47 巣立ち
冬がやってきた。
まもなくクリスマスが訪れ、町はすでにイルミネーションが始まっていた。
そんな中、いつもの四人で公園にいた。
「さむ……」
「なんで今日は公園なの?」
「寒いところで飲む缶コーヒーが美味いんだよ」
「なんか海斗、おじさん臭いね」
「うっせ流果! お前もこの良さが分かるはずだよ!」
「まぁ、否定はしないし、俺だって確かにそう思うよ?」
「俺も、悪くないと思うよ」
「ふっふっふっ、やっぱりみんな同じ気持ちなんだな」
少し嬉しそうにそう言って、缶コーヒーを飲む海斗。
たまにはありだろう。
「そういえば、付き合って結構経ったけど、お前たちどこまでいったんだ?」
「あぁー確かにそれ、気になるね」
「ど、どこまでとは?」
「……そりゃ、キスとかそれ以上とか……だろ? ちなみに、詳しいエピソードなんかもついてるとなおよい」
「最近糖分補給してなかったもんねぇ」
「まぁ、確かに気になるな」
そんなに進展が気になるのだろうか。
というか、なんで俺の話が糖分補給になるんだか。
「キスなんてしてないよ? まだ手を繋ぐとかしかしてないし」
「「「……は?」」」
「え、えぇ?」
いやこいつマジかよ……という目で、三人が俺のことを見てくる。
「お前なぁ……もう付き合って三か月くらいだろ?」
「あっ、もうそんなに……早いなぁ」
「「惚気んな!」」
「ご、ごめんなさい」
「とにかく、三か月でキスもしてないのは、はっきり言って、遅いぞ!」
「うっ……」
「まぁまぁ海斗。二人には二人のペースがあるんだからさ」
「でも、沙希は待ってるかもしれないんだぞ⁈」
「出たよシスコン……」
「お、俺は二人の幸せを願ってだなぁ」
海斗が俺たちの幸せを願って言ってくれているのは、分かっている。
そうやっていつも助けられてきた。
だけど、もう過去の俺じゃないから。
「――大丈夫だよ、海斗」
「れ、怜太……?」
「そこはちゃんと、考えてるから」
ずっと海斗たちに背中を押されてちゃダメだって、思ってた。
だから、俺はそのことについて、しっかりと考えていた。
海斗と視線が交わる。
言葉はない。でも、何かが通じ合った。
「……そうか。余計なお世話だったな」
「そんなことないよ。ありがとう」
「あぁ。うん、言うことねぇな」
「そうだね」
「そうだな」
具体的なことは何一つ言わなかった。
だけど、通じ合う心。
この時俺は、ようやく本当の意味で、三人と横に並べたと思った。
この三人から、卒業したのだ。
「俺たちから言うことは、もうねぇな」
「嬉しいことだね」
「だな」
三人が爽やかな笑みを向けてくる。
「……ほんと、ありがとう」
俺もできる限りの笑みを返した。
「さてと、そろそろ行きますか!」
「だね。もう冷えてきちゃったよ」
「寒いな」
三人が俺の前を歩く。
横に並ぼうとして、立ち止まった。
「あのさ!」
大きな声で、俺は叫んだ。
「今まで、ありがとう!」
別れなどないのに、俺は気づけばそんなことを言っていた。
きょとんした表情を浮かべ、三人が顔を合わせて笑う。
「早く来いよ!」
「うん!」
三人の横に並んで、歩く。
やっぱり、海斗と流果、壮也は最高の――友達だ。
▽
クリスマス。
それは恋人にとって、特別な日。
「ねぇ沙希」
「どうしたんですか?」
「クリスマス、イルミネーションを見に行かない?」
「行きます! 絶対に行きます!」
「よかった。楽しみにしてるね」
「はいっ! わぁぁ楽しみだなぁ」
ルンルンで掃除機をかける沙希。
そんな沙希の姿を見ながら、俺は改めて決意を固めた。
「(クリスマスデートで、俺は――キスをする)」
物語もついにクライマックスへ――