グラニエ城祭準備②
ディオレス・ルイ社では今年の新作発表会がグラニエ城で開催するという突然の報告で社内ではかなりの動揺が広まったが、緊急に開かれた会議では会社中異様な盛り上がりになっていた。
それは、編集部の編集長の会社で現在は彼の息子が社長を務めているビンズ・ボンズ商会とのファッションショーのコラボが決定していることも影響していた。
決定から三日後には全ての部署で普段の仕事とは別に催準備が着々と行われ始めていた。
今回のプロジェクトは毎年の趣向とかなり異なるというものあって特別のプロジェクトチームが組まれていた。
なんと、その中にはライフの姿もあった。
本人の希望もあったが、ビルの命令でもあり、ゆくゆくはレヴァント家の当主になるライフに、今回のグラニエ城祭の総責任者であるリリーの補佐役を命じたのだ。
それに伴い、いつもは大学の講義が無い時はビルの会社で秘書をしているライフが三月に入ってから時間があるとディオレス・ルイ社に顔を出し、プロジェクトチームと計画を練っていた。
「会場をお城内のどこかのホール内でするというのはどうでしょうか?もし雨でも降ればお客様が傘をさして見るという事にもなりかねませんし、そうすると客足が減るのではありませんか?どこか室内でできないのでしょうか?」
社員のパンが言うとライフが立ち上がり答えた。
「パーティーホールは夜の舞踏会用の準備で少なくとも一日はかかりますから、昼間会場用に設営した機材を夕方からの舞踏会用に数時間でチェンジするのは無理があります。城の庭園なら会場を設営しても最大でも千人は入るスペースは十分ありますから、もしそれで入りきらないようなら二部構成にしてもいいんじゃないでしょうか」
「それならあらかじめサーカスとかの巨大テントを設営したらどうでしょうか、それなら雨も関係ないですし」
「サーカスか、ならどうせならファッションショーとサーカスもすればどうでしょうか?入れ替え制にして」
「無理ですよ、サーカスを急に呼ぶなんて不可能ですよ、少なくとも一年前までに事前に問合せしないと半年後なんか無理ですよ」
「だよなあ、でも大きなテント用の布なら特注すれば注文可能だと思いますよ」
様々な意見が社員の間からでてきて、ライフはその提案を総合して提案し直した。
「では、城で一番広い東側の中庭なら、塔と城壁の間に巨大なテント用の布を貼ればなんとかなるかもしれませんよ。カラフルな布をあしらえば天井のアクセントにもなるし、晴れても日よけにもなるし、あそこなら下は石だたみですから雨さえしのげれば椅子をおいて観客席は十分確保できると思いますし、ショーを二部仕立てにして観客を入れ替えれば十分入ると思いますよ」
「そうねえ」
「社長、では今回はチケット制にすればどうでしょうか?」
「お金をとるの?発表会なんだから無料でもいいんじゃないの?」
「しかし、今までのように会社内でするのとは違い設営や警備にもかなりの費用がかかると思います。それに、モデルやビンズ・ボンズ商会への衣装提供の支払いにもかなりの金額が必要になりますから」
「そう言われればそうね、でも反発が起きないかしら?」
「あの…では、その代わり特別にその日限定販売のグッズ販売なんかもすればどうですか?普段では買えない特別仕様の色んな小物や簡単なエコバッグなんかを別に販売すればどうでしょうか?ついでに編集部の今まで販売した本も限定販売で何か特典を付けて販売しても売れるんじゃないでしょうか?絵本の読み聞かせをするのでしたら、その本の販売もあると気に入ってくれたお客様がお買い上げくださるのではありませんか?普段ディオレス・ルイ店にご来店して頂いていない方々にもわが社を知っていただくチャンスかと思うのですが」
「いい考えね」
テマソンもその提案に賛成し、一同も胸をなでおろした。
会議はそれから遅くまで続き、今年限定のファッションショーの計画案が急ピッチで練られ始動し始めた。
そして後日、毎年招待している招待客以外のお客様対象にネット上でディオレス・ルイ社プレゼンツグラニエ城祭ファッションショーの閲覧指定席の販売が開始され、既にネットで噂が広まっていたというのもあり、開始十分でソールドアウトになってしまう盛況ぶりだった。
そうしてグラニエ城祭の準備はディオレス・ルイとレヴァント家とグラニエ城周辺の地域を巻き込み、ビックイベントの準備が着々と行われていった。
碧華も四月に無事優が大学進学を果たすと、家族の理解もあって、頻繁にアトラスを往復するようになっていた。それはファッションショーとは別のイベント企画として、チャーリーのレカンフラワーとのコラボ絵画絵本の四季全一二作品を城の内部に展示し、碧華の絵本を映像にして、絵本の朗読を流すという企画の為に、朗読者とのイメージの打ち合わせなどもあったからだ。
それと並行して、グラニエ城祭用限定販売の詩集の制作も開始し、碧華以上にテマソン自体も毎日かなりハードスケジュールをこなしていた。
そしてここにももう一人、忙しい人物が一人いた。
「ねえお姉様、本当に今回は私も舞踏会に参加しないといけないかしら?」
チャーリーは新作のレカンフラワーアレンジメントの制作をしながら、隣で招待状の返信ハガキのチェックリストを確認していたヴィクトリアにたずねた。
「あら当然じゃない、あなたの作品をお城に展示するんですもの。それにレカンフラワー教室もするんでしょ。舞踏会だけ参加しないというのはおかしいわよ」
「はあ~どうして引き受けちゃったのかしら」
チャーリーは大きなため息をついた。
「あら、いいアイデアじゃない、お花にかかる材料費以外の売り上げ金は恵まれない人達の基金に寄付するってアイデアも素敵だと思うわ。作ってみたいって人達たくさんきてくださるわよ」
「それはいいのよ・・・生徒さんに教えるのは好きだから、でも私舞踏会なんて十代の頃参加して以来なのよ、ドレスも持ってないし、それに、話しかけられても何を話していいのかわからないし、緊張してヘマしないか心配なんだもの」
「大丈夫よ、衣装は新調してあげるわ。それに他人のパーティじゃないんだから、つらくなったら自分の部屋に戻っていてもいいんだから、最初の挨拶の時だけいてくれればいいんだから」
「でもいろいろ言われるわきっと」
「あら噂したい人には言わせておけばいいじゃない。私は自慢したいんだもの。私の妹はすごいでしょって、才能豊かな自慢の妹を自慢できるチャンスなのよ」
「はあ、気が重いわねぇ・・・」
ヴィクトリの言葉を聞いてもチャーリーの心は晴れることはなかった。
「碧ちゃんがよく言ってるじゃない、なるようになるわよ」
「何とかなる・・・何とかなる」
なんどもその言葉を繰り返しているうちにチャーリーの気持も固まりつつあった。
「そうね、碧ちゃんもいるし、嫌味を言われたらアカンベェすればいいわね」
「そうよ、楽しまなきゃ。私はワクワクしているのよ、早く八月にならないかしらね」
「そうね、本当は心配半分楽しみ半分なの。この城に住み始めてこんなにワクワクしてるの初めてよ」
「あら奇遇ね、私もよ。本当に碧ちゃん達が来てくれてから楽しみが増えて幸せ者ね私達」
「ええ」
ヴィクトリアとチャーリーは互いの顔を見あいながら笑いあった。
木漏れ日が差し込む穏やかな午後のひと時だった。