1:プロローグ
新作でございます。
今回もよろしくお願いします。
「『Scarlet Coal-Meterra082』?」
友人から示されたゲームのタイトルは聞き覚えがないものだった。
「そうそう。新作のVRゲームなんだけど、いやぁ、きな臭いのなんの。ヤバいわよ」
「きな臭いって……後ヤバいってなんだ。ヤバいって」
俺は通話に使っているのとは別の端末を使って、友人に示されたゲームについて調べてみる。
そうして出てきたのは、友人が示したタイトルそのままではなく、その系列についてまとめたサイトだった。
どうやら、これが公式サイトであるらしい。
「そこで長話したら寝るじゃない」
「まあ、寝るな。この量を口で説明されたら」
フルダイヴ式VRゲーム、『Scarlet Coal』
プレイヤーはゴーレムに憑依して操るゴーレム使いとなり、侵入する度に地形が変化する異常な空間となった坑道に侵入。
魔物と呼ばれる異常な生物たちを打ち倒しながら、緋炭石と呼ばれる燃料や鉄や金と言った各種資源を回収、坑道の最深部に用意されている脱出ポッドを目指す。
なお、プレイヤーが操るゴーレムはかなり細かいカスタマイズが可能であるらしい。
なので、ファンタジーゲームに登場するような総岩造りのゴーレムだけでなく、人間そっくりのアンドロイド、ロボットものに出てきそうな全身金属の人型、化け物にしか見えない不気味な肉の塊、動く骨格標本なども作製可能。
武器についてもただ殴るだけでなく、剣、槍、斧、盾、弓、銃などなど、なんでもありのようだ。
まあ、俺は拳で殴れればそれでいいのだが。
「だが、ヤバい点については教えてくれ。俺は殴りたいだけで、地雷を踏みたいわけじゃないんだ」
「相変わらずねぇ。でもまあ、確かに今回はある程度は共有しておいた方がいいかな。とりあえずタイトルの意味を調べてみて。それが分かれば、その時点でこのゲームがヤバいのは分かるわ」
「はぁ?」
俺は通話先の友人との会話の話を聞きつつ、公式サイトを見ていく。
そして、友人の言うヤバいを理解した。
どうやらこのゲーム、世界中で同時にサービス開始となるようだが、国ごとにゲームのタイトルが微妙に異なるらしい。
なので、俺が居るこの国では『Scarlet Coal-Meterra082』が出されるし、他の国では最後の数字部分が違う作品が出されるようだ。
で、何故タイトルが違うかと言われれば……タイトルの違いはそのままサーバーの違いであり、それはつまり国ごとに別のサーバーでゲームが運営されているという事である。
「正気か。こいつ」
「ヤバいでしょう?」
「ああヤバい。しかも、国交を断絶しているような国や、太平洋上の小さな島国まで一国につき一サーバー。完全に気が狂ってやがる」
これは異常なことだ。
確かに世界規模のゲームなら、ラグや負荷の解消のためにも各地域にゲームサーバーを置くことはある。
だがそれは、アジアに幾つとか、ヨーロッパに幾つか、と言う話だ。
一か国につき一つのサーバーを、それもこんな怪しい代物を受け入れそうにない国にまで設置させる。
そんなのは異常としか言いようがない。
「作品そのものは少し変わったローグライクやスラッシュハックに、対戦を含む各要素を付け加えただけ。グラは現実並みだが、これだって今の時代ならそう珍しくもない。だが、各国にサーバーとは……」
「付け加えて言うなら、サーバーの保守点検はその国の政府、だそうよ」
「イカレ具合が数段階跳ね上がる情報をどうも。いや、本当に何者だ。このゲームの開発者は」
友人の言葉を確かめるべく、サイトを見てみたが、確かにサーバーの保守点検と基本的な運用は各国の政府に委託していると書かれている。
つまり、この謎のゲームは国家事業という事だ。
本当に意味が分からないレベルで狂っている。
ゲームそのものではなく、ゲームの周囲がだ。
「こっちで調べた限りでは開発者の情報はまるで出てこなかったのよね。まあ、調べたのは表層と浅層だけだけど」
「賢明だ。どう考えても、迂闊に突っ込んだら、良くて後ろに手が回る案件だぞ。こりゃあ」
俺は引き続きサイトを見ていく。
どうやら我が国版である『Meterra082』では、ゲーム開始時に国民番号を入力する必要があるらしい。
現代のフルダイヴVRゲームで不正行為を働ける奴なんて早々居ないが、仮にゲーム内で不正行為を働けば、即座にお縄を頂戴することになるという事だろう。
「ちなみにゲーム内通貨を現実の金銭に制限付きで変換できるサービスもあるそうよ」
「どこまでぶっ飛んでんだ……。ったく。いったいお国は何を企んでいるんだか」
レートや制限がどの程度かは分からないが、収入にまで繋がるとは……本当に訳が分からないぶっ飛び具合になっているな。
「さあ? それを調べたいから、貴方にこのゲームを紹介したんじゃない」
「俺はいつも通りに遊ぶだけだぞ」
「それで構わないわ。貴方がいつも通りに遊べば、それだけで幾らか荒れる。荒れれば、荒れを鎮めるために運営が動く。運営が動けば何かが観測できるかもしれない。私にはそれで十分よ」
「荒れるって……俺はゲームの仕様の範疇でしか暴れてないんだがなぁ……」
俺は思わず呆れ顔でため息をつくが、通話映像の先に居る友人はそれを見て笑うばかりだ。
「まあいい。ちょうど前にやってたゲームも一区切りがついたというか、潮時を感じ始めていたからな。そっちに移ってやる。いい感じに殴れそうだしな」
「うふふ、ありがとう。あ、私もいつも通りの名前で始めるから、機会があれば遊びましょう」
「そうだな。機会があれば遊ぼう。じゃあな」
「じゃあね」
通話が終わる。
俺はそれを確認すると、さっそく手持ちのVRゲームの機器に『Scarlet Coal-Meterra082』をインストールし始める。
サービス開始は3時間後。
問題なくサービス開始と同時に遊び始める事が出来るだろう。
「さて、軽く準備運動でもしてるか」
俺はインストールが終わるまで、サンドバッグを素手で殴り始めることにした。
暫くは一日に複数話更新、以降は12時更新が基本となります。
本日は4話まで更新予定となっています。
02/17文章改稿