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二章 昨日までとは違う、本当の自分……? その3

「ま、まさか、あそこから逆転されるなど……」

 まな子の脚が力なく床に下ろされる。

 すでにテレビのスクリーンには一戦目の結果が映されており、ヴィンカのキャラが一人はしゃいでいる。俺達のキャラは各々悔しがったり、目をグルグル回して倒れたりと敗北モーションを延々と繰り返している。


「ミス・まな子、結構やりマスネー。もしもユーが手で操作していたら、負けてたかもしれマセン」

「クッ……、今のは油断していただけだ。次はこうはいかぬぞッ!」

 基本的に『ぴよぴよ』は二先、つまり誰かが二戦勝った時点で決着となる。

 罰ゲームも誰かが二回勝った時点で行われる。ゆえにまだマッチポイント段階、俺達にも勝利のチャンスはあったのだが……。

「遅い、遅い、遅いデスッ!」

 和花へのレクチャーを終えたヴィンカは、疾風迅雷のごときプレイングを披露。

 俺と和花はもとより、まな子をも圧倒した。

「わ、我の牙城が……、崩れていくぅうううううッ!!」

 結局、さっきよりも数倍早く勝負は決し、ヴィンカの勝利は確定した。


「ぬっ、ぬぅうううううっ……、ぬぉおおおおおおおおおおおッ!!!!!!」

 負け犬の遠吠えを上げ、頭を抱えて仰け反るまな子。

 ヴィンカは目を輝かせ、「フッ、フッ、フッ」と何やら不吉な笑い声をあげて彼女の方を見やった。

「それじゃあ、最初の罰ゲームはミス・まな子に受けてもらいマショウカネ」

「なっ……!? わ、我は二位であるぞッ!?」

「罰ゲームの対象は二位以下。つまり、ミス・まな子もその対象に漏れないわけデスヨ」

「ぐぐぐぐぐっ……」

 さんざっぱら歯ぎしりをして地団太を踏んでいたまな子だったが、最後には「フン」と鼻を鳴らしてそっぽを向き言った。

「……よかろう。煮るなり焼くなり、好きにするがいいわ」


「そうデスネー……」

 ヴィンカはしば悩む素振りをした後、華麗な動作でフィンガースナップを決めて思いついたアイディアを口にした。

「じゃあ、ミス・まな子には次の試合からサルベイを使ってもらいマショウカ」

「なっ……なんだとォッ!?」

 まな子の背後に幾本もの稲光が閃いたのを見た気がした。


「わ、我にあの魔物を使えというのかッ!?」

「サルベイはちゃんとしたプレイアブルキャラクターデスヨ?」

 ぶんぶんとかぶりを振ってまな子は喚く。

「い、否ッ! 我が冥界軍を亡ぼさんとする邪悪なる者の手先であるぞッ!!」

「……仮にも冥王を名乗ってるヤツが、邪悪なヤツを恐れるっておかしくないか?」

「と、とにかくっ! サルベイと組んでは我が魔力がッ……」

「オゥ……。冥王たる者が敵前逃亡なんて、情けないデスネー」

 ヴィンカの一言が発されてすぐ、まな子の額からプツンと何かが切れる音が鳴った。


「……取り消すがいい、今の言葉」

 まな子の身体がゆらりと揺れ、包帯の巻かれた手がコントローラーへと伸ばされる。

「我は冥王。いかなる僕であっても、我が魔力を持ってすれば、最強の操り人形と化すのであるッ!」

 彼女のカラーコンタクトで紅く色づいた瞳が、にわかに燃え立つ。

「ここからはハンデなどなしだ……、全力でそなた等を叩き潰してやるッ!」

 まな子の啖呵たんかを聞いたヴィンカが、ニッと笑みを深めて応える。

「いいデショウ、尋常にバトルデス!」

 ヒートアップしていく二人。


 間に挟まれた俺と和花は、置いてけぼり感を食らってぽかんとしていた。

「俺達、どうすればいいんだろうな?」

「……生流は熱を入れて、……対戦しないの?」

「いや、パズルゲームとかあまり得意じゃなくてな……」

「ふぅん……?」

 和花は次のゲームが始まるまでの間、糸で結ばれているかのように俺から視線を外さなかった。


「これでジ・エンドデス!」

 ヴィンカが勝利宣言をし、『ぴよぴよ』大技とも言える大連鎖を発動する。

 またも同じ結果かと思った、その時。

「クククッ! 八連鎖か、甘い、甘いぞ、ヴィンカ嬢よッ!!」

 まな子がコントローラー上で嵐でも起こしているかのような勢いで操作し、告げる。

「その程度の猪口才ちょこざいな攻撃など、届かぬわッ!!」


 最後のピースがカチリとハマり、まな子のフィールドでも大連鎖が始まる。

 サルベイが連鎖が増していくごとに、ハイテンションなだみ声を響かせていく。

『ガスト・ストライク』

『ゲイル・クラッシュ!』

『ストーム・インパクト!』

『サイクロン・スラッシュ!!』

『アウトレイジ・ハリケーン!!』

 技ごとにカットインが入り、猿が竜巻らしきものを操る短いアニメーションが流れる。

 さらに超連鎖を決めた時のみに拝める、極めつけのファイナル・アタックが発動する。

『ザ・テンペストッ!!』

 それが決め手となり、一戦目の勝者はまな子になった。


「オーマイガーッ! まさか、あんなに速く超連鎖を組むなんて……」

「クククククッ。十一のつるぎが発動したが最後、命ある者は皆我が軍門に下ることになるのだ」

 治まることのない戦いの火花は今も熱く散っていた。

 その中で和花は落ち着き払った様子で俺に訊いてきた。

「パズルゲームなのに……、あの猿は何と戦ってるの……?」

「さあ……。そういうのはまな子の方が詳しいだろ?」


 まな子に水を向けると彼女は眼帯に手をやり、「クッククククク!」と芝居がかった笑声を漏らして言った。

「己が存在を証明する唯一の手段。それは戦場に立ち、自身の強さを誇示することに他ならぬからである」

「ヴィンカ……、どういう意味か……わかった?」

「ミーにもわかりマセンデシタネー」

「王が王たる所以ゆえんは権威であると思い込んでいる者が多い。しかし民は真の強者にしか従わぬ。ゆえに謀反むほんや一揆が度々起こるのである」


 まな子の意味不明な解説に困惑した和花とヴィンカが、俺の方を見やってくる。

「……いや、俺にもわからないからな?」

「でも……お友達なんでしょう……?」

「まな子と付き合っていくうえで、一番覚えておくべきことはまともに会話しないようにすることだからなぁ」

「待たれいっ、盟友よ! それは一体どういう意味だッ!?」

「いや、まな子。えーと……上っ面の言の葉に幻惑されるのはらしくないぞ」

「むっ……、そうであるな。なるほど、盟友なりの戯れということであったか」

 ころっと機嫌を直すまな子。


 和花が軽く目を見開いて言った。

「すごい、生流……」

「ミスター・生流も時折何言ってるかわからない時がありマスカラネ。きっとウェイヴレングスが合うんデスヨ

「ウェイ……なんだって?」

「……つまり、似た者同士っていう意味」

「それ、あまり嬉しくないんだが……?」

「なっ……、ぶ、無礼であるぞ盟友ーッ!!」

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