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7 周りに人がいるって、いいね


 その日は簡単に自己紹介などをして終わった。


 普段の俺なら、このまま真っすぐ家に帰宅するところ。


 しかし、二年生になった俺は少し違った。


「ドリンクバーって絶対元取れないらしいね」


「えっそうなの?」


「それ、聞いたことある」


「じゃあどんだけ頑張っても意味ねぇじゃんか……」


「いつも頑張ってるもんねぇ海斗は」


「早く言えよなー」


 拗ねるようにメロンソーダを飲む海斗。


 流果は爽やかな笑みを浮かべつつ、コーヒーカップを傾けた。


 そう。同じクラスになった三人と、ファミレスに来ているのだ。


「ってか沙希の奴つれねぇよな。クラスの方で集まりがあるからってさ」


「しょうがないんじゃないかな? 高校初日なわけだし……」


「「……あれれ?」」


 からかいの眼差しを向けてくる流果と海斗。


「やけに優しくフォローしてますけど、どうしたんですかねぇ?」


「これはもしかして……ねぇ?」


「ね、ねぇって……別に、何もないよ!」


「「ふぅーん?」」


 この二人の息のぴったりようは凄まじい。


 俺はこの少し恥ずかしい視線から逃れるために、壮也に助けを求める。


「壮也もなんか言ってよ……」


「ん? ごめん話聞いてなかった」


「お前マイペースだなぁ」


「ほんとにね」


「そうか?」


「……まぁ他の人に比べて、おっとりしてるよね」


 他の人というのは、騒がしい流果と海斗のことを指す。


「涙ぐましいフォローだこと」


「そんなことないよ」


「優しいね、怜太は」


「そ、そうかな……」


 優しいだなんて、言われたことがない。


 しかし流果に言われると、妙に説得力がある。


「それにしてもさ、ほんとに俺、ここに来てよかったの?」


「どういうことだよ」


「いや、その、なんというかさ……」


 今日一日を通じて思ったこと。


 どこか申し訳ないと思っていたことがあった。


「元々三人、仲良かったわけじゃん? なのにその中に俺みたいな奴が入ったらさ……迷惑じゃない? 気を遣ってもらってるなら、別に……」


「――それは違うぞ、怜太」


「……壮也?」


 さっきまでのほほんと窓の外を眺めていた壮也が、力強く俺のことを見てくる。


「俺たち三人、全員『可哀そうだから』とか、そういう理由で怜太と一緒にいるわけじゃない。怜太といると楽しいから、こうして一緒にいるんだ」


「そ、壮也……」


「いいこと言った」


「俺の気持ちの代弁、どうも」


「み、みんな……」


 温かい眼差し。


 彼女に捨てられた時に向けられた、あの蔑むような視線とはまるで違う。


 俺は思わず溢れ出しそうになる涙を堪える。


「みんな……ありがとう。こんな俺でよければ、これからも仲良くしてくれるかな……?」


「当たり前だろ?」


「……ほんと、ありがとう!」


 俺は本当に、いい人たちに出会えた。


 なんて幸運なんだろう。


「何泣きそうになってんだよ怜太。男なら泣くなよ」


「う、うん」


「よしっ。今日は海斗のおごりだね。好きなだけ飲み食いしよう、怜太」


「うんそうしよ……って、流果⁈ 俺今月ピンチだって……」


「怜太、そういうことだから好きなの頼め」


「……はぁ、分かったよ。好きなだけ頼めよ!」


「……じゃあ、遠慮なく。すみませーん。この生ハムを三皿!」


「怜太お前⁈ 何高いやつ頼んでんだよ! ってか、三皿って俺の分含まれてなくねぇか⁈」


「よくやった、怜太」


 流果からのサムズアップをいただく。


 壮也がフッと笑った。


「お前意外と遠慮とかしないのな……」


 財布の中身を見て絶望する海斗の姿を見て、三人で笑う。


 途中から海斗もおかしくなって、笑った。


 久しぶりに、たくさん人と笑った。



 この日、初めて人に奢ってもらった。



 ……ちなみに、海斗は半泣きでした。


 ごめん。





    ▽





 数日が経った。


 家に帰ると、一通のレインが来ていた。

 

 アプリを開いてみると、沙希からだった。


『沙希:あの……突然で申し訳ないのですが、明日怜太さんの家にお邪魔してもいいですか?』


『怜太:どうしたの?』


『沙希:いえ、や、やましいことはないですよ‼ ただこないだのお礼を、まだしていないなと思いまして……』


『怜太:沙希は真面目だね』


『沙希:そ、そうですかね……えへへ。と、ともかく、行ってもいいですか?』


 少し迷う。


 だが、沙希はおそらく男子の家に行くということを意識していないので大丈夫だろう。


 どちらかと言えば俺の意識の問題なのだが……沙希は俺の中ですでに大事な人なので、傷つけるようなことは絶対にしない。


 ほんの少し照れくさいが。


『怜太:わかった。いいよ』


『沙希:ほんとですか⁈ やったー!』


 それに添えられて犬が全力で尻尾を振っているスタンプが送られてくる。


 か、可愛い……。


『沙希:では明日の放課後、教室でお待ちください! お迎えに行きます!』


『怜太:わかった。楽しみにしてる』


『沙希:はい! おやすみなさい』


『怜太:おやすみ』


 こうして、沙希が俺の家に来ることになった。


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