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6 どの呼び方も捨てがたい


 海斗と流果に押し出されるような形で教室を追い出され。


 現在中庭のベンチにて、沙希と並んで座っていた。


「同じ高校だったんだね」


「ですね! ほんとこんな偶然あるんですねぇ……運命みたい」


「運命?」


 そういえば海斗もそんなこと言っていたっけ。


 さすがは兄弟と言うべきか。


「えっいや! そ、その……嬉しいなって」


「っ……!」


 ぽっと頬を赤らめる沙希。


 実に女の子らしいその姿は、直視できないほどに眩しかった。


 なんて可愛いんだこの子は……。


「ま、まぁ俺も嬉しいよ。沙希とこんなに早く再会できて」


「ほ、ほんとですか⁈」


「ほんとほんと。俺あんまり仲いい人いないし、仲良くできたらいいなって思ってたから」


「そ、そうですか……わ、私も、怜太さんと仲良くしたいなって思ってました」


「そ、そっか」


「お揃い、ですね?」


「だ、だね……」


「はい!」


 こんなにも可愛い子から「仲良くしたい」だなんて言われたら、天にも昇ってしまいそうだ。


 それに沙希は本心からそう言ってくれていることがよくわかる。


 俺にとって、それは何事にも代えられないほどに嬉しいことだ。


「そういえば、怜太さんは先輩になるんですよね?」


「一応、そういうことになるね」


「じゃあ呼び方変えた方がいいですか?」


「呼び方?」


「その……怜太先輩、とか」


「ぶっ‼」


 思わぬ破壊力に、吹き出してしまう。


 呼び方一つでここまで変わるものなのか……言葉ってすごいな。


 言葉というよりは、沙希がすごいのかもしれない。


「れ、怜太さん⁈」


 沙希が俺の背中を擦ってくれる。


「だ、大丈夫! 変に詰まっただけだから」


「それはよかったです!」


「心配かけてごめん」


「いえいえ。お気になさらず」


 それにしても、どっちの呼び方にしてもらおうか迷う。


 どちらも破壊力はすさまじく、捨てがたい。


 究極の選択、とはきっとこういうことを言うのだろう。


「それで呼び方なんだけど……」


「はい!」


「沙希が呼びたい呼び方でいいよ」


 決定するのに本気で迷って三日くらいかかりそうだったので、沙希にゆだねることにした。


「じゃ、じゃあ――ご主人様♡ でもいいんですか?」


「それは俺をからかってるの?」


「ほんの少しだけ」


「……心臓に悪いからそれだけはやめて欲しい」


「ふふっ。怜太さんって恥ずかしがり屋なんですね」


「ま、まぁね」


 真面目そうな沙希がからかうとは……。


 思えば、海斗はかなりいたずらっ子で無邪気なイメージがある。


 遺伝子って、すごい。


「じゃあこれまで通り怜太さんと呼ばせていただきますね」


「おう、分かった」


「はい! 怜太さんっ!」


 うん。

 なんだか『怜太さん』と呼ばれるのがしっくりくる。


 先輩も、捨てがたかったんだけどな。


「ふふっ、怜太さん」


「ん? どした?」


「いえ、ただ呼んでみただけですっ」


「そ、そっか」


 不思議なこともあるもんだ。


「同じ学校、かぁ……早速いい出会いあったなぁ」


「それはよかったね」


「んへぇ⁈ よ、よかったって……?」


 沙希がそう言った瞬間、始業五分前の鐘が鳴った。


「そろそろ行かないと……」


「あっ……はい、そうですね! じゃあ、また今度」


「うん、また今度」


 手を振って、駆け出していく沙希の姿を見守る。


「また今度、か……」


 妙に心が軽かった。





  ▽





「……え」


 中庭のベンチに座る、二人の男女。

 

 女の方は知らないが、男の方は由美がよく知っていた。


「なんで成宮が女と……」


 


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― 新着の感想 ―
[良い点] なんだよ、ただの天使かよ笑
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