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12 人の優しさを知った日


 今日は沙希が夕ご飯を作りに来てくれていた。


 二人で食卓を囲み、申し訳程度にテレビをつける。


「怜太さん、なんか今日は元気がないですね」


「そ、そうかな?」


「はい。なんというか……笑顔が少ないように感じます」


「そっか……そうなのかもしれない」


 沙希が心配そうな表情を浮かべる。


 この子にはいつも笑っていて欲しいのだが、こんな顔をさせてしまうなんて、俺はひどい奴だ。



「怜太さん、何かありました?」


 

 箸を置いて、沙希が真っすぐ俺を見る。


「別に、何もないよ?」


「嘘です。視線が泳いでます」


「そ、そんなことは……」


「怜太さん。私を頼ってくれませんか?」


「…………」


 沙希のどこまでも澄み切った瞳。


 俺はどうやら、沙希に隠し事はできないらしい。


「実は――」


 俺は語りだす。


 つい最近、彼女に使い捨てられたことを。


 そしてそんな彼女と再会したことを。


 沙希は俺の話を遮らず、ただただ頷いて聞いてくれた。


「――ってことがあったんだ」


「そうだったんですね……」


「また海斗たちに助けられちゃってさ……ありがたいと思うと同時に、自分が情けなくってさ」


「…………」


 弱音が零れてしまう。


「……よしっ」


「さ、沙希?」


 沙希が何やら決意を固めた様子で、俺の横に正座した。

 

 そして太ももをぽんぽんと叩いた。



「怜太さん、来てください!」



「……へ?」


「さっ早く! 膝枕ですよ膝枕!」


「ひ、膝枕⁈」


「はい! 早く早く!」


「え、えっ?」


「んっ!」


 沙希が目を閉じて、腕を広げる。


 沙希の肩が、ぷるぷると震えていた。


 きっと沙希だって、恥ずかしいのだろう。


 それでもなお、沙希は腕を広げて、俺を迎え入れようとしてくれている。


 その優しさを、誰が拒むことができるだろうか。


「じゃ、じゃあ……」


 俺は沙希の膝に、頭を乗せた。


「ひゃっ!」


 ビクンと沙希が震える。


「大丈夫?」


「だ、大丈夫です! 寝心地は、どうですか?」


「すごく、いいと思います……」


「そ、そうですか……よかったです」


 頭から伝わる、柔らかい感触。

 温かなぬくもり。


 優しさに、包まれる。


「怜太さん、頑張りましたね」


 沙希が俺の頭を優しく撫で始めた。


「そんなことは……」


「いえ、怜太さんは立派です。気にすることなんてないんですよ」


「で、でも、俺はまたいろんな人に迷惑をかけて」


「迷惑なんかじゃないですよ。私たちは怜太さんが、大切なんですから」


「さ、沙希……」


 目の奥から熱いものがこみ上げてくる。


 俺は唇を噛んで、それを堪えた。


「……俺、どうしたらいいかな? 助けてくれたみんなに、何を返せばいいかな?」


「何でもいいんですよ。私の場合は、怜太さんが笑ってくれていたら、それでいいんです」


「そんなもので、いいのかな?」


「そんなもので、いいんですよ」


 沙希の肯定が心地よい。


 深く傷ついてかさぶたになった傷口が、癒えていく。


「怜太さんは、もっと私たちに弱音を吐いていいんです。遠慮なく、もっと頼っていいんです」


「……俺はさ、また捨てられるのが怖いんだ」


「私は絶対、怜太さんのことを捨てたりしませんよ」


 その言葉に嘘がないことは、誰だってわかった。


「そ、っか……そっか」


「泣いて、いいんですよ?」


「……うっ、うぐっ」



「怜太さんは、よく頑張りました」


 

 その言葉を皮切りに、何かが抑えきれなくなった。


 俺は捨てられてから初めて泣いた。



 そして、


 

 ――人の優しさが温度を持つことを、知った。




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[良い点] 何だよただの天使かよ
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