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チャーリーの戸惑い②

それから二カ月後、チャーリーはテマソンからの依頼の作品第一作目の四季『初夏』が完成した。


絵本も同時に店頭に展示され来店したお客様が好きに見れるようにしていたが、数日のうちに口コミが広まり、店内に人があふれてしまい、急遽その作品と絵本は会社の一回ロビーに展示ブースが設置され入場制限が施され、当初販売予定のなかったミニ絵画つき絵本が毎回発売されることとなった。それと同時にチャーリーの次回作にさらなる期待が寄せられるようになっていった。



チャーリーはそのニュースを聞かされたが信じられず、展示から一週間後ヴィクトリアと共にディオレス・ルイ社に様子を見に訪れた。そこでは展示品をひとめ見ようと大行列に並ぶ人の列を目の当たりにしてビックリしてしばらく言葉がでてこなかった。


その日の夜、チャーリーは生まれて初めて興奮して眠れないという体験をした。自分の作品を嬉しそうに見ている人達をみて、夢じゃないかと信じられなかったのだ。


生まれて初めて自分が大好きな趣味を活かしたことを仕事として依頼され、心の底から嬉しく思えて、毎日が楽しくて仕方がないのだった。


今まで、朝が来る度に今日はみんなの邪魔にならないように何をしようかと人の顔色ばかり気にして生きてきたが今は違う。仕事があるのだ、こんなに幸せでいいのか、今でも不安が付きまとう。


だから今まで与えられていた自分の仕事である毎日の教会でのお祈りや教会の掃除も自分の仕事だからおろそかにするわけにはいかないと、続けておこなっていた。


『お姉様は教会の掃除はもうしなくていいって言ってくれたけど、きちんとしなきゃ。テマソンの依頼が終わったらまた今までの生活に戻るんだから、この仕事を誰かにとられちゃったら私にできることが無くなってしまうもの』


チャーリーはそう独り言を言いながら、毎朝いつもより二時間も早く起き出し、今まで通り自分のすべきことをこなし、新しい仕事に集中することにした。

だけど、今までと違うことは、一日中一人で部屋にこもるのではなく、チャーリーの部屋にはひっきりなしに時間が空いた城のスタッフが顔を出しては、チャーリーの仕事を手伝うようになっていた。


中でも仕事が休みの日でも城に顔を出して、チャーリーのする作業を率先してやってくるスタッフが一人いた。


「ねえアマンダ、あなた今日は仕事が休みの日でしょ。休みの日まで来なくていいのよ。買い物とかお友達と遊びに行くとかあるでしょ。あなたはまだ若いんだから」


チャーリーは今朝も朝早くからチャーリーの部屋にきて、シャドーーボックスの写真を切り抜きをしているアマンダに言った。


「チャーリー様、私ショッピングには興味ないんです。休みっていっても家でゴロゴロしているだけですから、こちらにきてお手伝いをしている方が楽しいんです」


「でも・・・休日にきてもお給料ははいらないわよ。お休みの日は休まなきゃ」


「あら、大丈夫ですわ。好きできているんですもの。それにヴィクトリア様からおいしいおやつや昼食の差し入れが食べられますもの。仕事中だとそれはないでしょ。だから私お休みにお手伝いに来るの楽しみなんですよ」


「だったらいいんだけど」


チャーリーはそう聞いたものの、アマンダのことが気になるのだが、本人はいっこうに気にしていない様子だった。むしろ楽しそうにしているのだ。歳も孫ほど違う二人がいがいと気が合っているということに時折様子を見に来るヴィクトリアもほほえましく見守っているのだった。



そんなある日、ヴィクトリアはチャーリーの部屋で作業の手伝いをしにきていたアマンダに、普段のアマンダのしている城の給仕の仕事からチャーリー専属のアシスタントの仕事に変わる気がないか提案してきた。


「ヴィクトリア様、あっあのそれはどういう事でしょうか?」


 突然の提案にアマンダは驚きの声を上げて聞き返した。


「そうよお姉様、そんな事をお願いしたらアマンダが可哀そうよ。一日中私なんかと一緒にいろだなんて」


チャーリーも驚いてヴィクトリアに反論した。


「あのチャーリー様、私はチャーリー様とご一緒にずっとこの仕事をさせてもらえるならこんな嬉しいことはありません。でも・・・この仕事は期限付きですよね。それが終わったら、私の仕事はどうなるのでしょうか?」


「あらあなたが心配していたのはその事?それならチャーリーが元気なうちは大丈夫よ。それにあなたは優秀な給仕だもの、チャーリーがこの仕事が終わってもあなたが元の仕事に戻りたいって言ったらいつでも戻ってくれていいのよ」


「あのそれでしたら私はチャーリー様のお手伝いをさせて頂きたいです。でもチャーリー様がお元気なうちとはどういう事でしょうか?」


アマンダとチャーリーの二人は首をかしげながら聞き返した。するとヴィクトリがニッコリと微笑みを二人に向けながら答えた。


「あのね、チャーリーも聞いてちょうだい。実は、四季第一弾がディオレス・ルイ社に展示されてから一か月が過ぎたでしょ。なのにいまだにすごい反響なんですってあなたの作品。お客が同じものを制作してもらえないかって問い合わせが毎日のようにあるんですって」


「同じもの?」


「でもあれはテマソンに依頼されたものだから勝手に別のものを作ることはできないでしょ」

「そうよ、でもねもう一つ別の依頼があるらしいのよ」

「もう一つ?」


「そう、あなたに作り方を教えてほしいって依頼よ。作り方教室を開いてほしいって依頼も多いんですって」

「作り方教室?」


「そうよ、あなたレカンフラワーもシャドーボックスも資格を取得しに行っているでしょ。だから教えたいと思えば教えられるのよ」


「わっ私が教える?そっそんなことできないわ」


「あら大丈夫よ、あなた教え方上手よ。いますぐってわけじゃないのよ。あなたがやってみたいって気になったらいつでもできるってことよ。そうなったらあなた一躍先生よ。まっ今はテマソンの依頼をこなすのに忙しいからそれが終わってからゆっくり考えたらいいわ。そういうわけだからチャーリー、あなたは忙しくなるわよ。教室の依頼を受けたら、あなた一人では時間の管理とかできないでしょ。その時はアマンダ、チャーリーのアシスタント件マネージャーをしてもらいたいのよ。あなた大学で秘書の資格も取得しているんでしょ」


「はい、ですが私は会社務めが苦手で続かなかったんです」

「私達はラッキーだわねチャーリー、アマンダみたいな優秀な子めったに採用できないわよ」


「そうね・・・アマンダが私の秘書になって、色んな仕事の管理をしてくれるのなら私、教室をやってもいいわ。誰かに教えるのって苦手だけど、ちょっと最近面白いなって思っていたの。ねえアマンダ、私を手伝ってくれる?私接客とか管理とかも苦手だけど・・あなたが手伝ってくれるならやってみたいんだけど」


「わっ私・・・ぜひさせてください!私夢だったんです。そういう仕事・・・頑張って覚えますから」


「あら楽しみだわ。まだテマソンの依頼が始まったばかりだから一年かかるでしょうからその間に、そうだ

わ、あなたも資格取りに行ってきなさい。費用は私が出してあげるわ。そうしたら先生が二人になるから教室も大盛況になるわよ」


「えっいいんですか?」


「そうね、お姉様いい考えだわ。アマンダにも勉強してきてもらえると、頼もしいわ。素敵ね、ワクワクしてきたわ。そう思わない?アマンダ」


チャーリーはアマンダに嬉しそうに話しかけた。アマンダも夢じゃないかと口走りながら、二人で楽しそうに会話しながら、また作業に取り掛かっていた。

そんなチャーリーの様子を見ながらヴィクトリアは思うのだった。


『チャーリー、あなたは変わったわね。碧ちゃんと出逢うまではいつもビクビクしていたのに、今は全くその面影がないわ。あなたがそんな風に笑うなんて私知らなかったわ。碧ちゃんのおかげね。碧ちゃんには本当に感謝してもしきれないわ。私が生きている間にチャーリーのこんな素敵な笑顔がみれるなんて思わなかったわ。私も負けていられないわね。そうだわ、今日はタオちゃん家に遊びに行こうかしら私も女子トークしたくなっちゃったわ』


ヴィクトリアはそういうと二人を残して自分の部屋へと戻って行った。

チャーリーの一日はそうして終わっていくのだ。もうヒステリーを起こして叫んでいる暇は少しもなかった。毎日があっという間に過ぎていくのだ。人生を悲観している時間などなかった。


『忙しいってなんて幸せなんだろう。私はこんなに幸せでいいのかしら?神様の罰がおきないかしら』


チャーリーは毎朝、マティリアの像に向かって祈りを捧げるのだった。


『どうかこの幸せがずっと続きますように』と


それから一年後にはチャーリーはレカンフラワー教室を行うようになり、多くの場所から出張教室の依頼が殺到し、毎日忙しい日々を過ごすようになっていくのだった。


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