16 壮也の意外な一面
テスト終了の鐘が鳴る。
およそ一週間に及ぶテストが、ようやく終わった。
「テスト終わったー」
「お疲れ海斗。どうだった?」
「まぁぼちぼちってとこだな。怜太は?」
「俺は……まぁ、いつも通りかな」
ほんとは沙希と一緒に勉強したおかげで、いつもより解けた気がする。
「まぁテストのことなんて忘れて、今からどこか行かない?」
「ナイス提案! どこ行く?」
「うーん……」
悩んでいると、壮也が言った。
「じゃあ俺の家くる?」
「壮也の家?」
「あぁー確かにいいかもな! 最近行ってなかったし」
「そうだね。壮也の家のは、格別だから楽しみだなぁ」
「?」
「よし、じゃあ行くか」
「おう! 怜太、沙希も誘ってみたらどうだ?」
「あぁーうん、そうだね」
スマホを取り出して、レインを開く。
電話するのは迷惑かなと思い、メッセージを飛ばした。
『怜太:今から壮也の家に行くんだけど、来る?』
するとすぐに既読が付いた。
『沙希:行きたい! ですけど、ごめんなさい! クラスのお友達と出かける予定がありまして……』
『怜太:そっか。じゃあしょうがないね』
『沙希:すみません(´・ω・`)』
『怜太:気にしないで。楽しんでね』
『沙希:はい! 怜太さんも!』
スマホをポケットの中に入れ、またニヤニヤしてる二人の方を見た。
「沙希、来れないって」
「そっかぁ、ならしょうがないなぁ」
「そうだねぇ」
「……なんで二人、そんなににやけてるの?」
「「いや、別にぃ?」」
最近、二人のにやけ顔が板についてきている気がした。
▽
落ち着くクラシック音楽に、木を基調とした店内。
淡いオレンジ色のライトが灯っていて、コーヒーの香りが漂っている。
「壮也の家って、喫茶店だったんだね」
「あぁ。古いけどな」
「あぁー落ち着くわ~」
「だね」
海斗と流果は慣れたように角のテーブル席に座る。
壮也は黒のエプロンをつけ、俺たちの接客をしてくれていた。
「なんか似合うね」
「そうか?」
「こう見えて壮也は、小学生の頃からこの店で働いてるからな! 加えて客からは大人気! この店の看板娘的ポジションなんだよ!」
「……なんで海斗が誇らしげなの?」
友達を自慢したいという気持ち、分からんでもないが。
三人でメニューを見る。
喫茶店の割には、良心的な価格だった。
「じゃあ俺は、ブレンドコーヒーにしようかな。流果と怜太は?」
「俺も同じのにするよ」
「じゃあ、俺も」
「了解」
壮也がカウンターに戻っていく。
すると店の奥から、茶髪の眼鏡をかけた美少女が出てきた。
壮也の横に並んで、慣れた手つきでコーヒーを入れていく。
その時、一つに結ばれたポニーテールがぴょこぴょこと揺れた。
「あれ、誰?」
「あの子は長瀬知代ちゃん。壮也の幼馴染だよ」
「そうなんだ」
壮也に幼馴染がいたのか。
それにしても、仲のよさそうな雰囲気である。
「そうちゃんコーヒー豆取ってもらえる?」
「ん」
「ありがと。あ、そうちゃんなんか楽しそうだね」
「そうか?」
「そうだとも。……あぁーなるほど、あの子が新しいお友達?」
「そうだ」
「なるほどねー、いい子そう」
「あぁ、いい奴だ」
「よかったね、そうちゃん」
「あぁ」
穏やかに微笑む長瀬さんに、無表情の壮也。
壮也の返答はそっけないが、どこか互いを信頼している感じがする。
これが幼馴染の絆、というやつか。
「お待たせしました。ブレンドコーヒーです」
「ありがと、壮也」
壮也から出してもらったコーヒーを口に含む。
「あっ美味しい」
「だろ? ここのコーヒーは一級品なんだよ!」
「……だからなんで海斗が誇らしげなの?」
苦笑しながら、コーヒーをまた一口。
ふと、カウンターに立つ長瀬さんと目が合った。
「(どうも)」
「(ど、どうも)」
視線で会話し、軽く会釈を交わす。
ふと、思った。
「(……もしかして、壮也が眼鏡好きなのって……)」
「ん? どうした?」
「い、いや、別に……」
ここで暴露するわけにもいかず、心に閉まっておく。
流果の方を見ると、俺の心を見透かしたようにサムズアップしてきた。
「(……あの壮也が。なんか意外だな)」
壮也の意外な一面を見た気がした。