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11 トラウマの再来


 ある日のこと。


「(あと三週間でテストかぁ。めんどくさいなぁ……)」


 なんて、呑気に思いながら一人で廊下を歩いていると、見知った顔の人とすれ違った。


 一生忘れることはないであろう人だった。


「あれ? 成宮じゃん。久しぶりっ」


「えっ……ゆ、由美?」


「そうだよ? 由美だよ?」


 悪魔的な笑みを浮かべる由美。


 俺を使い捨てた、元クラスメイトの彼女。


「ってかなんか雰囲気変わった?」


「そ、そんなことはないと思うけど」


「えぇー? そんなことあるよぉ~。なんか少し、カッコよくなった?」


「…………」


 話したくない。


 その軽薄で嘘にまみれた笑みを見るだけで、吐き気がしてきた。


「きゅ、急に何?」


「急に何って、え? なんか不愛想じゃんかぁー!」


 俺の肩に触れようとしてくる。


「や、やめて!」


 俺はすぐさま二歩下がった。


「えぇーひどくない? 元恋人だって言うのにさぁ?」


「…………」


「加えて無視。全く……あんなによくしてあげたのに、それはないんじゃないかなぁ?」


 ……由美は、こいつは何を言ってるんだ?


 由美の顔から、笑みが消えていく。

 

「ってかさ、成宮最近調子乗ってんじゃないの?」


「……意味が分からないんだけど」


「私と別れてから、なんか楽しそうにしちゃってさ。何、喧嘩でも売ってるの?」


「そんなつもりはない、けど……でも、捨てたのは君じゃないか」


「……は?」


 由美が一歩近づいてくる。


 底の見えない穴を見ているような感覚になった。


 あの時の、捨てられた時のことを思い出してしまう。


「誰がクソ陰キャなあんたと三か月も付き合ってあげたと思ってるの? 手、繋いであげたよね?」


「……そ、それは」


「ねぇ成宮、あんた自分の立場わかって――」



「わかってねぇのはお前だろ」



 後ろから声が聞こえる。


 その声の方を見ると、あの三人がいた。


「……か、海斗?」


 流果が「心配するな」という視線を送ってきた。


 険しい表情で、海斗が由美を睨みつける。


「お前こそ、自分の立場をわきまえたらどうだ?」


「か、加賀⁈ そ、それに、多田と前原も⁈」


「俺の友達に、手を出してもらっちゃ困るねぇ?」


「同感だ」


 ――こんなに心強い友達は、いるだろうか。


 もう大丈夫なのだと、確かに思う。


「い、いや、その……これは違くて!」


「何が違うんだ?」


「そ、それは……そのぉ」


 由美がまた軽薄な笑みを浮かべる。


 イケメンにはいい顔をしたいらしい。


 しかし、そんなのは海斗たちにはお見通しだった。



「もう二度と、俺の友達に手を出すんじゃねぇ」



「っ……!」


 海斗がマジ顔で睨みつける。


 まるで由美が百獣の王にひるむ子猫のように見えた。


「…………チッ」


 由美が舌打ちをして、その場から立ち去る。


 すれ違いざま、「あんたのせいだから」と言わんばかりに睨みつけられた。


「大丈夫か、怜太」


「だ、大丈夫。またありがとう、みんな」


「気にすんな、友達だろ?」


「……うん、そうだね。ほんとに、ありがとう」


「気にすんな!」


 ニカっと無邪気に笑って見せる海斗。


 またしてもこの三人に助けられてしまった。


「ってか、嫌な女だなぁあれは」


「あはは……」


 乾いた笑いしか出てこなかった。



 俺の胸の中には、助けられた安堵感と。


 思い出させられた、捨てられたトラウマがもたらす恐怖感が渦巻いていた。


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