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39/51

39 やっと


 家に帰ってきて、一気に気が抜けてしまった。


 今日一日、慣れないことばかりがあったからだろう。


「怜太さん、大丈夫ですか?」


「うん、大丈夫。ちょっと疲れただけだから」


「そうですか。私にできることがあったら、なんでも言ってくださいね?」


「うん、ありがとう」


 沙希が隣に座っていると安心する。


 ふと、思う。


「なんか、こうしてソファに沙希と座ってるこの時間が、一番幸せだな」


「へっ⁈」


 ……また思ってることが口に出てしまった。


「……そ、そうなんですか?」


「……うん」


「……わ、私も、この時間が一番幸せですよ?」


「……一緒だね」


「……一緒、ですね」


 ぎこちない雰囲気が流れる。


 沙希の言葉に、胸が躍った。


「これでさ、俺は沙希の隣にいても不自然じゃない男になれたかな?」


「なれた……というよりか、私としては元から不自然なんかじゃないですよ?」


「そ、そうかな」


「はい! 私は怜太さんが隣にいてくれて、不自然どころかずっと、ずっと……幸せを感じています」


「さ、沙希……」


 沙希の温もりを帯びた笑顔が、美しい。


 見惚れるなんかじゃ足りないほどに、俺は魅了された。


「……なんか照れますね」


「そ、そうだね。だけど、嬉しいよ。俺も沙希の笑顔を見て、幸せを感じてる」


「れ、怜太さん……」


 沙希に見つめられて、高鳴る胸。


 ――こういう気持ちを、なんて言うんだっけ。


「……なんで沙希はさ、俺の傍にいてくれるの?」


 ずっと気になっていたことだった。


「そ、それは……」


 俺から視線を逸らす沙希。


 俺は変わらず、沙希のことを見つめる。


「……も、もちろん、あの時助けてもらったお返しもそうですし」


 懐かしい。

 

 あの時沙希を助けて、終わり、始まったんだ。


 沙希が俺の方を見る。


 耳が真っ赤で、誰にでも照れていることが分かるだろう。


 でも、沙希はまっすぐな瞳で俺のことを見てきた。


 確かな意思をそこに宿して、俺が何度も救われた穏やかな表情を浮かべて。


 煌めく笑顔を振りまいて、言うのだった。




「それに――怜太さんと、ずっと一緒にいたいからですよ」




 その言葉が、俺の心を射抜いた。


 誤魔化しようもなく、確かな痕を残して。


「……は、恥ずかしいですね、これ。さっ、夜ご飯作りますか!」


 あたふたしながらキッチンに向かう沙希。


 俺はソファに座ったまま、そんな沙希の後ろ姿を見る。



 ――ずっとなんて、本当にあるのだろうか。



 いつの日か考えた、いつか沙希がいなくなること。


 俺と沙希の、名前のない関係がいつまでも続くとは限らない。


 いつか沙希は好きな人を見つけて、結婚して、幸せな家庭を築くだろう。


 この先ずっと、沙希が俺の傍にいてくれるとは限らない。


 そんな当たり前のことに目を背けてきた。


 だけど、どうしようもなく想ってしまう。



 ――ずっと傍に、いて欲しい。



 気づけば俺は、後ろから沙希を抱きしめていた。


「れ、怜太さん⁈」


 沙希の小さな体が、ビクンと震える。


 服越しでも、熱いことが分かった。


「沙希」


 誰かにあの笑顔を見せて欲しくない。


 あの温かい料理を、他の人に振る舞ってほしくない。


 知らない誰かと、微笑みながら歩いて欲しくない。


 この感情の正体が何なのか、俺は知っている。


 もう、見ないふりなんて――できない。


「怜太、さん?」


「……沙希」


「は、はい!」


 思ったことを、そのまま口にした。






「これからも、ずっと一緒にいてほしい」






 ――やっと。

 


やっと

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― 新着の感想 ―
[一言] このまま恋人関係通り越して夫婦になってしまったり。告白というよりプロポーズみたいだなぁ。 良いぞもっとやれ!!
[良い点] いけぇ 告白だ
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