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(仮)異世界召喚  作者: 五月雨
2/7

2日目

「おい、起きろ」

翌朝。疲れた男の声で目を覚ました。

一兵卒に着替えなどない。昨日のままの黒ジャージ。

乾いた血が零れ落ちる、素早く視線を巡らせる。

兵営の寝所だ。歯噛みしつつ目を細める。

黒ジャージを起こした男が再び促す。

「交代だ。見張りに行け」

立とうとしてふらつく。何か考えるような顔をした。

「…っ。休みたいんだけど」

「あァ?ふざけてんじゃねぇぞ」

ぶん殴られた。

手加減はされている。気絶されたら意味がない。

痛みに顔をしかめながら、小声で呟く。

「オレを休ませろ」

殴られないよう距離を置いて。

杞憂だった。男の態度は、またしても急変する。

「…仕方ねぇな。別の奴に頼んでみるよ」

頷きかえす。男の背中を見送って溜息。

身体のそこかしこを両手で触れる。

切れた唇の血を右の拳で拭った。

「……くそッ」


死んだように眠る連中を避けて、兵営の外へ。

黒ジャージは、何かを探しているようだ。

そのうち中庭に井戸を見つけ、そろそろと歩み寄る。

音を立てないように滑車を回し、木桶を持ち上げて……

落胆した。水が血と泥で汚れていたからだ。

昨日は、ここで決戦だった。一役買ったことすら忘れたのかもしれない。

厨房には備蓄の水があったが……何やら我慢した。

パンと干し肉を選ばせて受け取り、だが吐き気をもよおしている。

当番に何か小声で囁くと、黴臭さがマシなものに替えられていたが。

飲み水は小さな器に一つずつ。当然、お替わりはない。

まわりの兵士達を見ると、それで何とか流し込んでいた。

これを食べられなければ、いずれ飢えるしかない。


「…ぇっ。うっ。かッ……」

「おい、何してんだ持ち場に戻」

「オレのことは気にするな。離れろ」

「…あぁ。悪ぃ……」

砦の中は、とにかく復旧工事で忙しかった。

人が死にすぎたこともある。人手が足りない。

年配の騎士がほとんど死んだことも痛い。

経験の浅い騎士に代わり、熟練の兵士が指揮を執る区画も。

その中のひとり、資材を数える壮年に黒ジャージが寄ってゆく。

「…あの。ちょっと、いいですか」

「何だ手が空いてるのか?だったら壁の」

「あんたが話せる一番偉い奴に会わせろ」


資材管理役の兵士は、黒ジャージを奥へ連れていった。

何かしようにもできない若手の騎士達が頑張るふりをしている。

そこに貧弱そうな若造がやってくれば目立つ。

「おい、貴様ここをどこだと」

「オレの邪魔すんな」

「…あ、うぅむ……」

「貴様!一兵卒の分際で騎士に」

「黙ってろ」

「……………」

適当に口答えしながら素通り。

先導していた壮年兵士が振り返る。

「ここだ。術師様の部屋は」

黒ジャージも足を止めて振り返った。

「お前ら全員、今見たことを忘れろ」


「君は……!」

黒ジャージが部屋に入ると、ローブの男は驚いて駆け寄った。

「無事だったのか!どこも怪我はないかね!?」

「………っ」

黒ジャージ、一歩引く。

「すまなかった。本当にすまなかった……」

「…術師様。俺は仕事がありますんで……」

案内の役目を終え、資材係は出ていった。

今この部屋にいるのは、術師と黒ジャージのみ。

一息つくと、黒ジャージは術師に向きあう。

「…いろいろと。教えて、ください。

 オレはどうやってここに来たのか、どうしてここにいるのか。

 あんたが知ってること、全部」


①ここは、どこだ。

①時告げ砦。今は召喚実験施設も兼ねた前線基地。

②その召喚実験で呼ばれたのか。③その狙いは。

②然り。③異界の有用な人材を以て祖国を護るため。

④今までに呼んだ人材では足りなかったのか。

④初めて呼んだ。申し訳ないとは思う。

⑤何故オレなのか。

⑤召喚相手は選べない。どの異界から誰を連れてくるかは偶然。

⑥異界というのは。他所の星、それとも本当に別の世界?

⑥…?言っている意味が分からない。

⑦召喚された者は、元の場所に戻れるのか。

⑦今のところ、戻す方法はない。

⑧今後も召喚を続けるか。

⑧続けざるを得ない。このままでは祖国が滅ぶ。


「そ。じゃあこれから呼び出す奴は、オレを案内役にしろ。

 それとあんたの弟子にしろ。危険な役目から外せ」

その日のうちに、黒ジャージの生活は変わった。

いや……もう黒ジャージとは呼べない。あれは着替えたから。

術師見習いのローブを与えられ、血と泥を落として身綺麗になる。

小柄で華奢な身には、少しばかり大きかった。

「そういえば、まだ名前も聞いてなかったね」

「はい。くろさ……」

ひと呼吸、言い直した。

「…クロです」

術師見習い兼案内役クロ。実績は、まだない。


(3日目へ)

砦の名前が思いつかなかったので、もうコレでいいやって。

いいですよね、ソラノヲト。karafinaのOPも。

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