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グラニエ城祭①(優の長い一日)

さあ、いよいよグラニエ城祭がスタートしました。


優の何気ない提案から始まったグラニエ城祭は壮大なイベントへと発展していった。グラニエ城周辺の住人とディオレス・ルイを巻き込んでグラニエ城祭の企画が進行していった。


前日の早朝から多くの警備員が導入され、城はもちろん城周辺の駐車場の整備や車の誘導手順や看板の設置や駅からもくるであろう来客の誘導のシュミレーションなど万全の準備対策が行われた。



 そしていよいよ当日がやってきた。雨が予想されていたが、前日の雨が嘘のように上空は雲一つなく晴れ渡っていた。

優は部屋の窓を開け大きく伸びをした。


「わあ~晴れてよかったあ、あっチャーリー大叔母さま~おはようございます」


優は窓の下をほうきとちり取りを持って歩いているチャーリーに向かって手を振った。


「あら優ちゃん早いわね。おはよう」


「だって今日は待ちに待ったグラニエ城祭ですもの。楽しみで目が覚めちゃったんです」

「そうね、楽しみね、今日はよろしくね」

「は~い」


優はチャーリーに手を振ると、急いで今日の為に用意されていた使用人用の制服に着替えた。優は昼間は城のスタッフとして手伝いをすることになっていたのだ。


夜の舞踏会までライフとお祭りを楽しめばいいと言われていたが、優はスタッフとして手伝いたいと自ら申し出たのだ。それを聞いたライフがしばらく膨れていたが、テマソンにディオレス・ルイ社の新作発表会の企画スタッフとして手伝ってほしいと言われて、思いなおしたのかしぶしぶテマソンと碧華と共に企画進行に奔走することになったようだ。


「さあ~がんばるぞ~」

優は大きく伸びをすると、部屋を出て行った。


朝九時になるとグラニエ城の門が開城され、多くの人たちが普段は入れないグラニエ城を見学しようと押し寄せていた。グラニエ城の周辺の草原や空き地は車の駐車場として整備され、多くの車での来場者も多く来場していた。


そして電車からも多くの人々がグラニエ城をめざして押し寄せていた。

優は教会の手伝いをするために教会に向かって歩いていた。


午前十時、絵本の読み聞かせ会が行われている教会の少し手前で様子をのぞき込んでいる少女が目に入った。優はその少女に近づくとしゃがみ込んで声をかけた。


「どうしたの?中に入らないの?」

「だって、私きれいな服着てないし、お金持ってないから」


その少女は継ぎはぎだらけの自分の服を見ながら悲しそうな顔をしていった。


「あら、この教会の中は誰でも入っていいのよ。神様はお金はとらないわ」

「ほっ本当?」


「ええ、私と一緒にみましょうか。もうすぐ読み聞かせが始まるのよ。色塗は好き?」

「うん!」


「じゃあこれをどうぞ、あそこのお姉さんが絵本を読んでくれた後で、ほらあそこで絵本の塗り絵ができるのよ」


そう言って教会に入ってくる人達に配っているスタッフから一つを受け取ると十二色入りの色鉛筆と塗り絵の紙が入った透明の袋をその少女に手渡した。


「これ・・・私がもらっていいの?」

「ええどうぞ、塗り終わったら色鉛筆も絵もお家に持って帰っていいのよ」

「ほっ本当?わあ~あっあの・・・私の妹の分ももらってもいい?」

「妹さんいるの?」

「うん、でも今朝、熱がでてこれなかったの」


それを聞いた優がもう一つ余分に配布袋をスタッフからもらうとそれを少女の前に差し出した。


「そう、やさしいお姉さんね、じゃあどうぞ、妹さんに渡してあげてね。早く元気になるといいわね」

「うん」


それを手した少女は嬉しそうにほほ笑んだ。その透明な袋には大きくグラニエ城祭用無料配布品と書かれていた。優はその少女と絵本の読み聞かせを一緒に聞くと、少女と一緒に塗り絵を楽しみ、少女は嬉しそうに帰って行ったのを城の外まで見送った。


優が城の中に引き返そうとしていると、ふと角の所にうずくまって泣いている小さな女の子を見かけた。少し前に見かけたような気がする少女だった。


「お母さんとはぐれたの?」


優はしゃがんでその少女にたずねると、少女は首を振って泣いているばかりだった。


「お姉ちゃんに何かお手伝いできることないかな?」

「ウサギさん落としちゃったの」

「ウサギさん?」


「うん、ママに作ってもらったウサギさんのお財布、首にかけてたんだけどないの。私、うさぎさんの絵本を買いにきたの。でもママお仕事あるから家から一人で歩いてきたの、そしたら友達が教会でお絵かきセットもらったって聞いたからもらいに行って本を買おうと思ったら持っていたウサギさんがなくなっていたの。あれがないと絵本が買えないの。ママからぜったいなくさないようにって言われていたのに・・・ママに叱られる」


そう言ってまた泣き出してしまった。


「よし、お姉ちゃんも一緒に探してあげる。どこかに落ちてるかもしれないでしょ」


優はそう言ってその少女に笑顔を向けると手を差し出した。少女は笑顔になると優の手に自分の手を差し出した。


「じゃあ、まず教会へ行きましょうか」


優はそういうと少女の手を引いて教会へと向かった。優は教会のスタッフに少女のいうウサギの財布の落とし物が届いていないかたずねたが、落とし物や忘れ物コーナーには届いていなかった。優は教会内の隅々まで探したがどこにも見当たらなかった。少女の落胆した顔を見て優は言った。


「よし、じゃあもう一度来た道を探そうか、よく思い出してみて、ママと一緒に歩いている時はどこに持っていたの?」


「あのね、首にかけていたの。このぐらいのピンクのウサギさんの顔のお財布」


その少女が自分の手と同じぐらいの小さな財布の形を手で説明した。


「そう、じゃあ、お友達とお話しする時には持ってたか思い出せる?」

「うん、持ってた」

「じゃあその後に教会にきたのね?」


少女は頷いた。


「あっ、お城に入ってすぐ男の子たちとぶつかった」

「そう、じゃあその時かもしれないね」


優はその少女と教会から城門までの道を隅々まで見て回った。どれだけ時間が過ぎただろうか。いつの間にか教会のスタッフも数人集まってきて探してくれた。諦めかけたその時、「あったー」の声が聞こえた。教会へとつながる道のすぐ脇の花壇の中に小さなピンクの財布が落ちていたようだ。花の中に紛れてわからなくなっていたのだ。駆け寄ってスタッフが差し出すと少女は嬉しそうに頷いて受け取った。


「私のウサギさん」

「よかったわね、よし、じゃあ本を買いに行きましょうか」

「うん、あっ、あの見つけてくれてありがとう」


少女はスタッフたちに向かって可愛い頭を下げお礼を言うと手を振った。スタッフたちも笑顔で手を振り返し持ち場に戻って行った。


優はそれから少女を絵本の販売場所まで連れて行くと、既に長い行列ができていた。優はその少女と一緒にその列の最後尾に並ぶと、順番を待ちようやく一冊の本を買うことができた。少女は嬉しそうにその本を手にすると、優に向かってお礼を言った。優はその後、城から駅へと向かう途中の家の前で店を出しているという少女の家まで少女を送って行った。少女の嬉しそうに大きく手を振る姿に優も手を振って少女と別れた。


「ママの本をあんなに嬉しそうに買ってくれる子達がいるなんて、ママすごいなあ、私もあんな絵本書いてみたいな」


優はそんな独り言をいいながら城に向かって道を歩いていると、目の前に杖を突いた老人が下をキョロキョロしながら歩いていた。優は駆け寄って声をかけると、驚いたような顔をして優をみた。優は睨まれたように感じて頭を下げながら答えた。


「あの、私お城のスタッフです。何かお困りのご様子でしたので、私にお手伝いできることがございましたらお手伝いいたしますが」


「ああ、スタッフの方でしたか、すまんのう、実は駅から久しぶりに歩いてきたんじゃが、人とぶつかった拍子に眼鏡を落としてしまいましてな。何分視力が弱っていて、探そうにもよくみえんのですわ」


「あらそれは大変ですわね」


優はそういうと周辺の溝や草原をしゃがみ込んで探し始めた。程なくして草の中から眼鏡が出てきた。どうやら傷はついていないようだった。優はつけていた黒いエプロンのポケットからハンカチを取り出すと眼鏡の汚れをふき取ると老人に手渡した。


「おおこれじゃこれじゃすまんのう、いや~たすかったわい。これは礼じゃ」


そういうと老人はポケットからお札を取り出すと優に差し出した。


「いいえ、たいしたことはしてませんわ。こんなこと困っている時はお互いさまですから」


そういって一礼しただけでお金は受け取らなかった。そうしていると、一台の黒い豪華な車が目の前に止まった。慌てた様子で中から男の人が出てきたかと思うとその老人に頭をさげてなにやらフランス語らしき言葉で話していた。


優はその様子をみてもう大丈夫だと確信するとお辞儀をして城に向かって歩きだした。

車に乗り込んだ老人が窓を開けて城まで送ると言ったが、優は笑顔で断った。老人はもう一度礼をいうと、城に向かって先に走り去ってしまった。


それから優は城にむかっては、困っている人を見かけるとその手伝いをするというのを繰り返して、なかなか城に戻れずにいた。気が付くと人がもうまばらになってきていた。優はポケットの携帯で時間をみるともう夕方の五時を過ぎようとしていた。


「大変、もうすぐ舞踏会が始まっちゃう。急いで戻らなきゃ」


優は慌てて、城へと走りだした。駅と城へと続く露店が立ち並ぶ道を行ったり来たりしていたので気が付くと、ずいぶん城から離れていた、歩いて戻っても二十分はかかかりそうだった。優は慌てて走って城に戻っていると、ふいに銀色のスポーツカーが優の前で急に停止して、左側に窓が開いた。


「優ちゃん?」


その車から顔を出したのはフレッドだった。


「フレッドさん!」


「やっぱり、可愛い子が歩いてると思ったら僕のシンデレラじゃないか、カボチャの馬車に乗り遅れたのかい?舞踏会に間に合わなくなるよ」


「まあフレッドさんたら、いろいろ困っている人達のお手伝いをしていたら、すっかり遅くなってしまって」


「君らしいね。乗っていきなよ。君がいないと、僕も舞踏会に行っても壁の花をしなきゃいけなくなるからね」


そう言ってフレッドは車から降りると回り込んで、助手席のドアを開いた。優は少し迷ったがフレッドの車に乗り込んだ。優がフレッドの車で城の城門までくると、関係者用の証明書を門の所にいた警備員に見せ、城門をくぐり城の正面玄関まで車を付けた。すると玄関から栞とエンリーがかけてきた。


「もう優探していたのよ。携帯にも出ないし」

「ごめんなさい、駅まで行っていたから」


「いいわ、とにかくもうすぐ始まっちゃうわよ、テマソン先生が待ってるから、早く着替えて化粧してもらいなさいよ」


そういうと栞は優の手を掴んで走りだした。優は振り向きながらフレッドに向かって礼を言った。


「兄さん、優ちゃんとどこであったんですか?」


「駅の近くだよ。優ちゃん困っている人たちのお手伝いをしていたら気が付いたらこんな時間になっていたみたいだね。まったくアトラスじゃあんな子いないよな。笑顔が可愛くて純粋で、ライフ君がライバルじゃなきゃ立候補している所だよ」


「兄さん!、優ちゃんにいい加減な気持ちで言い寄らないでくださいよ。僕の大切な妹なんですから」

「はいはい、今日一日だけのパートナーで我慢するよ」


フレッドはそう言って笑顔をエンリー向け、車を駐車場に置くべく近づいてきたスタッフに鍵を渡してエンリーと共に舞踏会会場へと入って行った。


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