106:ブルーサーディン
「「「サササササ……」」」
さて、緑キパαを倒したこともあって、フロア6の探索は順調に進んだ。
緋炭石、属性無しの鉄、銀、岩、数体の魔物の撃破など、色々とあったのだが、当然どれも回収した。
で、折角の最終フロアという事でくまなく探索してみようと思ったわけだが……そうしたら奴を見つけることになってしまった。
『ブルーサーディンですね。トビィ』
「ブルーサーディンだな。100匹を超える」
ブルーサーディンである。
前回は勝てないと判断して撤退した魔物である。
『今回は勝てると思いますか?』
「どうだろうなぁ……」
俺はブルーサーディンの特徴を思い返す。
ブルーサーディンの特徴は……まあ、数だ。
同時に100体以上出現し、一つの群れとなって、部屋を回遊している。
そして、その一体一体がきちんと個体であり、別個にシールドゲージを保有し、別に動く。
もちろん、数が多い分だけ一体一体の戦闘能力は低いのだろうが、一体一体が一発は必ず耐えてくる群れであり、攻撃に最低保証があるならば数任せによって上位の相手でも食い破れる可能性がある危険な魔物だ。
「範囲攻撃手段はグレネードと……組み方次第でパンプキンアームLにシャープネイルか」
そんな魔物に対応するならば、やはり範囲攻撃が欲しいところではある。
なので俺は手持ちの武装を改めて確認するが……やはり範囲攻撃手段には乏しいなぁ。
「しかし、緑キパたちとブルーサーディンを比べたら、ブルーサーディンのが怖いってのはどうなんだろうな」
『ブーン。そこはゴーレムの構成や戦術によるので仕方がないと思いますよ』
では、当たるを幸いに体を振り回すのは?
今の俺のゴーレムは全身鉄製だ。
相応の破壊力は出せるだろう。
ブルーサーディンの耐久力が本当に低いのであれば、倒すことは可能だと思う。
それにブルーサーディンの攻撃も囲まれて叩かれなければ、それなりに耐える事が出来るとは思う。
「んー……」
ドローンホーネットの位置と向きを調整し、後ろをしっかりと見えるようにする。
これまでの探索結果を思い返し、通路と部屋に円環状になっている部分があることを確認。
腰から下の向きを180度反転させ、後ろに向かって走れるようにする。
『ブン。やる気ですね』
「ああ、たぶんだが、これなら行けるとは思う」
で、その状態で軽く体を動かし、問題なく動けることを確かめた。
うん、一応戦えるだろう。
では挑もう。
「オラァ!」
「「「サディ!?」」」
部屋に突入した俺はまずグレネードを投擲。
投擲されたグレネードはブルーサーディンたちの中心で爆発し、爆発が直撃したブルーサーディンたちのシールドを消し飛ばす。
「「「サササササァ!!」」」
『トビィ! 来ます!!』
「分かってる!」
攻撃を受けたブルーサーディンたちが動き出す。
既にシールドを失った個体は、失っていない個体に混ざってしまい判別がつかない。
そして、その状態のまま俺の方へと群れ全体で突っ込んでくる。
「二、三、四……」
俺は通路へ向かって駆け出すと同時にグレネードを幾つも投下。
爆発によってブルーサーディンたちにダメージを与えつつ、通路を駆けて逃げていく。
「「「サササササァ!」」」
『追いつかれます!』
「こっちが走るより速いってのは厄介だな!」
それでもブルーサーディンたちは追いかけてくる。
おまけに少しずつだが距離が詰まっている。
だが、追いつかれるのは想定の範囲内でもある。
「さあ、根性の入れどころだ!」
「「「サササササァ!?」」」
なので俺は後ろに駆けつつ、左腕を五本の鞭に変形し、俺に近い個体から順番に素早く打ち抜いていく。
全力で後ろに下がりながらの打撃など、本来はそこまで威力が出るものではないのだが、ブルーサーディンたち相手なら十分に通じるのか、攻撃が当たったブルーサーディンのシールドは消し飛び、シールドがない個体に至っては頭が弾けて絶命していく。
「「「ザザザザザァ!」」」
「ぐっ、この……」
しかし、数が多過ぎる。
左腕打ち抜けなかったブルーサーディンは右手で殴り払っているが、それで倒せる数などたかが知れている。
なので、少なくない数のブルーサーディンが俺の体にぶつかり、弾かれ、俺のシールドにダメージを与えつつ、俺の背後にまで移動する。
けれどここで想定外が……俺にとっては幸運で、ブルーサーディンにとっては不幸なことが起きた。
「おっ、こいつは、美味しいな!」
「「「サササササァ!?」」」
俺を追い抜いたブルーサーディンたちは再度攻撃を仕掛けるべく、大幅な減速を伴いながら方向転換を図ろうとしていた。
だが、その前に俺の体が高速で迫り、衝突。
これが鉄製の体によるタックルと言う攻撃として認識されたのだろう。
俺の体に触れたブルーサーディンたちは弾かれ、轢殺されていく。
シールドへのダメージも思ったよりも少なく、これならば轢殺は十分選択肢に入りそうだ。
「そして理解した。これはイワシを叩く音ゲーだ」
『ブ? ブーン、ブーン、理解できますが、理解したくないことを言わないでください。トビィ』
「「「ザザザザザァ!!」」」
これならば行ける。
そう確信した俺は俺へと迫ってくるブルーサーディンたちをひたすらに叩き続ける。
それはまるで、イワシの形をしたノーツ……シンボルに合わせて拳と言うボタンを押し込む音ゲーのような見た目と視界であり、そうと理解すれば、拙いながらもこれまでにやった音ゲーの経験を生かす事も出来た。
「ふはははははっ!」
「「「ササササディ!?」」」
パーフェクトには程遠い。
シールドも確実に削られていく。
だが、それでも少しずつブルーサーディンたちの数は削られていく。
「おらぁ!」
「ザディ……」
そうしてこちらのシールドがなくなる間際、遂に俺は全てのブルーサーディンを撃破したのだった。
≪生物系マテリアル:肉を45個回収しました≫
≪生物系マテリアル:骨を46個回収しました≫
≪生物系マテリアル:鱗を47個回収しました≫
≪設計図:サーディンアームRを回収しました≫
≪設計図:サーディンダートを回収しました≫
「うわっ、報酬が凄い事に……でも、あれだけ狩って、設計図は二枚だけなのか」
『ブブ。むしろそれでいいかと。この数の設計図が手に入ったら、そちらの方が大変ですよ』
「まあ、それはそうだな」
報酬獲得のアナウンスが入る。
ただ、数が数であるためか、普段とは表示のされ方がだいぶ違う。
それにしてもほぼ生物系マテリアルか……となると、簡単に狩る方法さえあるならば、やはりサーディンは生物系マテリアルを集める場合には都合のいい魔物かもしれないな。
『ではトビィ』
「そうだな。とりあえず帰るか」
なんにせよこれでフロア6の探索は終わり。
という訳で、俺は脱出ポッドへと向かった。