道やタイミングが一定なら攻略は容易なのだが、それらは微妙にずらしているし、こちらのサーディンダートにはきっちり反応して避けるか、棍棒での撃ち落しを図ってくるから厄介な話である。
おまけに何かしらの特殊弾も利用しているようで、時折何かしらのエフェクトを纏ってもいる。
だが、タカシの構成を見る限り他の武装はなさそうだし、特殊な能力を有するパーツの類もないと見る。
では、そろそろ仕掛けよう。
「何度やっても……ウガァ!?」
俺はまずグレネードを投擲。
それも、タカシの体に触れる直前で爆発するようにカウントを調整したものだ。
これによって棍棒で身を守りはしたが、タカシの体勢は崩れた。
「ふんっ!」
「んなっ!?」
その間に接近。
右拳でタカシの顔面を殴って更なる崩しを狙いつつ、懐に潜り込み、紐状にした左腕と脚を使ってタカシの体を一瞬だが浮かせ、重力によって地面へと叩きつける。
「こ……あ?」
「チェックメイトだ」
そして、地面に叩きつけられたタカシの首に特殊弾『睡眠』を発動したサーディンダートを突き刺して強制昏倒。
タカシの動きが完全に止まる。
もちろん、此処から直ぐにタカシを倒せるわけではない。
タカシにはまだシールドゲージが残っていて、核への攻撃はなかった事にされるからだ。
だが、睡眠状態になれば、その手からは棍棒が離れる。
「よっと……。まったく、なんて重さの得物なんだか……」
俺はタカシの巨大棍棒を遠くへと投げ飛ばす。
そして、タカシの上に馬乗りになり、タカシの両腕を脚で抑え、両拳を構える。
「降参したいならするといいぞ」
で、降参と言う選択肢があることを明示した上で……。
「オラオラオラアァッ!!」
「!?」
武装解除したタカシを全力で殴りまくる。
勿論、タカシはそれに抗おうとするが、武装解除された上にマウントポジションを取られているのだ。
何かしらの特殊な機能を用いなければ、この状況から抜け出すのはプロでも難しいだろう。
「先ずは目ぇ! それから核だぁ!!」
「ぐっ、チクショウめぇ……」
やがてタカシのシールドゲージは消失。
タカシの体は頭を砕かれた後、核を砕かれた。
≪勝敗が決しました。勝者『越禍のキャンディデート』トビィ≫
「次は負けないからな……」
「おうっ、待ってるぞ」
余談だが、末期の言葉に限っては頭を砕かれるなどで喋れない状態にあっても、相手に伝えられるらしい。
地味に便利な機能である。
そしてこれで11連勝である。