待ち望んだ日
「ようやく見つけましたよ」
声のするほうに目を向けると、女性が二人、笑顔でこちらを向いている。
40代くらいの女性と、もう一人は娘さんだろうか。
「人違いじゃないですかね」
二人の顔には見覚えがない。
何かのボランティアか宗教だろうか。
俺はそういって、その場を去ろうとする。
事情があって、俺はもう何年もホームレスをしている。
ボロボロのスーツからは、悪臭がする。
誰かと話したところで、ろくなことにはならない。
「これを見てくれたら、理由がわかります」
娘さんが、ひどく傷ついた一人の女性の写真を俺に見せてくる。
「やっと捕まえたんです。逃がしたりはしませんよ。」
娘さんはそんなことを言いながら、俺の腕をつかむ。
「私たちだけで、やってしまったら、夫の無念が晴らせませんからね。」
おばさんも、そういって、ニコニコとしながら、もう片方の手を取った。
今のままでは目立ちすぎるからと、二人の家に向かう。
どこにでもありそうな、戸建て住宅であったが、周囲にはやたら落書きがあった。
「お父さんの服で、申し訳ないですが」
娘さんが、グレイのスーツを渡してくれて、それに着替える。
何年かぶりに髭を剃る。
おばさんが、にこやかに髪を整えてくれる。
「むかしは、おとうさんの髪を、よく切ってあげたのよ。」
「わぁ、結構男前じゃない」
二人はそういって、俺のことをほめてくれる。
俺も二人に、にこやかに答える。
「わたしも、昔は結構かわいいって言われてたんですよ」
娘さんは、ふざけて俺の腕に絡みつく。
おばさんは、それを見て、大げさにお似合いだと笑う。
「そんな未来も、もしかしたらあったのかもしれませんね」
「そうね。私も、結婚してみたかったわ」
「わたしも、お父さんも、孫とか抱いてみたかったわ」
そういいながら、お互いに顔見合わせて、もう一度笑う。
「いまさらですけど、一緒に行かなくてもいいんですよ」
「そうね、こんなに男前なら、まだやりなおせるわ」
私たちは、もう引き返せないけれど、あなたは違うからと、二人は、いまさらのようにそんなことをいう。
「何言ってるんですか、いまさら、仲間外れはなしですよ」
俺はわざと怒ったように話すと、二人はごめんごめんと、笑いながら答えた。
「それじゃ行きましょうか」
「そうですね、こんな日が来ることを、ずっと待っていたのかもしれません。」
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テレビの画面に、とあるマンションの一室が映る。
NEWSのキャスターが告げる。
「えー、こちらに見えます、マンションのA194号室にて、女性の死体が発見されました。遺体には多数の損傷が見られるとのことです。手足に欠損があるとのことです。また、目を何かでえぐられた様な傷が見られるとのことです。」
「只今、新たな情報が入りました。犯人が自首をしてきたとのことです。男性1名、女性2名、関係性ははっきりとしておりません」
「続報です、10年前、新宿駅で起こった痴漢事件、その犯人として逮捕された男性、また、別件の痴漢事件での犯人の家族とのことです。また、別件の痴漢事件の犯人の男性は、冤罪を訴えておりましたが、数年前に自殺しているとのこと。」
「あぁ。今ですね、新宿署に犯人が移送されています。あぁ、彼らは手を振っていますね。笑顔で、手を振っています。」