104:グリーンキーパー・ケンカラシα-1
「ブッヒィ!」
「……」
緑キパαが放った火球は遅く、歩きでも十分避け切れる程度の速さだった。
なので俺は普通に横に跳んで回避。
その直後に緑キパαが鳴き、火球が爆発、着弾点を炎上させる。
「オッキャンドォ!」
「ふむ……」
今度は緑キパαが燭台を横薙ぎにする。
すると、その軌道に沿うように扇状の炎が放たれ、背の低い炎が床を舐めるように進んでくる。
なので俺は飛び込み前転の要領で炎を飛び越えて回避。
僅かに熱は感じたが、アドオン『広域攻撃耐性』も仕事をしているのか、シールドへのダメージはほぼ無しだ。
「ランタパアアァァス!」
「なるほど、そういう感じか」
再び緑キパαがランタンを振り、火球を飛ばしてくる。
なので俺は再び横に跳んで回避する。
で、改めて緑キパαの姿を観察。
豚の頭は大きいだけで、特にこれと言った異常は見られないと思っていたが、よく見れば目が僅かに光っているように思える。
頭……正確には首から直接生えている八本の吸盤付きのたこ足だが、四本はランタンを持ち、四本は燭台を持っていて、四本の燭台の内一本は柄が妙に長く、槍のようになっている。
で、頭と足のつなぎ目には、よく見ればフックのような突起物が付いているようだ。
そして、これまでの攻撃を見る限り、ランタンは火球を放って着弾点に炎を残し、柄の短い燭台は扇状に炎を放ち、本体はゆっくりと後退して距離を取ろうとしている、と。
「詰めていくぞ」
『ブン。分かりました』
「オッキャンドォ!」
これだけ分かればとりあえずは十分。
という訳で、俺は緑キパαに向かって駆けていく。
勿論火球と扇状の炎が迫っては来る。
が、火球も扇状の炎も普通のゴーレムでもギリギリ避け切れるようになっているのだろう、速度も範囲も控えめであり、機動力が強化されている俺にとっては容易に躱せるものでしかない。
また、緑キパαの後退速度も、通常のゴーレムの競歩なら十分追いつける程度でしかないので、俺が近づくのは容易だった。
なので、軽快なステップでもって、俺は緑キパαに接近。
そして、十分に近づいたところで……。
「ブヒトパァ!」
「やっぱりか」
緑キパαが柄の長い燭台を槍のように突き出してきたので、俺は横に跳んでそれを回避。
燭台が突き出された先を見れば、一直線上に炎の線が残され、燃え上がっている。
どうやら火球と扇状の炎よりも危険な攻撃のようだ。
だが同時に隙の大きい攻撃でもあるのだろう。
緑キパαは柄の長い燭台を突き出した姿勢で完全に動きを止めている。
チャンスだ。
「うおらっと!」
「ブゥ……」
俺は柄の長い燭台に巻き付き、持っているたこ足へと右のナックルダスターで殴る。
返ってきた感触は分厚い脂肪を叩いたというもの。
緑キパαのシールドゲージに目をやれば、減った量は恐らく1%未満。
「オッキャンドォ! ランタパアァァス! オッキャンドォ!」
「おっと、こっちが本気の後退速度か」
緑キパαがこちらに攻撃を仕掛けつつ、俺が走るのよりも少し遅いくらいの速さで遠ざかっていく。
なるほど、近接攻撃をされたら、緑キパβと同じように本気で距離を取る、と。
そして問題は……脂肪だらけであるが故に打撃攻撃がほぼ通らないこと、相手が炎を使うだけあって火炎属性もほぼ通らないことか。
ナックルダスターに火力は期待できないな。
と言うか、豚もタコも筋肉の方が多い生物だったと思うんだが……燃料代わりの脂肪か?
『どうしますか? トビィ』
「殴るが効かないなら、斬るか突くかで攻めればいい。それだけの話だろう?」
場に残っている炎は直近二発の火球が残したものと、柄の長い燭台の突きに伴うものだけ、火球で残る炎はそこまで長続きしないようだ。
緑キパαの後退速度は落ち着き、先ほどと同じように遠距離攻撃を仕掛けている。
なるほど、設置された炎上地形で立ち入れない場所を増やすし、自分は後退しながら遠距離攻撃を仕掛けるしで、これは確かに近接攻撃で仕留めようとすると面倒くさい相手になる。
が、これなら何とかなる。
「接近して……」
俺は再び緑キパαに駆け寄っていく。
「ブヒトパァ!」
「回避して……」
緑キパαが柄の長い燭台を突き出すが、これは普通に回避して、更に懐へと迫っていく。
「突く!」
「ブギィ!?」
そして、貫手の形に整えた左腕とシャープネイルで槍のように緑キパαのたこ足の一本を突き、ダメージを与える。
与えたダメージは……2%くらい、これなら通っていると言えるな。
「ランタパアァァス! オッキャンドォ! ランタパアァァス!」
「逃がすか」
で、攻撃を受けたことで緑キパαは炎をばらまきながら素早く後退するが、その後退速度は普通のゴーレムの競歩より速くはあるが、俺が走るよりも遅くもある。
なので、炎をばらまくたこ足の内側に入るように駆けて、距離が出来ないようにし……。
「ふんっ!」
「ブザァ!?」
手刀に近い形にした左腕で追撃。
これで後退速度が増すようなら諦めて一度距離を離すが……。
「オッキャンドォ! ランタパアァァス! オッキャンドォ!」
「なるほど、懐に入り続ける事が出来るなら、殴り続ける事が出来る、と」
緑キパαの後退速度は変わらず。
よって、俺は緑キパαの後退に合わせて動き、肉薄し続け、緑キパαの攻撃を回避する動きすらもこちらの攻撃の準備に変えて、左腕で緑キパαの体を刻み続ける。
「ブヒトパァ!」
「しかし、緑キパαの動き、誰かと似ているような……」
勿論、緑キパαもただ刻まれるだけではない。
時折柄の長い燭台を無理やりに操ってこちらを突き刺しに来るし、ランタンを振る腕で押し潰そうともしてくる。
が、懐に入り込んだ相手への攻撃と言う無理かつ、どうしても有効な動作が限られたものなので、俺は普通に緑キパαの攻撃を回避、あるいは火力にはならない右のナックルダスターによる弾きで対処し、左腕での反撃を叩き込んでいく。
で、そんな風に攻撃をしている間に思った。
「ああそうか。お前の挙動、昨日戦ったブルーパンプキンに似てるんだ」
『ブーン、それは流石に……ブブ、あんまり否定できないですね』
緑キパαとブルーパンプキンの挙動や攻撃方法が割と似ているな、と。
炎による範囲攻撃とか、残る炎とか、物理が効きづらいとか、攻撃すると距離が出来るとかの点で。
もちろん、同じではない部分も多いのだが、ついそう思ってしまったのである。
「コオオォォコボアアァァショオオォォ!」
「っ!?」
『あ、独自要素が来ましたね。トビィ』
そんな俺の呟きを拾ったのか、あるいはタイミングよくシールドゲージが半分以下になったためだろうか。
まあ、後者だとは思うが、とにかく緑キパαの口から大量の黒煙が噴き出し、立ち込めた。
04/05誤字訂正