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二章 昨日までとは違う、本当の自分……? その2

 とある部屋のドアの前に立ったヴィンカが、こちらを振り向いて言った。

「お入りクダサイ。ここはゲームをプレイするためだけのルームデス」

「……そりゃ、なんというか贅沢だな」

「この屋敷にいると、感覚がおかしくなってきそうであるな」


 一体どんな部屋なのかと、俺達は恐る恐る中に入った。

 そこはやはりゴージャスな空気に満ち満ちていたが、ふかふかのソファに大きめのテレビがある居心地のよさそうな空間だった。

 まな子が「ほお」と感心したように漏らす。

「いい部屋ではないか」

「スマホとノートパソコンを持ち込めば、快適に過ごせそうだな」


 ソファは真ん中のテーブルを囲うように三台あり、その内テレビと向かい合わせの一台に俺を中央に和花、まな子が座った。ヴィンカは和花の近くのソファに腰を下ろす。

「では、早速我の腕前を見せてやろう」

 言いつつ、まな子は机の上にあるコントローラーにあろうことか足を載せた。


「……どうした、まな子。ついに頭が猿時代まで回帰したか?」

「我に猿時代などないわッ!」

「猿が人間に……。進化論の裏付けになるかも……?」

「ワォ! これが本当のモンキーターンデスネッ!!」

「そなたは本当に意味がわかったうえで、英語を使っているのか!?」

「どうどう。落ち着けよ、まな子」

「家畜扱いするでないわっ。そもそもの発端はそなたであろうに……」

 キッと睨みつけられたが、首を竦めてやり過ごす。


 まな子は「ふんっ」と鼻を鳴らしてソファに腰を落ち着けた。

 俺は努めて下手に出るような調子で彼女に訊いた。

「それで、お前は何をしようとしてたんだ?」

「普通にプレイしては我が強すぎるゆえ、まともな勝負にならぬであろうからな。ハンデとして足で相手をしてやろうというのだ」

「……足なんかで、まともにプレイできるのか?」

 半信半疑で訊くと、いたって余裕たる態度でまな子は答えた。

「決まっておろう。我は冥王であるぞ」

「まあ、俺はそもそもパズルゲームとか苦手だし、ありがたいっちゃありがたいが……」


 なおも俺が躊躇っていると、和花が横から口を挟んできた。

「プレイしてみてから……考えればいいんじゃない……?」

「デスネー。お互いの実力もまだわかっていないわけデスシ」

「それもそうだな」


 そんなわけで、俺が1Pを引き受けてゲームを始めることになった。

「モードが色々あるが……、どうする?」

「始めに我の『ぴよぴよ』での無双ぶりを見せつけてやろう。盟友よ、ぴよぴよオンリーモードを選ぶがいい」

 高圧的な調子で告げてくるまな子。まあ、鼻息を荒げてる様を見ていると苛立ちよりも微笑ましい気持ちが勝るから、構わないのだが。


 和花は軽く小首を傾げ、ヴィンカの方を見やって訊いた。

「……わたし、初めてなんだけど……、大丈夫かしら?」

「ノープロブレムデス。ミーがレクチャーしマスヨ」

「じゃあ……、いいわ。生流は……?」

「俺は一応、ルールは知ってる」

「ククク、定石をまったく覚えられず積むのは遅いがな」

「人には得手不得手えてふえてがあるんだよ……」

 俺はきまり悪くなって目を逸らしつつも、モード選択した。


 ふと思いついたようにヴィンカが発案した。

「ゲームをよりエキサイティングにするために、罰ゲームをもうけマセンカ?」

「よいのか? 最強の冥王がいる場で、そのようなことを申して」

「オフコース。お嬢サマとミスター・生流さえよければ」

「俺は構わないぞ、えぐい罰じゃなければな」

「わたしも……生流と一緒……」

「ふむ、万場一致と。して、罰ゲームの内容は?」


 ヴィンカはちょっとばかし考えた後、ぽんと手を打って言った。

「一位の人が、二位以下の人になんでも一つ命令できるのはどうデスカ?」

「王様ゲームの王様が、より絶対的な権力を持ったバージョンか……」

「……すごく、面白そう」

「同感である。勝者が全て……、まさに勝負の世界の掟であるな」


 おおむね肯定的な空気の中、俺は一抹いちまつの不安を抱いたまま問いかけた。

「この王様ゲーム形式、場のノリで段々と罰がエスカレートして過激になっていくような気がしてならないんだが……?」

「ドント・ウォーリー! ミーは節度のある大人デスカラ、ブレーキを踏むタイミングはちゃんと把握してマスヨ」

 ヴィンカは自信満々に言って軽く胸を叩いた。ぷよぉん×2。豊かな双丘がやわこさをこれでもかと見せつけてくる。俺は眼前の光景に心を奪われる。


 今まで接してきた女性の中で一番胸が大きかったのは神楽夜だったが、目の前にあるそれは彼女の比ではなかった。触れたら手の方が吸い込まれてしまうのではないかというぐらいのサイズ、柔らかさ。鼓動が段飛ばしで跳ね上がっていく。耳元で鳴るドク、ドクという音が理性をむしばんでいき、ある妄想が頭の中で芽生えそうになる。

「……生流」

 はたと和花に白眼視されていることに気付き、頭の中が一瞬で真っ白になる。

「なっ、なんだ?」

「鼻の下……、伸びてる」

「あ、いや、これは、くしゃみが出そうになって……」

「ふぅん……?」

 一応はほこを収めてくれたが、彼女の無感情な両眼はなおもしばらく俺の方へと向けられていた。幸い、まな子とヴィンカはキャラセレクトに夢中で、俺の様子の変化に気付いていなさそうだった。


「やはり我がしもべとしてふさわしき者は、マジシャン! そなたであろう」

「セレクト早いデスネー。『ぴよぴよ』はチャーミングなキャラが多くてどの子にしようか迷ってしまいマスヨ」

「ククク、己が魂と共鳴する者を相棒にすればよいのだ」


 ヴィンカはしばし「ンー……」と悩んだ後に、間抜け面の猿のキャラ、『サルベイ』へとカーソルを合わせ。

「じゃあ、この子で――」

 決定ボタンを押そうとした、その時。


「なっ……、そ、それはならぬッ!」

 今まで泰然たいぜんとしていたまな子が、突如として血相を変えてヴィンカの腕をつかんで、彼女の選択を制した。

「サルベイだけは……、サルベイだけは選んではならぬッ!」

「な、なぜデスカ?」

 目を丸くしておずおずと問うヴィンカ。

 まな子は大きくかぶりを振り、断固たる調子で言った。

「ならぬものは、ならぬのだ……」


 ヴィンカが腑に落ちない様子でこちらを見やり、暗に説明を求めてくる。

 俺は思わず苦笑を漏らして言った。

「……いやな、そう大層な理由じゃないんだが」

 まな子の顔を覗き込むようにして、率直に訊いた。

「教えてもいいよな?」

「だが……」

 き手でない方で描かれたかのように、表情を歪ませるまな子。


 俺は苦笑しつつも説得をこころみる。

「ただ単にダメだって言うだけじゃ、お前だって納得できないだろ?」

「……わかった。好きにすればいい」


 本人の許しをもらったので、早速さっそくヴィンカと和花へ事情を話した。

「このサルベイの声優を務めているのがまな子の親戚の叔父さんだから、恥ずかしがってるんだよ」

 やや不安混じりの顔をしていたヴィンカは肩の力を抜き、口を押えて軽く笑いだした。

「ああ、そういうことデシタカ」

「別に……恥ずかしがることでもないと思うけど……?」

「フン……別に恥ずかしがってるわけではない。ただ声を聞いていると、こそばゆくなってきてゲームに集中できなくなるだけのこと」

「それ、かなり致命的な気がするけどな……」

「なるほど、なるほど。フフフ」

 ヴィンカの目が怪しく光る。まるで獲物を前にした肉食獣のように。その背筋が冷たくなるような眼光は、真っ直ぐにまな子に向けられていた。

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