49 神様にお願い
寺についた。
辺りは着物を着た観光客でごった返していて、人の多さに圧倒された。
「沙希。一応、俺の手を離さないでね」
「ふふっ、はい。……でも、言われなくてもずっと離しませんよ?」
「さ、沙希……可愛すぎるよ」
「っ‼ め、面と向かってそんな……う、うぅぅ」
沙希は褒められるのが苦手らしい。
参拝の列に並び、鈴を鳴らす。
「(沙希とこれからも、幸せな時間を過ごせますように)」
あと、ついでにもう一つ。
「(……キス、上手にできますように)」
神にもすがりたいほど、心配だった。
隣を見ると、沙希が目を閉じて手を合わせていた。
どんな状況でも、沙希は綺麗だ。
見惚れていると、沙希がこちらを向いた。
「どうしたんですか?」
「いや……やっぱり沙希って、綺麗だよなって思ってね」
「き、綺麗……! う、嬉しいです……」
「たぶん、目に入れても痛くないと思う」
「……私は娘ですか?」
「……何でもない」
失言だった。
でも、沙希がおかしそうに笑っているから、よしとしよう。
「随分長いこと願ってたけど、何を願ってたの?」
「そ、それは……ひ、秘密です。そういう怜太さんは?」
「じゃあ俺も秘密にしようかな」
「むぅ~怜太さんのケチ~」
「それはお互い様でしょ?」
「ふふっ、そうなんですけどね」
沙希ともう一度手を繋ぎ直し、歩き出す。
「あっ、怜太さん! おみくじ、引いていきませんか?」
「おっいいね。引こうか」
「はい!」
おみくじを引く。
沙希は随分と悩んでいたが、「これだ!」と言わんばかりに一枚取り出した。
「できれば大吉、来て欲しいですね!」
「そうだね」
沙希が楽しそうに開ける。
「あっ! 見てください怜太さん! 大吉です!」
「おっ、ほんとだ! よかったね」
「はいっ! なんか今日は、すこぶる調子がいい気がします!」
「それはよかった。クリスマス効果かな?」
「そうかもしれません。ちなみに、怜太さんはどうでした?」
「俺は……あっ、小吉だ。微妙だなぁ」
「まぁきっと、ここからよくなるってことですよ!」
「きっとそうだね。じゃあこれ、掛けようかな」
おみくじを括りつけようとすると、沙希が俺の手をグイと引っ張った。
「怜太さん。それ、くれませんか?」
「えっ、これ?」
「はい! その……記念に」
「こんなのでよければ、もちろんいいよ」
「ありがとうございますっ! えへへ」
小吉のおみくじを、持って嬉しそうにする沙希。
それがなんで欲しいのか分からないけど、沙希を笑顔にできたならこの小吉は無駄じゃなかったってことだ。
「大切にしますね!」
「うん、わかった」
ゆっくりと、でもあっという間に時間は過ぎ去っていった。
▽
陽が暮れた。
イルミネーションをやっている陸繋島の最寄り駅で降りた。
すぐに広がったのは――海。
思えば、夏にも海に来たように思う。
どうやら俺たちは、海が好きらしい。
島の頂点で存在感を放つ展望台。
幻想的なイルミネーションで、輝いていた。
「わぁぁ綺麗ですね」
「だね」
「今からあそこに行くんですよね?」
「そうだよ。たぶん、間近で見たらもっと綺麗だよ」
「ふふっ、楽しみです!」
上機嫌な沙希。
そんな沙希の手を引いて、海風を感じる。
「もう一日、終わっちゃいますね」
「何言ってんの。今日はここからが本番だよ?」
「はっ! そ、そうでした! さっきまでが楽しすぎて、つい……」
「それは、俺も同感だよ」
「ですよね! だからこそ、楽しみになってきました!」
「俺も」
寒さを感じて、手を強く握り合った。
クリスマスの夜が、始まった。
――きっと、これからも、