40 好き
なんてことないキッチンで。
沙希を後ろから抱きしめる。
「……そ、それは、ど、どういう意味なんですか?」
「そのままの意味だよ。これからも沙希には、俺の傍にいて欲しいんだ」
「……そういう意味なんですね?」
「うん。そうだよ」
沙希がゆっくりと俺の手を優しく握ってきた。
「怜太さん、苦しいですよ?」
「あっ、ご、ごめん!」
無意識のうちに、俺はなんてことを……。
「い、いえ! 別に気にしてませんし、それに……嬉しかったですよ……?」
「さ、沙希……」
「とりあえず、一旦離れてもらってもいいですか?」
「わ、分かった」
突然申し訳なかったな。
そんなことを思いながら沙希から離れると、沙希が俺の方を向いて胸に飛び込んできた。
俺の背中に手を回し、優しく抱きしめてくる。
「さ、沙希⁈」
「……怜太さんのばか。突然抱きしめてくるなんて、卑怯です」
「ご、ごめん」
「それに、耳元であんなことを囁くなんて……私を死なせる気ですか?」
「そ、そんなつもりは……」
「全く……怜太さんはほんと、鈍感です」
「……ごめん」
「……怜太さん、また抱きしめてください」
「……う、うん」
沙希の背中に手を回す。
んっ、と甘い声を漏らす沙希。
またビクンと体が震えた。
「怜太さん、言葉にしてくれませんか?」
「…………わかった」
何を、とは言わなくても伝わる。
少し強めに沙希を抱きしめて、言った。
「好きだよ、沙希」
恥ずかしさよりも、幸福感が勝っていた。
「ふふっ、いざ言われると、照れちゃいますね」
「そうだね」
「……怜太さんは、私のこと、好きなんですか?」
「……好きだよ」
「……大が付くほどですか?」
「……大好きだよ」
沙希が幸せそうに笑う。
「そうなんですか。怜太さんは、私のこと大好きなんですか」
「そ、そうだよ」
「……嬉しいです」
沙希が顔を俺の胸に埋める。
そして呟くように言った。
「私も、大好きです」
顔は見えない。
けど、真っ赤な耳が教えてくれる。
好きの気持ちが、溢れてきた。
「好きだよ、沙希」
「……な、何回言うんですか?」
「何度でも」
「も、もうぅ……怜太さんって、ほんと、ダメな人です」
「ごめんね?」
「……いえ、一緒に、もっとダメになっていきましょうね?」
……この可愛さは、反則級だ。
もっとダメになってしまう。
「ふふっ」
「どうしたの?」
「いえ。なんというか……これからは好きなだけ、怜太さんに甘えていいんだって思ったら、嬉しくなっちゃいまして」
「……可愛すぎだろ」
「か、可愛い……はうぅ、は、恥ずかしいです……」
……どうして沙希はこんなにも可愛いんだろうか。
こんな子と両想いになれたことが、奇跡としか思えない。
だけど、これが現実なんだよな……。
「ねぇ、沙希」
「は、はい?」
「これからもずっと一緒にいような」
「……はい」
小さく頷く沙希。
――こうして、俺と沙希は付き合うことになった。
次話、第二部完結