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43 沙希の可愛さがヤバい


 学校では、ようやく騒ぎは落ち着いた。


 未だにたくさんの視線は感じるが、基本的ほとんどが好意的なものなので、嫌ではない。


「一年って結構早いよな」


「そうだね。気づいたら高二の半分は終わってたね」


「確かに。これが年を取るってことなのかなぁ」


「「……お前、まだ十七歳だろうが」」


「はは、確かに」


 すると、教室のドア付近から俺を呼ぶ声が聞こえた。


「怜太さんっ」


 愛する彼女が、迎えに来てくれたようだ。


「そういえば、今日は彼女と食べる日か」


「……相変わらず、アツアツだな?」


「……ま、まぁね」


 昼休みはいつも海斗たちと食べていたのだが、時々沙希と食べることになったのだ。


 ……上目づかいで「一緒に昼食……食べたいです」だなんて言われて、断るわけがない。


 むしろウェルカムだ。


「沙希、おまたせ」


「いえいえ! さっ、行きましょう?」


「うん」


 沙希と教室を出た。





    ▽





 人の少ない中庭で、弁当を広げる。


 沙希が作ってくれた弁当だ。


「そういえば、俺たちのこと噂になってるみたいだね」


「そうなんですか?」


「うん。……理想のカップル、とか言われてるらしい」


 海斗に教えてもらった。


「り、理想のカップル……はうぅ」


「びっくりだよね。まぁ、沙希が理想の彼女であることは間違いないけど」


「っ……! そ、それを言うなら怜太さんだって……理想の彼氏さん、ですよ?」


「さ、沙希……」


 今すぐに抱きしめたくなった。


 が、ここは学校なのでグッと堪える。


 節度は守っていこうと、つい最近沙希と決めたのだ。


「全く、沙希はほんとに、可愛いね」


「れ、怜太さん……それ、誘ってます?」


「誘ってるだなんて……こないだ節度は守ろうって、約束したばっかでしょ?」


「で、でも……」


 我慢できないようにもじもじする沙希。


 そんな沙希の手を握った。



「今はこれで、我慢しよう?」



 そう言うと、沙希が顔を真っ赤にした。


 何かに耐えるように、こくりと頷く。


「(……我慢するの、辛いな)」


 沙希の可愛さは罪の域に達しているなと思った。





    ▽





 スーパーにて買い物をする。


 そこで偶然、ある人物に出会った。


「あれ? 沙希?」


「……お、お母さん。なんでここにいるの?」


「今日は仕事が早く終わったから、晩酌でも、と思ってね。沙希は……」


 沙希のお母さんが、視線を俺にずらす。


「……あらあら」


 いたづらっ子が浮かべそうな笑み。


 なるほど。どうやら本当に沙希と海斗のお母さんのようだ。


「もしかして……彼氏さん?」


「っ! そ、それは……」


「はい、そうです」


「えぇ⁈」


 いつかバレるのだから、言ってしまった方がいいだろう。


 それに、挨拶をしたいと思っていたところだ。


「きゃ~! やっぱりそうなのね! ……もしかして、怜太君?」


「は、はい。そうですけど……なんで僕の名前を?」


「それはいつも沙希が私に怜太君の話を……」


「お、お母さん⁈ な、な、何言ってるの⁈」


「何って、それは沙希が怜太君の話を」


「言わなくていいよ!」


「あらあら照れちゃってまぁ……沙希も乙女なのねぇ」


「も、もう!」


 沙希が怒っているのは、かなりレアだ。


 しかと見ておこう。


「そういえば怜太君。今度うちの家に来ない? いつも沙希がお世話になっているようだし?」


「いえいえこちらこそ、沙希にはお世話になってます」


「あらそうなの? でも、来ないかしら?」


「……じゃあ、お邪魔します」


「やったっ。楽しみにしてるわね」


「はい」


 かなり個性的なお母さんだ。


 沙希の方を見ると、沙希が呆れたようにため息をついていた。


「お母さん……怜太さんを、困らせないでよ?」


「わかってるわよ。じゃあ怜太君、その時にたっぷり、お話しましょうね?」


 年を見せない、若々しい笑みを浮かべて去っていくお母さん。


 ……一体何を聞かれるのだろうか。


「……美人なお母さんだね」


「そ、そうですかね?」


「うん。さすが、沙希のお母さんだ」


「っ‼ も、もうぅ……」


 沙希が肩をポカポカと叩いてくる。


 その仕草すら、もはや可愛い。


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[良い点] 尊さが臨界点を突破した
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