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最高傑作④



碧華が編集部に戻った一時間後、ティムが両手にいっぱいの買い出しの夜食を手にカリーナと一緒に編集部に入ってきた。

ティムは手にたくさんの夜食を買い込んできて、中央テーブルにそれを並べた。どれも一流シェフの料理ばかりだった。作業をしていたみんなが作業を中断し、椅子を持って中央テーブルに集まり並べられた夜食をめいめいに手に取り口にほう張り始めた。


「碧ちゃん、どうしてあんなところにいらしたの?夜の不要な外出はお控えなさった方がよろしくてよ。ここは日本ではありませんのよ。不用意に外にでるのは危険ですわよ」


入り口の辺りに立って缶ジュースを持って口に含んでいた碧華に近づいたカリーナが突然碧華に言った。


「そうなんだけど、外の新鮮な空気が吸いたくなったのよ。でもあなたもこんな夜にどうしていたの?私より財閥会長夫人のあなたのほうが危険度が高いんじゃないの?」


「あら碧ちゃん、お言葉を返すようですけれど、わたくしにはボデイーガードがついておりましたでしょ。それに今夜はわたくしも最後の点呼の後八時過ぎには一度自宅に戻っておりましたわよ。でも一応、発売日が近いので徹夜組が現れてもめるといけませんでしょ、夜中公園を警備する警備員と本を買う行列待ち点呼開始時間を書いたプラカードをかかげている警備員を雇っていましたのよ。そしたらその警備員から連絡が入って、もめているっていうので駆けつけましたのよ」


「ええ~あの夜中警備してるのテマソンが雇っているんじゃないの?」


「そうよ、本を買うのに並ぶなんて、公式に認めちゃうと大変でしょ。だから非公式でビモンド夫人にお願いしているのよ」


編集部の外に出ていたテマソンが開け放たれていた部屋の扉を閉めながら碧華に向かっていった。


「ええ~そうしたら人件費だけでもすごい赤字じゃないの?」


「あらそんなことはなくてよ。我が社が印刷を一手に引き受けさせていただいておりますもの。これぐらい契約内ですわ。それに早くから並んででも一番に購入したいと思ったのはわたくしですもの。これぐらいいたしませんと、何か問題があると今後にも影響いたしますでしょ。まあ、夜の外出はともかくとしてあい変わらずの神対応ぶりには感激いたしましたわ。わたくし驚きで言葉が出ませんでしたわ。あんな素敵なことをなさるなんて」


「あら?碧ちゃん何かしたの?」


カリーナの話しを聞いていたリリーが聞き返した。


「実はね・・」


そう言って先ほどのさわぎを説明した。


「ちょっと碧ちゃん、私達が一生懸命制作している間にぬけ出して息抜きしようとしていたの?」


「あらでもママン、私もう五時間もぶっ続けで書き続けているんだもの。手が痛くなってきたから、ちょっと新鮮な空気を吸いがてら夜食を買いにいこうとしていただけよ。それに一人じゃなくてビンズ編集長と一緒だし、危険なことはしてないわよ」


「ちょっと碧華、そういいながらもめごとにちゃっかり首を突っ込んでいるじゃないの。今回は本当にその若者たちはいい子みたいだったからよかったものの、嘘を言っていることだってありえるんですからね。あなたが強引に絵を描けっていうから描いてあげたけど、いつもいつもそんなことをしてると馬鹿をみるのはあなたなんですからね。悪い人間はたくさんいるのよ。もっと人間を疑いなさい」


「でも…」


 テマソンの言葉に碧華が珍しくシュンとなって小さな声で反論をした。


「でもはなしよ」

「は~い」


二人のやり取りを聞いていたカリーナが突然笑い出した。


「ごめんなさい。なんだか、親子みたいだなって思ったものだから、わたくしはそのままでよろしいと思いますわ。だってそこが碧ちゃんの魅力なんですもの。今夜のあの三人の顔つきもね、碧ちゃんに会う前のわたくしに言いがかりをつけてきた顔つきから、まったく別人の顔に変わってましたもの。あの三人もきっと碧ちゃんのファンになりましたわよ」


「あらそうかしら」


「ビモンド夫人、この子をおだてないでくださる。この子にはきつくいわないと、けがばかりするんだから」


「もうテマソンは心配し過ぎなのよ、今年に入ってから私まだ一度も怪我をしていないじゃない。あんまりうるさく言ってるとはげるわよ」


そう言って碧華はテマソンに向かって舌を出した。


「なんですって!」


今度はにらみあいをしだした二人にどうしたものかとオロオロするカリーナをよそに、他の人間は素知らぬ顔で並べられたカリーナの差し入れを食べていた。


「カリーナ、ほっときなさいよ。いつもの痴話げんかなんだから、真剣に心配するだけ損よ。すぐに仲直りするんだから」


リリーは席を立ち、部屋の扉の所にまだ立っていたカリーナに近づくと、目の前で口論している碧華とテマソンを横目でみながらカリーナに言った。それでもカリーナは心配そうに二人を見守っていると、碧華が突然シャリーに向かって叫んだ。


「あ~シャリーそれ駄目!私がねらってたんだから!」


ちょうど目の前のケーキを自分の皿に取り分けようとしていたシャリーに向かって叫んだ。


「あらいいじゃない」

「だめよあなた三個目でしょ、私はまだ食べていないんだから」


碧華はそういうとテマソンと睨みあうのをすんなり止めてシャリーの所に駆け寄るとシャリーの皿からケーキを奪い取った。


「碧ちゃんって純粋なのよ。だから碧ちゃんを相手にするとみんな聖人になっちゃうんじゃないかしら。うちの子なんかもね、私達には言わない本音も友達感覚で碧ちゃんには話しちゃうのよ。悔しくなる時あるわよ」


「わかる気がしますわ。もっと話していたくなりますもの」


「でしょ、飽きないわよね。みてあの幸せそうに食べてる顔、あんなケーキで幸せになれるのよ」


二人はシャリーと口論しながらもおいしそうに食べている碧華を眺めながら、自分たちも椅子に座り、楽しそうに会話を再開しだし、楽しい休憩時間を過ごした。そして休憩が終盤に差し掛かった頃、カリーナが完成している作品に目を通しながら何気なにしにテマソンに向かってたずねた。


「テマソン様?今回は付録はおつけにならないのですか?」


「そうねえ・・・今回は詩集というより絵画みたいなできになりそうでしょ、印刷用紙もいつもよりグレードをあげようかと思っているの。問い合わせたら用紙はあるらしいから、今回は後ろに碧華の詩の英訳も付属でつける予定だから、付録をつけると予算オーバーしちゃうのよ。ママンや叔母様たちにも手当払わなきゃいけないし」


「そうなんですの?では・・・金額を上げてはいかがかしら?」

「それもどうかしらねえ。今でも十分詩集にしては高いでしょ?」


「わたくし庶民の方の高いと思う本の金額の基準はわかりませんけれど、でも今チラッと見させてもらった限りでしたら、前回と同じ金額設定ですと、少々お安いかなと思いますわよ。だって今回はすごくテマがかかっていそうですもの」


「そうかしら」


「そうですわよ。そしたら付録もつけられるのではないかしら?ファンにとって付録っって興奮しますもの。多少の値上がりは問題外だと思いますわ。宝石や衣装代に比べればお安いんじゃないかしら」


「そうねえ・・・でも今回は時間がないから無理ね。だいたい碧華が動き出したのって今日なのよ。時間がないのよ」


そういってテマソンがおいしそうにケーキを口に穂奪っている碧華の方を向きながら言った。


「あらテマソン、聞こえてるわよ。私のせいにしないで」


再びにらみ合いがはじまるのをみたカリーナは


「あの…でしたらポストカードを付録になさってははいかがでしょう」

「ポストカード?」


「ええ、完成した作品の一部を拝見させていただきましたけれど、今回の作品は詩とお花と絵のコラボ作品は別々に描かれていますでしょ。本として拝見するならこれがベストですけれど、もし合体しているのなら、額に飾って壁に飾りたいなって思うものばかりですわ」


「そうねえ・・・ポストカード一枚なら何とかなるかもしれないわね。でも詩を合体させるならどこの位置に詩を入れるかを考えるのにも時間がかかるわね。今どう考えても時間に余裕があるスタッフがいないわ」


「ええ~ポストカードいいなあ、私欲しいなあ。作ろうよ」


「何言っているのよ。あなた自身まだ半分しか完成していないでしょ。タイムリミットまで十一時間しかないのよ。間に合うの?」


「何よ、不可能を可能にするのが人間の底力でしょ。テマソン、あなた今日はやけに私に因縁つけるじゃない私に恨みでもあるみたいね!」


「あら、別にないわよ、私は正論を言っているだけでしょ」

「あの・・・」


ハラハラしているカリーナに隣に座っていたリリーが耳打ちした。


「心配には及ばないわよ。あの子ねやきもち焼いてるのよ。今回は一番最後に絵を描いてて言われたのが気にいらないのよあの子。なんでも一番じゃなきゃ嫌なタイプでしょ。気にするだけ損よ。碧ちゃんに関してなら、自己主張したもん勝ちなのよ」


「あっあら、じゃあ」


リリーから耳打ちされたカリーナは頭に浮かんだアイデアを話し出した。


「私にさせて頂けないかしら?こう見えてもわたくしパソコン操作なら得意ですの。完成した絵の方と碧ちゃんの文字だけを合成させて、少し作品を消すかもしれませんけれど、一枚の絵画になるようにパソコン操作いたしますわ。わたくしのセンスに任せて頂けるのでしたらわたくしにさせていただけないかしら」


「えっ、でも期日は明日の正午なんですよ。徹夜になるわよカリーナ」


カリーナの提案を聞いた碧華が言うとカリーナは笑顔で答えた。


「大丈夫ですわ。主人も今日は出張中ですもの。それに徹夜で仕事なんてワクワクしますわ。わたくし、キロスの時はすごく楽しくて、またお手伝いさせていただきたいとずっと思っておりましたの。でも、主人がこちらに迷惑になるからあまりでしゃばるなってくぎを刺されてしまってずっと我慢してましたの?もし、ご迷惑でないならわたくしも手伝わせていただけたらこんな幸せなことはございませんわ」


「でもねえ・・・」


渋るテマソンにカリーナが言った。


「お願いしますわテマソン様、わたくし前回とても楽しかったんですの、今回もお手伝いできるのならこんな幸せなことはありませんわ。もちろんこんなことぐらいで就労手当を要求などいたしませんわ。でもその代わりに完成したポストカード全種類いただけないかしら、できれば皆様のサイン入りで」


「あら、私もそれなら欲しいわ」


カリーナの提案に賛同したのはヴィクトリアとチャーリーだった。


「あらママンたちもなの?ポストカードなんか要るの?」


「あらだってこの完成した作品どれも素敵だもの。私も欲しわ。本に入れるの一枚とかでしょ。全部のパターンをそろえようと思ったら何冊も買わなきゃコンプリートできないじゃない」


「あらじゃあ、予告として、販売初日に後日、全てが入ったポストカードを別売りで売り出すっていうのはどう?」


「そんなことをしたらプレミア感がなくならない?」

「でもファンとしたら全種類欲しくなるわよ」


「そうね、じゃあ販売してからお客様の要望が多く寄せられたら販売するか検討しましょうか?じゃあビモンド夫人、お手伝いしていただけるかしら?」


「あらよろしくてよ。そうそうテマソン様、そろそろわたくしのこと名前で呼んでいただきたいわ」


「あらよろしいの?じゃあ遠慮なくカリーナ。今夜は徹夜よ、覚悟はできているかしら?」

「望むところですわ。さあ、わたくしもお腹に入れて頑張らなきゃ」


カリーナはそういうと目を輝かせながら目の前のサンドイッチを穂奪った。いちどうはカリーナの差し入れを平らげると、テキパキと片付け、再び仕事に戻った。カリーナの参戦により、作業が急ピッチに進み、チェック体制がリリーとカリーナの二人になり、時折二人の意見が対立することもあったが、夜明け頃にはほぼ完成に近づいていた。



 翌朝六時、カリーナは編集部から直接公園前に姿を表すと、徹夜でプラカードを持って立っていたカリーナの代理人以外に三人の若者が既にきていた。カリーナが声をかけると、それは昨夜の若者たちだった。


「あらあなたたち、早速来たの?」

「はい、昨日はご迷惑をおかけして本当に申し訳ありませんでした」


そう言って若者たち三人はカリーナに頭を下げた。


「あら、わかって下さればいいのよ」


「あの・・・実は俺達もAOKA・SKY先生の本が読んでみたくなって、朝一なら間に合うかなって思って順番に並ぼうと思ってきたんです」


「あら、ようこそですわね。じゃああなたたちもファンクラブ入る?あなたたちなら特別に入会金は免除して差し上げましてよ」


「あっありがとうございます」


「あっあの、実は俺達、昨日のお詫びに何か手伝いできることないかと思ってきたんです」

「あら、いいのよ」


「でも、実は明け方に妹に会いに行ってすごく叱られたんです。きちんと謝ってこないと口をきかないって言われてしまって、お願いします。俺達に出来ることがあれば何か手伝わせてください」


「そう・・・じゃあお願いしようかしら、実はね警備の者が今日人数が足りないと報告がきたのよ。あなたたちにお願いしようかしら、今日は点呼の時間が朝と夜の六時から八時までの二回なんだけど、かなりの人間が並ぶから他の人のお邪魔にならないように歩道の誘導をしていただきたいの。詳しくは担当者に話しておくからお願いできるかしら?それ以外の時間帯も初めてくる人達もいるから、その人達の誘導もお願いしたいのだけれど、大丈夫かしら?」


「はい!」


三人は返事をすると、もう一度頭を下げた。三人は警備担当者から制服を貸し出しされ、一日警備の手伝いを無事こなした。その夜、ファンの行列が全て帰った八時過ぎ再び姿を見せたカリーナがまだ警備を手伝っていた三人を呼び寄せ言った。


「御苦労さま、もう終わってくれていいのよ。休憩があったとはいえ、一日立ちっぱなしで疲れたでしょう。これはアルバイト料よ」


そう言って一人一人にバイト料が入った封筒を差し出した。それをみた三人は顔を見あわせて首を横に振って受けとろうとしなかった。その時、大きなクーラーボックスを抱えた女性がカリーナの後ろから姿を見せて言った。


「あら、一日頑張ったんだもの。当然の報酬よ。受け取っときなさいよ。私が払うわけじゃないんだけど」


笑いながらいうその女性は碧華だった。


「碧華、あなたいい加減英語覚えなさいよ。日本語で言っても通じないでしょ」

「せっ先生!」

「お二人とも、どうなさったのですか?そのような物をお持ちになって」


カリーナも驚いていると、もう一人姿を表した。


「この子ったらこんな時間にアイスが食べたいなんて言い出したから、今買いに行ってきたのよ。みんなの分もたくさん買ってきたから一緒に食べない?」


そう言って、碧華が地面においたクーラーボックスの蓋を開けて三人にアイスを差し出したのはテマソンだった。彼らも今目の前にいる人物がディオレス・ルイの社長だと気づいたのか、驚きの顔をして硬直していた。


「ほら、もう仕事は終わったんだもの、アイスが解けちゃうわ食べよう。アイス食べられない子いるの?」


碧華はテマソンの言葉でムッとしたのか通訳を頼まず、ポケットからポケトークを取り出しそれを通して日本語で話しかけた。


「いえ、いただきます」


三人はそう言うとテマソンがさしだしたアイスを受け取ると、おいしそうに食べ始めた。三人は食べながら改めてカリーナにアルバイト料は受け取れないと辞退した。それを聞いた碧華が話しに割り込んだ。


「あなたたち今時めずらしく律儀ね。そうだ妹さんの容体はどう?」


「はい!あっお礼がまだでした。ありがとうございました。あんなにうれしそうにしていたサーシャの姿をみたのは初めてでした。すごく弱気になっていたサーシャが前向きになって今度は自分で本を買いに来たいって話していました」


隣で若者の言葉を通訳してテマソンの日本語を聞きながら碧華は嬉しそうに言った。


「よかったわ。実はね、今日お昼までに本は無事完成したのよ。だから、二千冊販売できそうなのよ。ビモンド商会の印刷所でトラブルさえなければね」


そういった碧華にすかさずカリーナが言った。


「あら碧華先生、お言葉をかえすようで申し訳ありませんけれど、我が社はそんなヘマは一度もしたことはございませんわよ。二千冊と言わず三千冊発行予定ですわよ。二十四時間体制で印刷を開始しているんですもの。発売日までには確実に納品いたしますわよ」


カリーナの日本語はテマソンが訳さなかったため、碧華とテマソンにしか理解できなかったけれど三人もつられて笑顔になった。


「そうだわ。じゃあお三人方、このアルバイト料の代わりに今からでもやっているレストランにわたくしがご招待して差し上げますわ。そうだわ。テマソンと碧ちゃんもご一緒にいかが?お急ぎのお仕事がなければ、ご一緒しませんこと、すごくおいしいケーキもありますのよ。わたくし夕食まだですの?」


「えっいいの?ねえテマソン行こうよ、私ケーキ食べたい」


「碧華、あなたねえ、夜に甘いものばかり食べていると太るわよ。お腹周りやばいんでしょ」


「失礼ね、じゃあテマソンは行かなきゃいいじゃない。カリーナ私行く!」


 カリーナにそういうと、横で返事にこまっている三人に向かってポケトークを使って話しかけた。


「ねえ、あなたたちも行こうよ。こんなチャンスめったにないわよ。チャンスっていうものはね。目の前にきたら逃しちゃだめなのよ、チャンスはねめったにめぐってこないんだから来たらがっちりつかまなきゃ」


碧華はポケトークに向かって日本語でいいながら、三人の若者たちに向かって右手に持っているアイスを天に向かって掲げながら言った。

それでもどう返事を返せばいいのか三人は戸惑っていると、テマソンが助け舟をだした。


「仕事の上司からの誘いは受ける方が得な場合もあるのよ。最近の子は平気で断るらしいけどね、住む世界の違う人たちの話を聞くのは自分の世界を広めるのに役立つものよ。この彼女、あなたたち何者か知っているの?本当だったらあなた方とは一生話しすらできないぐらいすごい地位にいる女性なのよ」


テマソンの言葉でもどう返事をしていいのか既に固まっていた三人に碧華がポケトークで叫んだ。


「人間素直が一番よ、お腹のすいている人手をあげて!」


その言葉に三人は一斉に手を挙げた。その姿を笑顔でみた碧華とテマソンも手をあげ、最後に手を挙げたカリーナが五人に向かって言った。


「決まりですわね、じゃあアイスを食べたら行きましょうか」


カリーナがそう言うと、碧華は下に置いていたクーラーボックスを肩にかけると、離れた場所に立っているディオレス・ルイ社の正面玄関に立っているガードマンや、カリーナに雇われてこれから徹夜でプラカードを持って立っている警備員たちにも全員にアイスを配った。

今夜はうだるような暑さだったのだ。


それからカリーナは自分の車に五人を乗せると、夜の市内へと車を走らせ、高級レストランへと向かった。



その後の三人はというと、なんと食事をしながら改めて会話をしてすっかり三人を気に入ったカリーナが、三人を自分の会社に引き抜いたのだ。学校もろくにでていないはみ出し者の若者を雇ったカリーナに周りは反発したが、三人は会社の清掃という底辺の仕事だったが真面目に働きながら、カリーナの提案で仕事と勉強をこなし高校課程を勉強をやり直し、無事修了し、大学までカリーナの援助で卒業してみせた。十年後にはカリーナの有能な秘書としてその手腕を発揮するようになっていた。

時折三人は碧華の言葉を思いだしては碧華に会うたびにお礼を言う姿がみられた。そして、仕事もしないでプラプラしている若者たちを見かけるというのだった。


「チャンスというものはめったにめぐってこないのだから来たらがっちり掴まないとだめだよ。だけど、それには謙虚さも必要なんだよ」


そういって、自分たちが掴んだチャンスの話を話して聞かせるのだった。そして、恵まれない子供達の為に自分たちができる最善のボランティアをしたり勉強を無償で教える姿がみられた。



その詩集は予定通り発売が開始され、店頭販売限定のポストカード付詩集画集『雲』が発売されると当日発売分が数十分でソールドアウトになったが、それからもしばらくは品薄状態が続き、今まで以上の売り上げをほこるヒット作品となった。


漢字の打ち間違いを教えていただきましたので訂正させていただきました。ありがとうございました。

さ~て、次回からはグラニエ城祭の準備編へとようやく突入しま~す。

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