109:決闘1戦目
「さて、まずは構成のチェックからだな」
『ブン。特に特殊弾の数はチェックしてください。毎日変わりますから』
決闘坑道・コロマスンのポッドに入った俺の視界には、何をするか選ぶためのメニューが表示される。
という訳でまずはゴーレムの構成をチェック。
と言っても、直前にチェック済みなので、特殊弾の数の確認とPvPには不要そうな装備を外しておくぐらいか。
△△△△△
トビィ
称号:『越禍のキャンディデート』
燃料:100/100
アドオン:広域攻撃耐性
アドオン:オートコレクター
頭部:デイムビーヘッド(鉄):魔力-魔術-境界-防御(特殊弾『シールド発生』銅4(弾数制限1))
胴体:デイムビーボディ(鉄):電撃-生物-外部-DoT
右腕:デイムビーアームR(鉄):侵食-化学-外部-特効
左腕:パンプキンアームL(鉄):侵食-物理-内部-拘束
脚部:デイムビーレッグ(鉄):物理-化学-内部-強化
武装:ナックルダスター(鉄・火炎):電撃-化学-外部-強化
武装:シャープネイル(鉄・侵食):氷結-魔術-境界-強化
武装:グレネードホルダー(銅):侵食-化学-外部-遮蔽(特殊弾『煙幕発生』3(弾数制限2))
武装:ケットシーテイル(粘土):氷結-生物-内部-強化
武装:ケットシーテイル(骨):氷結-生物-内部-強化
武装:サーディンダート(金):魔力-魔術-外部-拘束(特殊弾『睡眠』6(弾数制限2))
武装:ヒールバンテージ(青銅):魔力-魔術-外部-回復
武装:ドローンネスト-ホーネット(銅):魔力-化学-境界-召喚
武装:ドローンホーネット(銅):電撃-化学-外部-DoT
▽▽▽▽▽
「こんな感じか」
『ブン。そうなるでしょう』
使わないのでイグジッターは外す。
特殊弾のところにある弾数制限と言うのが、一度の決闘坑道・コロマスンの戦闘で使えるその特殊弾の数のようだ。
まあ、特殊弾『シールド発生』が一発だけなのは仕方がないな。
PvPで何ゲージもあるのはダレるし、PvEでもシールド頼みのごり押しは非推奨なのだろうから。
これで見た目は……左腕がおかしなデイムビーが、腰にグレネードと黄金色のイワシ6本、背中にハチの巣を付けているような感じに近いか。
「じゃ、早速PvPで挑んでみるか」
『ブン』
メニューからPvPのレート戦を選択。
マッチングするのを待つ。
1……2……3……。
≪マッチングに成功しました。闘技場に移動します≫
「早いな」
『良い事ですね』
俺の視界が変化していく。
コンクリートの壁に囲まれた直径100メートル程度の円形の闘技場。
遮蔽物として幅2メートルくらいの柱が数本立っている。
≪対戦相手は『デビュー』のゼッシメカールになります≫
俺から20メートルほど離れた場所に対戦相手が現れる。
全体としてはケンタウロスのようなシルエット。
だが、脚部は四本脚……恐らくはハウンドレッグ。
他はたぶんコボルト系統。
武器としてボウガン二丁。
そして、全身を構成するマテリアルはカラーリングでは隠せないほどの凹凸と粗さから見て岩。
これは……第一坑道・レンウハクを終えた直後では?
「うおおぉい!? 『越禍のキャンディデート』って、称号だけでも明らかに格上も格上じゃねえか!?」
犬の口が動き、悲鳴に似た男性……ゼッシメカールの声が闘技場全体に響く。
まあ、誰だってそう判断するよな。
俺だってそう判断する。
≪決闘を開始します。構えてください≫
「くぅ、それでもやれるだけやってやらぁ! 相手に遠距離武器がないなら、遠くからチクチクしてりゃあワンチャンある!」
「……」
『さて、どうしますか? トビィ』
ゼッシメカールがボウガンを構える。
俺も拳を構える。
ティガはどうするかと尋ねて来るが……そんなものは決まってる。
≪3……2……1……決闘開始≫
殴るだけだ。
「悪いなゼッシメカールとやら」
「ドタマブチ抜いて……はあっ!?」
という訳で、俺は特殊弾『シールド発生』を発動させつつ、ゼッシメカールに向かって全速力で駆けていく。
手加減? 馬鹿な事を言うな。
対人戦において舐めプ以上に失礼な事などない。
対人戦に出てくる以上はどれほどに実力差があろうと、絶望的であろうと、己にとって価値のある勝ちを目指して全力で殴りに行く。
それこそが礼儀と言うものだ。
「クソッ!? 何でゴーレムが走れるんだよ!?」
ゼッシメカールが両手に持ったボウガンを同時に放つ。
慌てている割に正確な狙いと共に放たれたボウガンの矢は真っすぐに俺の頭と胸に向かってくる。
シールドゲージで受けてもいいが……今後の為にも慣れておくか。
「ふんっ」
「ファアアアァァァッ!?」
俺は左手で腰に吊るされたサーディンダートを二本取ると、すぐさま投げる。
投げられたサーディンダートはゼッシメカールのボウガンの矢と空中衝突。
金の圧倒的な質量と一応は岩より硬い性質が合わさって、ボウガンの矢を粉砕。
そしてその間にも俺は、少しでも俺から離れようと足を動かすゼッシメカールに向かって駆けていく。
「クソッ!? なんでこんな格上と初戦から当たるんだよ!?」
「お生憎様。俺も初戦には違いないんでな」
そうして距離を詰め、正面に居る俺を咄嗟に前足で俺を押し潰そうとしたゼッシメカールの側面へ駆け抜け、その上で右拳を引き……。
「ま、運が悪かったと思ってくれ」
「やっぱりそういう事ですよねー!?」
ゼッシメカールが前足による踏み潰しを誰もいない場所に放ったタイミングで、俺は脇腹から胸の中心に向かって拳を突き出す。
鉄製の拳は岩の体を難なく砕き、その先にある核も容易に破壊。
≪勝敗が決しました。勝者『越禍のキャンディデート』トビィ≫
「くぅ……やっぱりチュートリアル終えたばかりじゃ早かったか……」
「動きや狙いは悪くなかったから、もっと装備が整ったらまた戦ってくれ。待ってる」
「そうかーい」
ゼッシメカールは末期の言葉を残して消え、俺の初戦は、俺の勝利であっさり終わった。
04/11誤字訂正